KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

「100年後の未来」を大阪・関西万博会場で演じる
~学窓座の挑戦~

関大人

関西大学文化会演劇研究部 学窓座


 「距離バグ(出演者同士の距離感が不自然)じゃない?」「いや、でも......。その位置にしよっか」

 千里山キャンパスの有鄰館の会議室。いつも稽古場として使っている空間で、学窓座のメンバーが、慎重に舞台での立ち位置を確認していた。想定しているのは大阪・関西万博のステージだ。万博会場、それも「屋外」という空間はいつもとは条件がかなり違う。戸惑いながらの模索が続く。

250608_banpaku5.png
学窓座の稽古場風景

いつもと違う環境で

 6月8日の大阪ヘルスケアパビリオンの「リボーンステージ」で、「100年後の未来」をテーマにこのパビリオンで未来技術を展示する企業の取り組み(抗菌技術・冷凍技術など)を素材にした演劇を披露する。優れた技術・研究をより多くの人に知ってもらうことを目的に企画されたもので、「演劇という手法で表現してくれる団体はないか」との呼びかけに学窓座が応えた。
 学窓座は同じ演劇研究部の学園座とともに創立から約80年の歴史を持つ。関西の学生劇団の中でも屈指の歴史の長さを誇る「老舗」だ。その時々の部員の個性によって芸風は変わるが、最近得意としているのは既成の台本を使った会話劇。比較的こじんまりとしたほの暗い空間で、スポットライトを受けながら鋭く知的な会話を交わすスタイルを得意としている。一方、今回のステージは屋外に位置しており、広く、明るく、静寂はまず期待できない。かなり異質な場所でのチャレンジとなる。

250608_banpaku1.png
4月23日に千里山キャンパスKUシンフォニーホールで行われた文化フェスティバルの様子

継続がもたらしたチャンス

 だが、メンバーは前向きだ。部長の西村和祥さん(システム理工学部3年次生)は昨年10月に万博への参加の話を受けたときを振り返り、「びっくりしたが、チャンスだと思った」と話す。「これまでは一から台本をつくることもあまりなく、いつもと全く違う。そこに挑むことで学窓座の活動の幅が広がることになると思った」。
 脚本・演出で参加し、出演もする荒川優花さん(社会学部2年次生)は、「情熱を持って続けていれば、こういう貴重な機会が得られるんだなあ、と思いました」と喜びを噛みしめた。劇はリボーンチャレンジに参加する企業から資料提供を受け、その情報を基に台本をつくり、途中段階で企業側と顔合わせを兼ねて打ち合わせをする、というプロセスを経て創り上げた。ただ「企業の方々からは『自由な発想で考えてほしい』『みなさんの自由にやってもらって良い』という言葉をいただき、自分たちに委ねられているんだなあ、と実感してドキドキした」という。

250608_banpaku6.png
左から荒川優花さん、西村和祥さん、多賀水柚さん

未来の人物に命を吹き込む

 台本は部員が手分けして手掛けた。台本に盛り込んだ新技術は、「環境負荷に耐える電池」「未来の細菌対処法」「冷凍保存の新技術」「宗教上の制約に対応する食品」と多様で、簡単な言葉で説明できないものもある。だが西村さんは「言葉で説明すると難しいことでも、さまざまな表現方法で伝えられるのが芸術の良いところ。100年後の未来を表現できる、とワクワクしています」と話す。

 このプロジェクトには他大学の演劇部員などもオーディションを経て参加。いつものメンバーだけではない混成チームで挑む。稽古を重ねて、6月8日の本番が迫ってきている。俳優として参加する多賀水柚さん(文学部2年次生)は「万博に演劇部の出番があるなんて、声をかけてもらえるなんて、とびっくりしました」と当初を振り返ったうえで、「万博会場で『100年後の未来』という壮大なテーマで上演することで、普段演劇に触れない人にも興味を持ってもらえる機会になるのでは。俳優としては登場人物に命を吹き込むことで、そこに参加することを楽しみたい」と話す。

 6月8日、未来へ向かう足音を描いた公演『これから、どうする?』が幕を開ける。




 【演目・題材にした未来技術】

●きみとそらへかける…再生可能などこでも電池(株式会社アイ・エレクトロライト)
●Slept away…"凍る"をコントロールする技術「iConTech」(株式会社KUREi)
●扶養家族…セミから生まれた撥水・抗菌素材「ナノスパイク」(株式会社ナノスパイク)
●たこ焼き食べようや…ムスリムスマイルな情報を発信する「Touris Muslim」(株式会社ゴエンジン)