失敗しない人生こそが 最大の失敗
関大人
思い描く未来すべてに迷わず挑んでいく
フラワークリエイター 森 俊弥 さん(経済学部 2008年 卒業)
駐車場の一角に張ったテントショップで花を売り始めたのは大学3年次生の時。現在は地元・江坂に店舗を構え、今やその店名を冠したSNSの総フォロワ―数は100万人を超える。自身と同じクリエイターたちをサポートしていく会社も立ち上げ、さまざまな業界に新しい風を巻き起こしている森さん。フラワークリエイターでありインフルエンサーでもある多忙な毎日の合間を縫ってお話をお聞きした。
もともと日常的に花が周りにあったわけではない。「花が好きだから花を扱う仕事がしたいと花屋を開業される人が多いのですが、僕はもともと興味のあったおもてなしの仕事につながる商材を探していて、この道に出会いました」。
就職前に社会の仕組みを体験したいと大学在学中に起業した。初めはスーパーマーケットの提携駐車場にテントを広げた簡易店舗だったが、5,000枚のチラシを配布したかいもありオープン時の特売セールには買物客の大行列。その後も客足が途切れることはなく、連日花鉢や花苗まで売り切れるほどの人気店になった。
当初は就職までの仕事のつもりでいたが、オープン翌年に森さんの意識を変える出来事があった。「母の日に花束を購入いただいた大学生が、普段あまり会話もなかった母親にプレゼントしたら、互いに思いが溢れて2人で号泣したと後日教えてくれて。僕には何気なく作った一つのアレンジメント、そこに人の人生を揺さぶる価値があると気付かされました」。
この仕事にやりがいを見いだした森さんだったが、それまで順調だったビジネスの雲行きが怪しくなる。出店していた駐車場の管理会社が変わり、撤退を余儀なくされる事態に。閉店の道もあったが、顧客を十分に獲得していると自負していたため、隣接エリアの東三国に店舗をオープン。今後の事業も見据えて店名を「MORIYA」に変え、再スタートを切ったのだ。
ところが予想に反し、客足は一気に遠のき大赤字に。今まで足を運んでくれていた顧客には生活圏内の店だから選ばれていたと分析ができていなかった自分の甘さゆえの失敗だった。
東三国の「MORIYA」はわずか10カ月で閉店。しかし、すべてがダメになったわけではなかった。当時フラワー業界ではまだ珍しかったオンラインショップでの販売が好評を博し、軌道に乗り始めたのだ。アレンジメントや花束、心に響くギフトを届けられれば全国に顧客ができると実感。思い切って店舗販売をやめ、フラワーギフト専門のオンラインショップに舵を切ることにした。
心機一転、地元の江坂で店舗販売をせず、ギフトを全国へ届けるベースキャンプを構えた「MORIYA」のオンラインショップは好調そのものだったが、攻めの姿勢を崩さず新たな展開に出た。
「『MORIYA』の花がいい、『MORIYA』で買いたいと選んでもらえるようにするため、ブランディングすることにしました」。まずは他店との差別化を図るため、完成したギフトの画像ではなく、制作過程のショートムービーをソーシャルメディアにアップ。さらにSNSに限ってはプロポーズ用ギフトに特化した投稿を重ね、「プロポーズ=MORIYA」を印象付けることにした。
このアイデアが大ヒット。初投稿から注目を集め、いわゆる "バズった" 状況に。半年でフォロワーは5万人超え、フォロワーが増えれば必然的に注文も増えた。現在もプロポーズ用ギフトの注文が圧倒的に多く、思い描いた「プロポーズ=MORIYA」の定着化に成功した。
TikTokやInstagramなど数々のSNSを巧みに活用し、アカウント開設から4年経った今では総フォロワー数100万人を超える人気ぶり。やがて同様にインフルエンサーとして活動するクリエイターの仲間も多くできた。
「僕は販売する商材が手元にあるため "バズる" ことが自分のビジネスに直結します。けれど若いクリエイターたちに話を聞くと、拡散を依頼してくる発注企業とクリエイターをつなぐ仲介業者も存在するので、おのずと利益は減り、個々の発信力も消費されている状況。危機感を感じましたね」。
クリエイターが集まれば企業と団体交渉もしやすく、個々で動くよりコストも削減可能。大勢でイベントを開催すれば各々のファンを多数呼ぶことができ、社会的にもっと活躍できる場を増やせると、2022年に「一般社団法人Creator Agency」を立ち上げた。
最初に取り組んだのは万博記念公園で開催した『SNS EXPO2023』。インフルエンサー100人が集結し、各ブースで物販やワークショップを行い、インフルエンサーたちのステージも披露した。入場者は2万人を超え大盛況。このイベントが新しい仕事につながったというクリエイターの声も多く、効果は十分だった。
2024年8月には第二弾イベントとして『Creator Festa』を東京で開催。ファンが集まるイベントではチケットの売れ行きは好調で、企業とクリエイターをマッチングするイベント『CREATORS CONNECT』も行った。
起業した大学時代の話を伺うと、仕事が多忙を極めた時期も友人に店を任せて熱心にゼミへ通っていたそう。その中で教育や哲学、経営など多様な本を読み、その時得た知識が今でも仕事に役立っているという。
「ゼミの方針は"当たり前を問い直す"。中澤信彦教授はよく『常識を疑え』とおっしゃっていました。一般的な花屋でなく自分らしくやりたい花屋でいいと思えたのも、この言葉があったから」。
自分の好きなものを売る、利益を上げることよりも、「誰かにとってなくてはならないサービスでありたい」。ギフトに注力する森さんが思い描いたビジネスのベースにはこの思いが今も力強くある。
「MORIYA」「Creator Agency」と二足のわらじだけでも多忙に思えるが、アグレッシブな森さんの活動は実はこれだけにとどまらない。商工会議所や大学でのセミナー、フラワーパフォーマンスイベント、寺院での献花、加えて青年会議所での活動(2023年度理事長)、評議委員や地元イベント実行委員などにも精力的で活動は挙げればきりがない。
「やりたいことにはどんどん挑戦したい。やらない理由ばかり挙げて二の足を踏む人も多いけれど、思ったことを実行に移すのはそんなに難しいことじゃないですよ」。
今後は「花を用いた新事業」を考案し、将来的には飲食店や宿泊施設なども備えた複合「MORIYA」ビルを建てたい。そしてみんながもっとクリエイティブに働くことができる社会を作りたい、とさまざまな展望を生き生きと語ってくれた。
「挑戦してダメだったら、違うことをすればよいだけ。僕もたくさん失敗してきたけれど、失敗すれば心置きなく次のステップへ進めます。失敗しない人生の方が失敗ですよね」。