吉本興業所属 芸人 ジャルジャル
/後藤 淳平 さん(経済学部 2006年 卒業)
/福徳 秀介 さん(文学部 2006年 卒業)
ネタ8,000本公開を目標に毎日配信するYouTubeチャンネルの総再生回数は10億回超え。コロナ禍を逆手に取り、独特の世界観でネタを披露するジャルジャルの後藤淳平さんと福徳秀介さんは関西大学での4年間をどのように過ごしてきたのか。関西大学を舞台にした福徳さんの小説デビュー作は実写映画化も決定。2025年4月に公開を予定している。コントや小説にかける思いや、関大生だったからできたことを率直に語ってもらった。
ネタ帳感覚でYouTube配信
─二人が最も力を注ぎ、一番居心地が良い場所という単独ライブは、コロナ禍で開催できない時期があった。
- 後藤さん
- 満員のお客さんの前でネタができることが、いかに幸せなことなのかを実感した数年間でした。YouTubeチャンネルを通じてネタを披露することはできましたが、お客さんを前に舞台でやるのと、動画で配信するのとは全く別物です。
- 福徳さん
- お客さんの前でやる気持ち良さは分かっていました。それが当たり前ではないこと、世の中何が起こるか分からないことを痛感しました。
─YouTubeチャンネル「ジャルジャルタワー」では8,000本を目標に、2018年2月から現在に至るまで、毎日1本新ネタを公開している。配信にかける思いは?
- 福徳さん
- 思いみたいなものはぶっちゃけ何もないですね(笑)。毎日公開して頑張っているように見えるのですが、(収録での)稼働は月2回とか。楽しくのんびりやらせてもらっています。
- 後藤さん
- 配信の時は(リアルタイムで)反応がないのでだいぶ緩めにやっちゃいます。お客さんの前に立つと滑りたくないので......。ライブと配信のネタとは全然違いますね。
ジャルジャル 後藤 淳平 さん
─「ジャルジャルタワー」の登録者数は2024年10月時点で約152万人。既に3,000本超の動画が公開されており、総再生回数は10億回を超えている。驚異的な数字だが、特に数字を伸ばそうとする欲はないそう。
- 後藤さん
- 単独ライブで採用されなかったネタを出している感じです。没ネタだけどそのまま捨てるのはもったいないのでYouTubeに出して成仏してくれたら、くらいの気持ちです。真っ白なスタジオで、定点で撮影してネタをやるだけの地味なチャンネルなんで、「まあ誰も見てくれないだろうけど......」と、淡々と公開していたら、あれよあれよと見ていただけるようになりました。予想外でしたね。
- 福徳さん
- 僕らはネタ帳がないんです。(かつては)単独ライブの映像などを見て思い出していたのですが、YouTubeはある意味ネタ帳の感覚でアップしていました。アップしたら思いの外視聴されてびっくりしたんですけど。ネタ帳代わりという意識は今も変わらず、欲張ることなくやっている感覚です。
ジャルジャル 福徳 秀介 さん
─別のYouTubeチャンネル「ジャルジャルアイランド」では、コロナ禍で対面形式が制限される状況を逆手に取ってオンライン会議システムを使ったネタも多数公開してきた。中でも「リモート面接でたぶん寝転んでる奴」「しょぼい就活生だと思ったらすごい奴」など、就活生をテーマにした名作が少なくない。だが、実際は二人とも就活面接の経験はゼロだ。
- 福徳さん
- (実際の面接がどのように行われているのか)リサーチはしないです。だからだいぶセリフがペラい(薄い)。
- 後藤さん
- ほんま雰囲気です。僕は(ネタでは)面接を受ける側が多いんですけど、実際の就活生の緊張感っていうのは正直分からないですね。福徳 僕は面接する側なんですけど、ちゃんとした企業に勤めている義理の兄から「限りなく現実に近い。めちゃめちゃうまいね」って言われました(笑)。
─継続してネタを公開するのは並大抵のことではないと思うが、高校時代の二人が出会ったラグビー部で鍛えた精神力も関係しているのだろうか。
- 後藤さん
- ラグビーは精神力を鍛えられましたね。しんどい時に具体的にラグビーを意識することはないかもしれませんが、心の奥底ではあるかもしれない。
- 福徳さん
- 解散するコンビの話とか聞いていると、片方がネタ合わせを嫌がるということもあるんですけど、僕らはネタ合わせを嫌だと思ったことは今まで一度もありません。ラグビーの練習をやっていたお陰だと、大げさでもなく思いますね。
