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HEADLINES関西大学の「今」

現在、将棋界は4人で8つのタイトルを奪い合う「4強の時代」と呼ばれている。若手棋士が台頭する群雄割拠の様相の中、二大タイトルを獲得し、令和初の名人・竜王となるなど、トップ棋士として君臨しているのが豊島将之竜王(叡王)だ。 豊島将之竜王(叡王)は2019・20年の獲得賞金ランキング1位。将棋ソフト(AI)研究のパイオニアで、序盤・中盤・終盤すべてに隙がない棋風のオールラウンドプレイヤーとして知られている。 2021年3月。学校法人関西大学の芝井敬司理事長と、関西大学第一高等学校の卒業生である豊島将之竜王(叡王)との特別対談が実現した。(文中敬称略)

天才少年と呼ばれ、高校生でプロ棋士へ

- 芝井
- 幼い頃から「恐るべき天才少年」と呼ばれていらっしゃった豊島竜王ですが、将棋を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
- 豊島
- 4歳の頃、テレビで将棋を見て興味を持ちました。詳細は覚えていないのですが、「何秒以内に打たないといけない」という秒読みのルールが独特の緊迫感を作っていて、そこに関心を持ったのが始まりですね。母が将棋のルールを知っていたので、教わりました。
- 芝井
- そうだったのですね。奨励会にはいつ頃から所属することに?
- 豊島
- 9歳で奨励会に所属しました。年齢関係なく、将棋が強ければ認めてもらえる場所なので、勝負の厳しさもありましたが、楽しい思い出も多いです。
- 芝井
- なるほど。その後、関西大学第一高等学校に進学されたのは何か目的があってのことでしょうか?
- 豊島
- 学業ももちろんですが、高校3年間でしっかりと「将棋に集中したい」という想いがありました。その点、関大の併設校である関大一高なら、大学受験に時間を割かずにすみます。親の勧めもあって、関大一高への進学を決めました。
- 芝井
- そうでしたか。そして、高校生でプロ棋士になられたんですよね。
- 豊島
- はい。高校2年生の時でした。入学前に思い描いていた通り将棋に打ち込むことができましたし、勝率も7割ほどでしたので、関大一高は私にとって良い環境だったと思います。
- 芝井
- ありがとうございます。それは良かったです。


「将棋一本」の決意と、誰もしていないことへの挑戦
- 芝井
- 進学した関西大学文学部では、授業と将棋の両立はやはり大変でしたか?
- 豊島
- 新しい友人ができて、授業も面白かったのですが、王将戦というリーグに参加したことを機に、「将棋一本でやっていこう」という意識が強くなりました。王将戦で強い棋士と対局したことで、やりがいや手応えを感じた部分が大きいですね。将棋の世界では、高校や大学へ進学せずに棋士として将棋一本でやられている方も多いので、私自身は大学を中退することが特別なことだとは思いませんでした。
- 芝井
- そうでしたか。大学というと、卒業して社会へ出て行ったらもう戻ってこない場所というイメージがありましたよね。でも最近はリカレント教育、つまり学び直しの場としても整備を進めています。18歳〜22歳に限らず、高等教育を受けたい幅広い年代の方に、学びを提供したいと考えていますので、豊島竜王もぜひ長い人生で「もう一度帰ってこられる場所」として考えてみてください。
- 豊島
- そうなんですね。学び直しで入学される方は多いのですか?
- 芝井
- 徐々に増えてきています。社会の変化のスピードが激しくなっていると言われますが、学問もどんどん変化しています。過去に学んだことは古くなってしまう。だから今後さらに、リカレント教育のニーズが高まると考えています。
- 豊島
- 常に新しいものを学び続ける、ということですね。私自身も、新しいものを取り入れたことが転機になったので、その重要性はよくわかります。
- 芝井
- 将棋ソフトでの研究ですね。豊島竜王は将棋ソフト研究の先駆的存在だと伺っています。
- 豊島
- ええ、将棋ソフトの研究を始めた頃は、同様のことをする棋士はほとんどいませんでした。当時は20歳代前半で、本来なら実力が伸びていかないといけない時期。けれど、なかなか伸びている実感がなく焦っていました。「何か新しいことに取り組まなければ」と考え、将棋ソフトとの対局や研究を始めたんです。対人での研究を一旦やめて、完全に将棋ソフト研究の方へ転換しました。
- 芝井
- 思い切ったことをされたんですね。
- 豊島
- すぐに結果が出せたわけではありませんが、序盤戦術でリードでき、レーティング(※)でも上位になることができました。



