大学執行部リレーコラム

「それは常識?常識でない?」(青田浩幸)

2014.05.12

 研究室の学生に必ず質問することにしていることがある、それは家庭用の電気は何ボルト?直流?交流?乾電池はどう? こんなことを理系の研究室で聞くことを不思議に思うかもしれないが、実は私の研究室が化学系だからかもしれないが、この質問に答えられる学生は半分もいない。入試では結構難しい問題を解いてきた学生たちがこんなことも知らないのかと最初驚いたが、学生にとって家庭用電気が何ボルトであろうと、コンセントにプラグをさせば電気は使えるのだから知らなくても何ら困らなかったのである。
 他方、学生は(入試に出ることが多い)習ったことは常識のようによく覚えている。例えば濃硫酸から希硫酸を作るとき、濃硫酸に水を入れるのか、水に濃硫酸を入れるのかと聞くとほとんどの学生が水に濃硫酸を入れると答える。つまりこれが常識となっている。では今、濃硫酸をこぼしてしまった時、どのように処理すべきかと質問をすると、濃硫酸に水をかけると危険だからということで思考が止まり、どうすればいいかわからなくなる。なぜ、濃硫酸に水を入れてはいけないのか、どうなるからいけないのか、つまり本質を知らずにただ記憶して、それが常識となっているために、その常識という呪縛により正確な対応がとれなくなる。実は濃硫酸に水を入れた場合、発熱が大きく、突沸することがあり、硫酸のしぶきが散らばってしまい危険なのであるが、こぼした硫酸に一気に10倍以上の水をかけたら突沸することもなく簡単に希釈できる。この(濃硫酸に水を入れるという)常識でないことを現在、化学・物質工学科の1年生には体験させている。
 余談ではあるが0℃の氷50g に20℃の濃硫酸5mlを入れると何度ぐらいになると思いますか?実はマイナス10℃ぐらいになります。これも常識では考えにくいことかも知れません。(高校化学の知識で説明できる現象ですが)