関西大学 KANSAI UNIVERSITY

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アフリカと日本の架け橋目指す

エチオピア政府官僚、「繊維のまち船場」でビジネスを体験

/エチオピア投資局(EIC)・JICA「ABE イニシアティブ」研修員 メサイ・ウォルデセマヤト・イジャラさん(大学院法学研究科博士課程前期課程2021年修了)

 アフリカの未来を担う若者を日本に招き、日本の大学での修士号取得と日本企業でのインターンシップの機会を提供するJICA「ABEイニシアティブ」プログラム。エチオピア出身で、国の期待を背負うメサイ・ウォルデセマヤト・イジャラさんは、このプログラムで関西大学大学院法学研究科を修了し、関西大学の校友が代表を務めるアパレル老舗メーカーでインターンシップを体験中だ。

 日本の文化に触れ、母国との交易の可能性を探る

 「日本人は時間に正確、真面目でよく働く、誠実で規律正しいという評判は来日前から耳にしていましたが、実際に日本企業で働き、身をもってそれを実感しています。これは企業や組織独自の文化ではなく、日本社会全体の文化。尊敬の思いを持っています」


 大阪市中央区の船場センタービルのほど近く、松尾株式会社の本社ビルで、メサイ・ウォルデセマヤト・イジャラさんは、これまで感じてきた日本人と日本企業の印象を語った。メサイさんは、独立行政法人国際協力機構(JICA)が提供する「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」プログラムで、2018年9月にエチオピアから来日。アフリカ最古の独立国であるエチオピアは、アラビカコーヒー豆の生産地として知られているが、繊維・アパレルも主要産業の一つ。10年以上経済成長を続けており、ユニクロがアフリカ初の生産拠点を設けるなど、各国の大手アパレルメーカーが注目している。


 関西大学での研究生・修士課程カリキュラムを修了後、3月25日からは、アパレル分野の最先端事情を学ぶべく、松尾株式会社で約半年間のインターンシップを体験。コロナ禍の中、JICAから要請があり、インターンシップ開始早々から基本的にテレワークで、他の社員と顔を合わす機会は少ないが、違和感なく職場に溶け込んでいる。


 松尾竜史社長からテレワーク中に与えられている課題は、ビジネスにおいて、エチオピアと松尾株式会社が今後どのような関係を構築できるかを提案すること。コロナ禍の中、制約は多いが、エチオピア現地とも連絡を取りながら、メサイさんだからこそできるやり方で、企画提案に向けて取り組んでいる。

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インターンシップ中の様子

求める学問は、関西大学に

 エチオピアの名門バハル・ダール大学の法学部を卒業したメサイさんは、アディスアベバ市法務局等を経て、2014年からはエチオピア政府投資局(EIC)の投資協定・国際条約担当部に所属。二国間・地域間経済協定の交渉などに携わっていた。自国の利益を守りながら、他国の投資を呼び込み、エチオピアの発展へとつなげる重要な任務だ。日本の外務省、経済産業省などとも交渉した経験があった。

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エチオピア政府官僚時代、UAEとの二国間協定の場(右から2人目がメサイさん)

 留学のきっかけは、職場で「ABEイニシアティブ」の募集があったこと。エチオピアとの経済交流が盛んな中国の支援プログラムを利用する選択肢もあった。また、日本のABEイニシアティブは募集人数が少なく、アフリカ全域から応募があるため競争率が高い。だが、メサイさんはあえて日本を選択し、関西大学大学院法学研究科を希望した。自分の問題意識に合致する法律分野の研究が、関西大学ならばできると考えたからだ。


 希望通り研修員として選ばれたメサイさんは、関西大学で研究生として6カ月就学したのち、大学院入試に合格し法学研究科に入学した。JICA実施のプログラムや国費留学生等を対象に、すべての科目を英語で提供する「国際協働コース」で、知的財産法や企業法務を研究。2年間の研究成果を修士論文「エチオピアのWTO/TRIP加盟と遺伝資源に係る伝統的知識の保護─その法制をめぐる研究─」(Ethiopia's Accession to WTO/TRIPS and the Protectionof Genetic Resources and Associated Traditional Knowledge:A Study of the Legal and Regulatory Framework of Ethiopia)として上梓した。在学中メサイさんは、関西大学南千里国際学生寮での生活を選び、関大生と共に過ごした。同寮では留学生だけでなく日本人学生も入居し、レジデント・アシスタント(RA)として、留学生の日常生活をサポートしている。「例えば、病院や買い物などで困ったことがあれば、いつでもRAに相談して助けてもらうことができました。コロナ禍で中断されましたが、寮ではさまざまな交流企画があり、他国の留学生や日本人学生と親交を深めることができました。法学研究科の先生方についても、言語の壁がある私に対して親切に指導していただき、とても感謝しています」

