Human Rights
Handbook 2024

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依然として残る差別

歴史を学び 共に生きる社会を

リテラシーパンダ

Thinking Time

多様な文化・価値観や習慣。学生生活ではお互いを認め、人権を尊重することが大切です。
では、共に生きる社会をつくるためにどうする?

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人種差別・ヘイトスピーチ

まずは自分の無理解に気付くこと

ヘイトスピーチに明確な定義はなく、一般的に人種、国籍、性別、障害、職業、外見などを理由に個人や集団に対して、侮辱や差別、憎悪、脅迫、攻撃を行い社会から排除しようとする言動や、そのような行動に扇動する表現行為のことを指します。2016年日本でもヘイトスピーチ解消法が施行されましたが、保護の対象にオーバーステイやアイヌ民族の人たちが含まれないことが指摘されています。

現在は街宣活動から、動画や書き込みをネットで配信するなどの活動に移行され、毎日利用するインターネットにもヘイトスピーチは潜んでいます。軽い気持ちで書き込みに同調してしまうことで、活動参加につながることもあるので気を付けましょう。

「自分はヘイトスピーチをすることはない」と思う人も多いでしょう。では皆さんはマイクロアグレッション(小さな攻撃性)という言葉を知っていますか?自分と異なる人に対して「悪意なく」「無意識」に偏見や無理解、差別が含まれる言葉を掛け、相手を傷つけることです。同じように日本で生まれ育った外国人やハーフの人に対し、外見が異なるだけで「日本語うまいね」や「味噌汁も飲むの!?」と声を掛けることもそれに当たります。たとえ悪意なく言った言葉でも、深く傷ついている人がいます。日常的に繰り返されるマイクロアグレッションは、いじめや差別、柔軟に対応できない子どもの自殺につながる事例も多くあります。これは決して人ごとではなく、みんなが目を向けるべき問題の一つです。

ヘイトスピーチは「集団」でのみ起こる問題ではなく、本当に気を付けるべきは個人間での問題で、無理解であることが大きな要因だと思います。

そのため在日朝鮮人、ハーフの方、身体障がい者の方、どんな人でも実際に会って対話することが大切です。対話で相手を知り、「自分はこれまで知らなかった」と反省することで自己の理解や成長につながるのです。そして、正しい知識を持って判断するために、自分の中にさまざまな知識や考え方、価値観という選択肢をたくさん持てるよう、正しく学ぶ姿勢を持ちましょう。

「相手と対話し、互いの個性を尊重することを忘れない」

「相手と対話し、互いの個性を尊重することを忘れない」

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在日韓国・朝鮮人問題

在日コリアンも私たちと同じ日本の市民なのに……

在日コリアンとは、主に降伏文書調印(1945年9月2日)以前に日本に移り住んだ朝鮮半島出身者とその子孫のことです。朝鮮民族は日本の植民地統治によって国権を奪われ、「日本国籍」所持者とされていました。しかし、日本国憲法施行(1947年5月3日)の前日に施行された外国人登録令により、在日コリアンは日本国籍を有したまま「当分の間外国人と見なす」とされ、外国人登録の「国籍」欄には「朝鮮半島出身者」を意味する符号として「朝鮮」と記載されました(その後、「韓国」国籍への書き換えだけが認められ、書き換えをしていない、いわゆる「朝鮮籍」の人は無国籍の状態です)。

その後、サンフランシスコ講和条約の発効(1952年)に際しては、在日コリアンは国籍選択権を与えられず、一方的に「日本国籍」を剥奪されました。このため、在日コリアンは日本国憲法の枠外に置かれ、長らく国民健康保険や国民年金にさえ加入できない無権利状態が続いていました。

かつて、植民地時代には「皇国臣民」として「国語」(=日本語)使用を強要されました。さらに「創氏改名」政策で日本式氏名を名乗らされて民族的尊厳を蹂躙され、果ては徴兵・徴用されて多数の犠牲を強いられました。しかし、戦後日本はいろいろな権益から在日コリアンを冷たく排除したのでした。

今では在日コリアンのほとんどが日本生まれで、日本の地に愛着を抱き、今後とも日本社会で生きていく人々です。それにもかかわらず、ネット上では民族的尊厳を傷つける侮辱的で排外的なことばが乱舞し、在日コリアンをひどく傷つけ苦しめています。こうした匿名による理不尽な精神的暴力にさらされつつも、在日コリアンは民族的プライドを守り続けるために、日夜緊張した日々をすごしています。

在日コリアンも日本の社会を構成する立派な市民です。私たちは異なる民族の人間的尊厳を傷つけず、市民的権利を侵害しないようにしてこそ、日本を多民族・多文化共生社会に発展させることができるのではないでしょうか。

