関西大学 KANSAI UNIVERSITY

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「鬼滅の刃」主題歌、「紅蓮華」作曲者が歩んできた道のり
内気なオタクが、1億人に届く音楽をつくるまで

/シンガーソングライター、作詞家、作曲家 草野華余子さん(2006年 社会学部 卒業)

 関西大学軽音楽部の活動は盛んで、卒業後に音楽業界へ進む学生も多い。大ヒットアニメ「鬼滅の刃」の主題歌、「紅蓮華」の作曲を手掛けたシンガーソングライターの草野華余子さんもそのうちの一人だ。彼女はどんな関大生だったのか。そして「紅蓮華」誕生のきっかけとは。思い出の場所を巡りながら話を伺った。

誰に聴かせるでもなかった曲が、未来を導くきっかけに

 クラシックに精通した家庭に長女として生まれ、幼い頃から音楽のすぐ側で育った草野さん。そんな彼女が初めて曲をつくったのは、まだ5歳の頃だったという。


 「妹に頼まれて、12体のぬいぐるみに1曲ずつ曲をつくったのが始まりですね。カセットデッキを2台使って、1台にメロディーを、もう1台に伴奏を録音して。幼いながらも結構本格的にやっていました。それからは習慣的に曲をつくるようになりましたね。小さい頃は内気で、学校では『アニメオタク』と仲間外れにされて寂しい思いをしていたので、家に帰ってから誰に聴かせるでもない曲をつくっていました」


 その後彼女は、矢井田瞳やbirdなど有名アーティストの存在に惹かれ、関西大学へ進学。数ある軽音楽系の団体の中でも、特にストイックに活動する軽音楽部Ⅰ部に身を置いた。


 「軽音楽部Ⅰ部で出会った仲間たちは、みんな個性的でした。それぞれ好きなジャンルはバラバラ。だからって他ジャンルの音楽を聴かない訳じゃなく、むしろ共有し合えるような環境でした。おかげでロックやアシッドジャズ、ポップスと、知らなかった音楽に次々出合って、音楽の幅がどんどん広がりました。私の個性も受け入れてもらって、すごく居心地良かったですね。だから大学時代の思い出といえば、学業じゃなくて、軽音楽部のことばっかり(笑)。スタジオでの練習や学園祭でのライブ出演は忘れられない経験ですし、当時の友人とは今でもよく連絡をとっています」

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在学中に通っていた音楽スタジオ「JEWEL」にて

 2年次に、これまでの人生で書き溜めていた曲を先輩に聴かせる機会があったという。これが彼女にとって大きな転機となった。


 「曲を一通り聴き終えた先輩から、『君には才能があると思う。絶対にオーディションを受けるべきだ』と言ってもらえたんです。その先輩とは、後に国産ハンドメイドエフェクターブランド『Limetone Audio』を立ち上げる、今西勇仁さん。信頼している先輩からの言葉を受けて、初めて自分の才能を自覚できました。それからはもっと音楽に夢中になって、在学中の4年間で100曲以上はつくりましたね。関大でアーティストとしての基盤が培われたな、と思います。自然と『卒業後は音楽で生きていこう』と考えるようになりました」

諦めかけた時に拓かれた、作曲家としてのキャリア

 卒業後、草野さんは、大阪を拠点にシンガーソングライターとして本格的に活動を始めた。「ライブハウスに知らない顔はいない」というほど交友関係は広がる一方で、活動そのものが順調だったわけではないという。

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 「音楽活動だけでは食べていけなくて、生活のためにアルバイトもしていました。ぎりぎりの毎日の中、27歳の頃にポリープを発症して、一時的に声が出なくなったんです。そのときは結構落ち込んで、年齢的にも体調的にももう引き際かなと、音楽をやめようとしていました。だけど、周りの音楽関係者の皆さんが『これだけの曲が書けるのだから勿体無い』と引き止めてくれたんです」


 そのうちの一人から、アニソン歌手のLiSAが楽曲を募集しているという話を耳にした。奇遇にも、もともと彼女はLiSAの大ファンだった。


 「きっとこれが最後のチャンスなんだろうな、と思いました。もしダメだったらきっぱり諦める。そのつもりで、全身全霊を込めて作曲に臨みました。このときに生まれた楽曲『DOCTOR』が採用されて、そこから作曲家としての仕事が入るようになったんです」