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関西大学修了式後、高作正博研究科長(当時)、山名美加教授と

 指導教員だった法学部の山名美加教授は「メサイさんは、意欲的で探究心の強い学生でした。日本の憲法や政治、宗教など、自分の研究分野以外のことに関しても積極的に質問してきました。そのような留学生は珍しい。日本文化の根本となるもの、日本人のメンタリティーまで理解したいという思いがあったのではないでしょうか」とメサイさんの熱心な姿勢を振り返る。

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関大生の友人と大阪狭山市のだんじり祭に参加

日本の企業人へ。「どうぞリスクを恐れず」

 エチオピア帰国後は、エチオピア政府投資局に複職することが決まっている。「ABEプログラムでの留学経験を生かして、日本とエチオピアをつなぐ役割を担いたい」と今後の抱負を語るメサイさん。


 「日本はすべての分野でシステムが確立していると感じます。交通インフラは良い例です。交通だけでなく、すべてのことが効率良く動くようデザインされています。街がきれいなことも、夜道を一人歩きできる治安の良さも、当然のことのように難なく維持できている。これは、私にとっては驚きで、感動的なことです。日本は、技術はもちろん素晴らしい文化を持った国。こういった日本の良さをもっと世界に広げていただきたいですね。


 私の母国エチオピアを含め、アフリカには大きなチャンスがあります。日本の産業・経済界の皆さんには、ぜひリスクを恐れず、このチャンスを活用することを考えてもらえたらうれしいです」。真っ直ぐに語りかける彼の目には、日本とエチオピアをつなぐ未来像が見えているかのようだった。


関西大学の縁が結ぶ、日本とエチオピアの可能性
「メサイくんの存在が、会社に良い刺激を」

 /松尾株式会社 代表取締役社長 松尾 竜史さん(1989年経済学部卒業)

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 「インターンシップ受け入れを表明していた企業が、コロナ禍で軒並み取り止めているので、協力していただけないか」と山名先生からご相談いただくまで、実はJICAのプログラムについては何の知識もありませんでした。しかし、母校の先生からのご相談でもありますし、これもご縁、「おもろいやないか」と引き受けた次第です。


 メサイくんは好青年ですね。私を含め語学力には自信がない社員ばかりで、当初は少々緊張して彼に接していましたが、すぐに打ち解け、彼の存在が会社にとっても良い刺激になっているように思います。


 当社は現在、レディース、キッズ向け衣料品のOEM製造を主軸に、自社ブランド品の製造卸販売やショップ運営、中国を中心とした貿易・物流を展開する、4社からなるアパレルグループを展開しています。アパレル産業の川上から川下までカバーする当社のネットワークを生かし、いろいろな現場を案内して、メサイくんには見聞を広げてもらいたかったのですが、残念ながらコロナ禍ではままなりません。


 そこで彼にはまず、エチオピアから日本へ売り込める商品があるか、逆にエチオピアが求めている商品はあるのかを調査してもらいました。そして、山名先生や駐日エチオピア大使館と相談しながら、インターンシップ中の実習内容を決め、当社での業務に取り組んでもらっています。メサイくんが在職している間に1万円でもよいので、エチオピアとの間で取引を実現できればと考えています。


 当社のビジネスも現状の中国一辺倒ではいられなくなってきています。アフリカは、生産地としても消費地としても大きな可能性を秘めている国。近い将来、日本企業がエチオピア進出を目指す際には、メサイくんが有能なコンタクトパーソンとして活躍してくれるのではと期待しています。


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松尾株式会社のスタッフたちと
メサイさんからのメッセージ


出典:関西大学ニューズレター『Reed』66号(9月17日発行)