プロの舞台で輝くために~逸材ピッチャー金丸夢斗の信念と覚悟~
関大人
文学部4年次生 金丸 夢斗 さん ※学年は取材時
2024年10月24日、関西大学野球部のエース投手・金丸夢斗さんは、プロ野球ドラフト会議で4球団から1位指名を受けた。逸材を射止めたのは中日ドラゴンズ。翌日に来学した井上一樹監督から指名挨拶を受けた。関西大学入学当初から活躍し、3年次生の時には日本代表「侍ジャパン」に選出。ドラフト会議では注目選手として脚光を浴びる中、渦中のエースは冷静沈着に先を見据えていた。
1年次生でリーグ戦デビューを果たし、2年次生よりエースとして活躍し、MVやベストナインなど数々のタイトルを獲得。着実にレベルアップを重ね、早くからプロのスカウトの注目を集めてきた金丸さん。2024年3月には学生ながら日本代表「侍ジャパン」のメンバーに選出され、先発した試合では2回を無安打無四 球4奪三振と、プロ顔負けの実力を見せた。
投手としての強みは、力強いストレートとその制球力。力みのないフォームから放たれる最速154㎞/hの直球は、寸分違わずキャッチャーのミットに収まる。「打者の様子で、三振が取れるかどうかが分かる」と言うほど、マウンドでは極めて冷静だ。「大学ナンバーワン投手」「プロ入り確実」と評価されるまでに金丸さんを成長させたのは、徹底したトレーニングだ。「自主性を重んじる練習が自分に合っていた」と、関西大学野球部の育成方針に惹かれた金丸さんは、入学当初からユニークな強化方法を実践してきた。その一つが、ストローをくわえながら行うトレーニングで、「腹圧を意識して、常に呼吸を一定に保つことが目的です。緊張したり力んだりしそうな時でも、まずは呼吸を整えることで安定したピッチングが可能になります」と話す。
普段から揚げ物や、糖質が含まれる飲み物は避け、試合前は生魚、生野菜も食べないなど食事管理も徹底している。自分に必要な栄養素を検査し、栄養補給のサプリメントにもこだわった結果、現在身長は177cm、体重は77kg。下半身がどっしりとした体躯は自己研鑽の賜物だ。
「中学校を卒業した当時の身長は 160cmに満たず、体重は50kgぐらいしかありませんでした」と振り返る金丸さん。小学校1年生から野球を始めたものの、高校までは今のように脚光を浴びる選手ではなかった。進学した神港橘高校でも1年生の秋から公式戦のマウンドに立つようになったが、決して際立った投手ではなかったと言う。しかし「速いストレートを投げたい」という目標に向かって、2年生の秋から本腰を入れて体作りに着手。3年生の春の大会に臨むべく、筋力トレーニングに励み、食事量も増やした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大という思い掛けない事態に見舞われる。試合や練習が中止となり、登校すら制限される状況に直面するが、金丸さんは「今できることをしよう」と、早々に気持ちを切り替えた。
コロナ禍は、毎日自分との戦いだった。「自主トレをするんですが、どこまでやれば良いのか基準が分からなかった」。朝の走り込み、午後からの筋力トレーニングも、部活動であれば監督やコーチが指針やアドバイスをくれるが、それがない。自分の限界までやることに決め、毎日へとへとになるまで練習に励んだ。また、食事や睡眠などにもより気を配るようになり、その成果はすぐに表れた。「体も大きくなり、明らかにコロナ前とは違う感覚が身に付いていきました。速球も140㎞/h台を計測するようになり、コロナ禍で成長できたのは間違いないと自信につながりました」と語る。自ら課題を見つけ、自分に合った練習や生活管理に取り組む姿勢は、逆境下で培われた。
今日の金丸さんを語る上で欠かせない人物が三人いる。一人目は、関大野球部OBで現在はアドバイザリースタッフを務める山口高志さんだ。高校時代から金丸さんを見守り、「大学で成長すればプロで活躍できる」と期待をかけてきた。「現在のピッチング フォームへの変更を提案してくださったのも山口さんです。投手としての技術、人としての心構えも伝授していただきました」。プロで名を馳せた速球派投手の教えは、金丸さんの胸に深く刻まれている。
恩師の山口高志さん(右)と
二人目は父の雄一さんだ。高校野球で審判を務めていたその背中を見て、金丸さんは野球へのあこがれ を抱いた。「僕の野球人生は父とのキャッチボールから始まりました」。雄一さんは2024年に甲子園の審 判を引退。ドラフト後には「良かったな。でもこれからがスタートだぞ」と、夢を叶えた息子に声を掛けた。
三人目は母の淳子さん。生活面でのサポートで金丸さんの成長を支えてきた。金丸さんの身体作りには、淳子さんの栄養を考えた食事が欠かせない。「母の作るグラタンが一番好きです」と金丸さん。「両親には感謝しかない。プロ野球選手として自立した姿を見せたい」と語った。
大学最後の1年間で72イニングを投げて自責点0、公式戦通算 成績は20勝3敗、防御率0.83と圧倒的な成績を残した金丸さん。「大学で結果を残せて、仲間にも恵まれた」と振り返る。プロの世 界への挑戦に迷いはないが、慢心もない。「必ず壁にぶつかる時が来る。その時に平常心で対応できるかが重要」と語る。困難を乗り越えることで成長すると信じ、「1年目から一軍で10勝以上し、日本を代表する投手を目指す」と力強い目標を掲げた。
理想の投手像については「チームを勝たせる投手」と即答。「ツーアウト満塁で三振を取ったり、ワンアウト一塁で併殺にしたり、 次の攻撃に良い流れを生む投球がしたい」。夢の実現に向けて金丸さんの挑戦が幕を開ける。