一人でつくっていた頃とは、全く異なる景色が見えた

 誰に教えられるでもなく独学で作曲してきた草野さん。その作曲方法は「かなり珍しいと思う」とのことだ。


 「私はもともとアニメ好き、声優好きのオタク気質。とことん調べ尽くしたくなる性格なんです。だから楽曲提供の時は、歌ってくれるアーティストさんのSNSをずっと遡ったり、雑誌のインタビュー記事を集めて片っ端から読み込んだりすることから始めます。そうすると、例えば色彩だったり匂いだったりのイメージにたどり着くことができる。そのイメージを、メロディーとしてアウトプットし、曲をつくっているんです」


 情報を限界までインプットし、一気に放出する。その作業には膨大なエネルギーが必要で、「つくり終えた後は、1週間は動きたくない」と感じるほどだという。


 「それでも曲をつくり続けられるのは、生まれた曲を愛してくれる人がたくさんいるからですね。歌ってくれる人や一緒に音楽をつくり上げてくれるチーム、そしてファンの皆さん。みんなが喜んでくれる。一人で、自分のためだけに曲をつくっていた頃とは、全く違う喜びを感じています」

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 これまでの作曲を振り返り、最も濃密な作り方をしたのは「紅蓮華」だという。アニメ「鬼滅の刃」の主題歌で、紅白歌合戦でも披露された。この楽曲で草野さんのことを知った人は少なくない。


 「紅蓮華をきっかけに名前を知ってもらえたことは誇りに思いますけど、それでも『自分の曲だ』とは全く思いません。曲をつくったのは私ですが、詞をつけたのはLiSAさん。Bメロから入る構成も、LiSAさんのチームから提案されたものです。他にも、『鬼滅の刃』のスタッフさんたちやSonyのプロデューサーさんなど、数え切れない人が紅蓮華に関わっています。その全員が、同じ熱量で曲と向き合ったからこそ、これだけ多くの人に愛されたんだと思います」


 紅蓮華はストリーミング配信で合計1億回再生されるなど、爆発的なヒットとなった。動画投稿サイトには「歌ってみた」「弾いてみた」などの動画も多数アップされている。


 「紅蓮華は、一般的な8ビートじゃなくて16ビートのテンポ。それでも歌ってくれる人がこれだけ大勢いる。とても嬉しく思いますね」


進む先は、自分の「得意」が導いてくれるはず

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 「音楽で生きていくと決めた時は、自分で歌うことに固執していました。『DOCTOR』が採用されて、作曲家としての仕事が入ってきた頃も、歌うことへのこだわりが強かった。でも作曲家としての自分を本気で求めてくれる人たちのおかげで、自分の進むべき道を考えることができたんです。そして作曲家としての活動が広がるにつれて、シンガーとして私の歌にも興味を持ってくれる人が増えました」


 自分の得意分野に気付けたこと。それが彼女にとって、大きな財産になった。


 「もし将来や進路のことで悩んでいる方がいれば伝えたいのですが、一つの道に固執して辛くなった時は、自分が苦労せずにできること、得意なことを見つけて、選び取ることも考えてほしいと思います。私は関大軽音楽部でのさまざまな出会いによって音楽の世界が広がり、作曲のスキルが磨かれました。たくさんの人と出会い、いろいろなことを経験して、視野を広げてみてください。自分が進むべき方向が見えてくるだろうし、進んだ先でやりたいことに出会えるはずだから。なりたいものと、なれるものは違うかもしれません。それでも、やりたいことができなくなる訳ではないと思うので」


 最後に彼女はこれまでの人生を振り返り、そして野望を語った。


 「アニメオタクだと仲間外れにされて一人寂しく曲をつくっていた自分が、たくさんの人と一緒になって、1億人に届くアニメソングをつくり上げた。こんなに幸せなことありませんよね。この先、作曲家としても、シンガーとしても、ずっと全力で進んでいきたい。死ぬまで音楽を続けていきたい。それが私の目標です」

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草野 華余子さん/シンガーソングライター、作詞家、作曲家(2006年 社会学部 卒業)
ソニー・ミュージックパブリッシング、CAT entertainment所属。包み込むように優しく人間味溢れる歌詞と、卓越した唯一無二のメロディセンスが持ち味。LiSAを始めとする数多くのアーティストやアニメ作品へ楽曲を提供。