舞台は関大 恋愛小説が映画化
─福徳さんは2020年に小説デビュー作『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館)を発表した。あくまでフィクションの恋愛小説だが、主人公は関西大学に通う大学生という設定だ。
- 福徳さん
- (小説の舞台は)最初は関大ではなく、ずっと架空の大学という設定で書いていたんです。ただ編集者に「大学のキャンパスのイメージあるの? 図面は書いているの?」って言われて、(架空の大学では)それは無理となり、実際に行っていた関大を後から練り込んでいった感じです。
- 後藤さん
- 福徳が「近い人間に読まれるのが恥ずかしい」と言うので、僕は読むのはちょっと控えています。
─小説は、若者の読書離れに歯止めをかけようと関西大学の学長が大手書店とコラボした企画「新入生に贈る100冊」(2024年度版)にも選ばれている。
- 福徳さん
- しょせん物語で、あくまでも設定が関大というだけなんですが、人間が「命」に直面したときの僕なりの本音を書きました。幸せな日々は突然ピタッと止まったりするのを意識しながら今を大切にしてもらえたら、という気持ちがあります。
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館 2020年)
─さらに、小説は大九明子監督によって映画化され、2025年4月に公開される。一足先に試写を見た感想は?
- 福徳さん
- めちゃめちゃ良い映画だったので驚きました。映画化が決まったという話をもらった時は「微妙な映画ができるかも」みたいな焦りがあったんですけど、監督・脚本が大九さんに決まってから「もしかしたら良い映画になるかも」って思いました。
─小説では冒頭の「雲は空にしかいられない」をはじめ、主人公の男子大学生・小西が亡き祖母からかけられた格言めいた言葉が随所にちりばめられているのが印象的だ。だが映画ではそれらは影を潜める。
- 福徳さん
- 大九さんとの初めての打ち合わせの時に(そういう言葉を映画では使わないという点で)一致しました。大九さんが「格言系は小説だとしっくりくるんですけど、映画では伝わらないんですよね」と言われ、腑に落ちるものがありました。
大学生活は滑り出しが大事
─二人にとって大学の思い出といえば何だろうか。
- 後藤さん
- ほとんどがネタ作りしていた思い出で、授業の記憶が薄いですね(笑)。
- 福徳さん
- 僕は授業に関しては最初、フランス語は熱心だったんですが、難しすぎて苦労しました。心理学と哲学以外は正直なところ、単位を取るために出席していました。ネタ作りは片方に授業があると、授業がない方が必死で「サボろうぜ!」と誘いだすことはありました。僕は比較的心が強くて、誘いに乗らず「ごめん、授業行くわ」ということがあったんですけど、後藤は何回も口説き落とせて授業をサボらせました(笑)。
- 後藤さん
- だから授業の記憶が薄いのかもしれない。
- 福徳さん
- 関大での学生生活は楽しいことが多すぎて、僕らもそうなんですけど遊びに熱中しちゃう学生も多いと思うんですね。キャンパスの中で信じられないぐらい遊びましたし、4年間飽きることがなかった。
学生時代のジャルジャルのお二人
─関西大学のおおらかな雰囲気を満喫していた二人。でも卒業した今だからこそ、分かることがある。
- 福徳さん
- 大学を卒業することが目的で入学する人もいるかと思うんですが、授業に関しては積極的にならないと100%楽しむことはできない。意味が分からない講義もある中、僕は哲学と心理学だけは妙に面白かった。日常の当たり前のことを理論立てて説明するのが面白かったんです。熱心に聞いたら面白い授業がいっぱいあったんだろうなって、今になって後悔することはありますね。
- 後藤さん
- 大人になってから大学に入る人の気持ちが今はすごく分かります。当時は「何でこのおじいさん、もう一回大学に入り直して授業を受けているんだろう?」って思っていましたが。僕は経済学部でしたが、今もう一度、マクロ経済学、ミクロ経済学、現代資本主義論とか、前のめりに授業を聞きたいなという気持ちがあります。でも「後々そういう気持ちになるから今のうちから興味を持って授業を受けたほうが良いよ」って言われても(学生には)むちゃな話ですけどね。
─逆に二人とも関大に行っていなかったらできなかったことは?
