関西大学 KANSAI UNIVERSITY

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関西大学の「今」

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副作用なしで最大の薬効を発揮するために。
KUMPが描く「未来医療」の姿

 ものづくりの力で、未来の医療に貢献できないだろうか。そんな想いから現在、関西大学は医工連携の「KU-SMART PROJECT」を推進し、最先端の医療分野の研究に取り組んでいる。開発を目指すのは、「KUMP(ケーユーエムピー)」という独自の医療用高分子材料や医療機器だ。プロジェクトメンバーの河村暁文准教授が、KUMPにまつわる自身の研究や展望について語った。

化学の力で医療を変える。KUMPの挑戦

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 KUMPとは、「関大メディカルポリマー(Kansai University Medical Polymer)」の略称です。ポリマーは、原子がたくさんつながってできた高分子の化合物全般のこと。例えば、ポリ袋の材料であるポリエチレンもポリマーですし、もっと言えば、私たちの身体そのものもポリマーと言えます。

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 そのポリマーを医療用材料として特別に設計したのが、メディカルポリマーです。例えば、点滴バッグや人工血管、薬を包むカプセルなど、医療現場で幅広く用いられるものです。独自の新たなメディカルポリマー、KUMPの研究開発は、新しい治療方法の確立や難病の治療の一助になることが期待されます。まさに、関西大学のものづくりの技術を生かして、医療への貢献を目指すことができるのです。


 近年、医療において、ポリマー研究への期待が高まっています。これまで効果が現われにくかった薬が、ポリマーによって効果を発揮できるようになると考えられているのがその理由の一つです。新しい薬を生み出すのではなく、今ある薬の効果を高める。そのアプローチに可能性を感じて、私はポリマーの研究を続けています。

狙ったところに薬を届ける「二重刺激応答ゲル微粒子」の開発

 私の研究テーマの軸の一つは「DDS(ドラッグデリバリーシステム)」です。DDSとは、治療に必要な量の薬を、体内で狙い通りのところに届けるための技術のことです。


 まず、"病気の原因となっている細胞"にだけ反応するカプセルを作り、その中に薬を内包します。そのカプセルは消化されたり血液に溶けたりすることなく、病気の原因となっている細胞へ集まります。そしてそこに辿り着いた瞬間、カプセルが反応し、薬が放出されるという仕組みです。このカプセルの原料となるのがポリマーです。


 通常、薬には狙った効果とそうではない効果、いわゆる副作用が存在します。病気の原因となっている細胞に薬効を発揮するためには多くの薬が必要ですが、その分、他の細胞にも強い影響が及び、副作用が大きくなってしまいます。この問題を解決するのが、DDSの役割の一つです。

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 そこで、私はポリマー技術を使ってナノサイズの「二重刺激応答ゲル微粒子」を研究開発しました。このゲル微粒子は、「酸性」かつ「還元環境」という特定の状態でのみ大きくふくらみ、内包した薬を放出します。「酸性」かつ「還元環境」という状態はエンドサイトーシス(※)で細胞に取り込まれる過程と同じ。つまり、細胞内に入った場合にのみ反応を起こして、そこで薬を放出できるということです。

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 この二重刺激応答ゲル微粒子の利点は容易に作れるということです。水中にポリマーの原料であるモノマーを2種類入れて重合するだけ。しかも、綺麗に大きさが揃ったナノサイズのゲル微粒子が同じようにできあがります。これは、DDSの薬のカプセルとして使うのに大変好都合です。この発見は「日韓バイオマテリアル学会若手研究者交流AWARD」にて表彰を受けました。


 ただ、このゲル微粒子は他のポリマーに比べて、薬を細胞に運ぶ効率があまりよくなく、研究を進めていくうちに、実用化は難しいことが分かってきました。そこで、今は別の用途への応用を考えています。


※エンドサイトーシスとは
細胞が外部から微粒子などの大きな物質を取り込む機構のひとつ。DDSでは、エンドサイトーシスを利用して薬物を細胞内へと導入する戦略をとることが多い。

癌の治療への挑戦、microRNAを届けるポリマーを

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 二重刺激応答ゲル微粒子の「ふくらむ」反応を、「バラバラに分解される」というものに変え、「microRNA(※)」を内包できないかと構想を練っています。


 癌の状態をよく観察すると、microRNAが異常に増えていたり、なくなっていたりしたという報告があり、最近の研究で、microRNAと癌は深い関わりがあることが明らかになっています。裏を返せば、microRNAを細胞内に届けることによって、細胞内のmicroRNAの状態を正常にして癌の進行を食い止めることができるかもしれません。


 microRNAは非常に小さく、血液内で破壊されてしまいます。そのため、細胞内へ運ぶにはたくさんのポリマーでmicroRNAをひとつひとつ囲み、破壊から守る必要があります。しかし、それだと、今度は細胞内でmicroRNAが放出されないという問題が発生します。その問題を解決するのが「細胞内でバラバラに分解される」ポリマーです。細胞までmicroRNAを運び切り、細胞内に入った途端に壊れてしまう性質のポリマーができれば、「癌に効く新しい薬」が実現するかもしれません。

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※microRNA(マイクロアールエヌエー)とは
microRNAは、21〜25塩基程度の短い核酸で、タンパク質の合成を調整する性質を持つ。

研究者自身がワクワクする、DDSの可能性

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 この研究はまだまだアイデアレベルです。医療の分野に限らず、ものづくりの世界では製品化に至るまでに「死の谷」があり、多くの研究がそこを超えられず頓挫すると言われます。今は、その死の谷すら見えていないところです。


 けれどもそんな中で、KUMPの開発で連携している大阪医科大学と共同研究を進めようという話があります。そして、関西大学にはポリマーやバイオマテリアルの研究で活躍する教員が多く在籍していることもあり、研究設備も充実しています。医学部や薬学部がない大学でここまで医療の研究を進めているのは、全国的に見ても珍しいのではないでしょうか。研究の推進力が高い環境なので、一歩一歩着実に研究を進めていけば、必ず道が拓けると思います。


 また、今は主に癌をターゲットにして研究を進めていますが、この技術は癌に限らず、どんな薬や疾病にもアプローチできるものです。DDSは、薬を一度で出し切らず、ゆっくりと放出し、薬効を長くすることも可能です。この技術を応用すれば、1日に何度も風邪薬を飲まなくてもよくなるなど、みなさんに身近な医療も変えていくことができるでしょう。


 このようなことを考えていると、研究者として自分自身がワクワクしてきます。課題は山積みですが、乗り越えた先には新しい医療で救われる人がいると信じています。研究に終わりはありません。課題も苦労も、全てを楽しみながら続けていきたいと思っています。

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河村 暁文/准教授 (化学生命工学部)/先端高分子化学研究室
企業での研究開発職を経て、2012年に関西大学に着任。日韓バイオマテリアル学会若手研究者交流AWARD、高分子研究奨励賞などを受賞。KU-SMART PROJECTの一員として、KUMPの開発に携わる。