※「レーティング」とは
過去の対局成績によって各棋士の実力を示した、非公式の指標。
AI活用は、ますます一般的に

- 芝井
- 今では、多くの棋士がAI研究をされているようですね。
- 豊島
- そうですね。今は他の棋士も同じことを考えているので、序盤でリードするということがなくなってきました。だからこそ、学び続ける・研究し続ける必要があると思っています。
- 芝井
- なるほど。AIに関連した話をさせていただくと、関西大学ではデータサイエンス教育プログラムが今年から始まりました。
- 豊島
- この春からですか。
- 芝井
- ええ。これまでも特定の学部では扱っていた内容ですが、文理問わず、全学生を対象とすることにしたんですね。その背景としては、今後、AIやデータサイエンスの知識・技術は誰もが持つべき基礎的な能力になっていくという考えがあります。将棋界と同じように、AIの活用はますます一般的になるでしょうね。
- 豊島
- そうですね。例えば将棋ですと、自分がどの程度の実力になってから将棋ソフトの研究を始めるべきか、方法論のようなものはありません。どのタイミングで、どのように活用すれば有効的に実力を伸ばせるのか興味があります。
- 芝井
- なるほど、面白いですね。
- 豊島
- 将棋に限らずあらゆる分野で、"人間の力を伸ばすためのAIの活用法"が見つかると面白いですね。将棋ソフトが人間の力を超えたとしても、人間がそれを使って上達できたら、やっぱり嬉しいですから。
- 芝井
- そうですね。AIは戦う相手ではなく、人間の力を磨くためのツールだと捉えられますね。お言葉を聞いて、豊島竜王が本当に将棋を好きだということがよく分かりました。

好きなことや、一生懸命になれることを見つけてほしい
- 芝井
- ところで、今の大学生・高校生に向けて、何かメッセージを送るとしたらどんなことがありますか。
- 豊島
- そうですね、やはり好きなことや、自分が一生懸命になれることを見つけてほしいです。
- 芝井
- 豊島竜王のように、好きなことを見つけて、とことんやってみること。それで結果が出ても出なくても、人間としての幅が広がっていくことに価値がありますね。豊島竜王ご自身の、今後の抱負などもお聞かせください。
- 豊島
- 私は30歳を超えているので、ここから強くなるのは一般的には難しいとされています。それでもやっぱり、食らいついて、タイトル戦に出場し続けられるようにしたいです。棋士としての生活は、勝負に向けた研究や自己管理の徹底が必要ですが、辛いことよりも楽しいことの方が多いと思っています。
- 芝井
- すばらしいですね。日本の18歳人口が減少していく中で、大学もこれまで通りのあり方では成長することが難しくなっていきます。今後、教育・研究機関としてどのような価値を提供できるか。先ほど触れたデータサイエンス教育はもちろんのこと、SDGsやカーボンニュートラル(脱炭素社会)といった社会課題への対応など、さまざまな取り組みをしていきたいと考えています。本日の対談を通じて、豊島竜王から宿題をいただいたような気持ちです。ありがとうございました。
- 豊島
- ありがとうございました。


- 豊島将之さん/将棋棋士(2009年関大一高卒業、関西大学文学部中退)
- 1990年生まれ。愛知県出身、5歳で大阪へ転居。幼少期から将棋をはじめ、16歳でプロ棋士に。2014年電王戦で将棋ソフトと対局し勝利。2018年に初タイトルを獲得すると、史上最速のスピードで三冠を達成。対談時は竜王と叡王の二冠保持者。
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