- 福徳さん
- (高校生の頃)僕らは正直、大学に行かないつもりで「大学行かずにお笑いやろう」って二人で決めたんですけど、お互いの親同士が電話で「絶対に行かせましょう」という話をしているのが聞こえてきて、無理やりみたいな感じで大学に行くことになりました。でも、大学に行っていなかったらお笑いはできていなかったと思うんです。(生活のために)バイトもそんなにしっかりしなくてよかったし、ネタ合わせの環境もありました。大学に行くことによってできることが実は増える。
─先輩として、関大を目指す高校生や現役の大学生に伝えたいことがある。
- 後藤さん
- (相方以外の)友達がゼロだった僕が言っても説得力ないと思うんですけど、友達を作ってほしいですね。ドラマに出てくるようなキャンパスに、一人ぼっちでいると寂しくなっちゃうんですよね。サークルなりクラブ活動に所属して話し相手を1人でも作ることは大事かもしれないです。そうしないと情報が回ってこないので。僕は情報ゼロで試験に臨んでいました。友達がいればノートをコピーし合えますけど、僕はそれができなかった。1年次生の滑り出しは大事ですね。大学生活は大いに楽しんでもらいたいんですけど、留年はしないように(笑)。
- 福徳さん
- 滑り出しは大事なんですけど、そこで頑張りすぎてしまう人もいる。結局はほんまに仲良い人としか仲良くなれない。絶対に無理はしないほうが良いです。ありのままの姿で大学生活を楽しんでほしいです。
ライブで息抜きしてほしい
─コロナ禍も収束し、再びお客さんの前でライブができるようになった二人。最後にジャルジャルとしての次なる目標を聞いてみた。
- 福徳さん
- 年に2回開いている単独ライブをやり続けられたら良いなと思います。
- 後藤さん
- ライブ以外のことをやるにしても、全部が単独ライブの集客につながるように、という意識で活動をしています。やっぱりライブにお客さんが来てほしいので。
- 福徳さん
- 大学生活が終わって社会人になると「思っていたのとちゃうな......」と感じることもあると思います。そんな時こそジャルジャルのコントを見て、1秒でも何かを忘れられる時間ができればうれしいですね。「笑え」とは言わないので、嫌なことを忘れられる時間をこれからも作っていきたいです。
- 後藤さん
- いろいろと忙しいことはあると思うんですけど、隙間を見つけて僕らのライブに来て息抜きをしてくれたらうれしいです。
出典:関西大学ニューズレター『Reed』79号(12月20日発行)
- ジャルジャル
- 関西大学第一高等学校ラグビー部で知り合った二人が、関西大学在学中の2002年、吉本興業NSCに25期生として入学。03年4月にコンビ結成。2015年、2018年の「M-1グランプリ」で第3位となり、「キングオブコント2020」で王者に輝いた。
- 後藤 淳平 ─ ごとう じゅんぺい
- 1984年、大阪府生まれ。2006年、関西大学経済学部を卒業。