ネットリテラシーと教養を養い、民族性や人格を傷つける言動には毅然とした姿勢で生きてほしいと思います。

「自分のルーツに誇りを持ち、共存できる社会がダイバーシティです」

「自分のルーツに誇りを持ち、共存できる社会がダイバーシティです」

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部落差別

「あそこは部落」ってネットに書き込みがあったよ

「部落差別」を知っていますか?「部落って何?」と思う人もいるかもしれませんね。

部落差別問題における「部落」とは、被差別部落のことを意味します。被差別部落は、江戸時代に、穢れているとされた身分の人たちが住んでいた地域です。その地域の出身、あるいは居住しているというだけで差別の対象となってきた歴史があります。

この100年あまりの間、多くの人によって部落差別撤廃のための活動が続けられ、その成果として、現在は表立った差別言動は少なくなりました。

しかし、部落差別は今もあります。特に、結婚や土地など利害がからんだ時に明らかになることがあります。自身が差別を受けたくないがために、「部落の人と結婚したり、その地域に住むと自分も部落とみなされるかもしれない」という「みなされる差別」を避け、結果として差別をしてしまうのです。

インターネットやSNSでの悪意ある書き込みも社会問題となっています。あなたは、「『あそこは部落』ってネットに書き込みがあったよ」と聞いたらどうしますか?気になって検索してしまいませんか。そして、その情報を信じてしまいませんか。実は、部落(同和地区)は「怖い」「治安が悪い」「ずるい」など、部落差別を扇動する誤った偏見情報が流されており、部落出身の人びとや、部落差別をなくそうとしている人びとを苦しめているのです。

このような状況を踏まえ、部落差別解消推進法が2016年12月に施行されました。「部落差別は許されないものである」と初めて明文化された法律です。

部落差別は決して過去の問題ではありません。また、隠すべきものでもありません。その現実を知り、「なぜ今も差別する人がいるのだろう?」と考え、人権感覚を持って学んでいくことが大切です。

部落差別の解消のために活動している方々はたくさんいます。学内や各自治体にも学べる場所があります。部落出身の人と直接出会い、話を聞き、自分自身の問題としてとらえるとともに、安易に人や地域をおとしめる情報に同調したり、だまされないようにしましょう。

「人や地域をおとしめる情報に同調しない、だまされない」

「人や地域をおとしめる情報に同調しない、だまされない」

情報BOX

2023年には過去最多の約322万人に

在留外国人数は増加傾向

在留外国人数は年々増加し続け、2023年6月末現在で過去最多の322万3,858人になりました。国別では、中国(78.8万)、ベトナム(52.0万)、韓国(41.2万)、フィリピン(31.0万)、ブラジル(21.0万)、ネパール(15.6万)、インドネシア(12.2万)、ミャンマー(7.0万)、米国(6.2万)、台湾(6.0万)、その他(51.0万)です。

在留資格には「永住者」「特別永住者」「留学」「教授」「技能実習」など多くの種類があります。連合国との降伏文書調印(1945年9月2日)前から引き続き日本国内(内地)に居住する朝鮮人・台湾人およびその子女の在留資格は「特別永住者」で、2023年6月末現在28万4,807人(その98.8%が在日コリアン)となっています。なお、50年前の在日コリアンは約64万人でしたが、朝鮮半島にルーツを持つ帰化者(日本国籍)やその子女のほうが、いまや「特別永住者」よりずっと多くなっています。

では、在留外国人にとって日本は住みやすいでしょうか。法務省委託調査研究事業の「外国人住民調査報告書」(2016年度)には、次のような外国人差別についての調査結果が示されています。

  • 外国人であることを理由に入居を断られた…約40%
  • 外国人であることを理由に就職を断られた…約25%
  • 日本人より賃金が低い…約20%

この他、お店やレストランへの入店を断られたり、侮辱されたり、インターネットでの差別的な書き込みを見て不快な思いをしています。

これらの回答の中には、「日本で生まれ育ち、心のよりどころも故郷も日本。なのに、目に見えない差別の圧迫を感じることがある」との声を寄せた在日コリアンもいます。

このような外国人に対する差別や偏見をなくすため、国や地方公共団体はさまざまな取り組みをし、外国人のための人権窓口も設けています。

しかし、最も大切なことは、私たち一人一人の意識改革ではないでしょうか。文化や生活習慣の違いを認め、お互いを尊重するという気持ちが大切です。

相談窓口

もっと深めよう

関連資料紹介

※リンクが掲載されている資料は本学図書館に所蔵されています。

『ヘイトスピーチ表現の自由はどこまで認められるか』
P.55 関連

『ヘイトスピーチ表現の自由はどこまで認められるか』

エリック・ブライシュ 著/明石書店 2014年

本書は、欧米で起きているレイシズムやヘイトスピーチ、ヘイトクライムといったいわゆる「差別言動」の問題を取り上げ、各国における法規制や政治政策を踏まえた上でその実態を当事者の発言を通して分析している。中でも、「レイシストに与えるべき自由」という角度からの視点は読み手の興味をかき立てさせるだろう。

P.55 関連

『MINAMATA―ミナマタ―』2021年

出演:ジョニー・デップ、真田広之
監督:アンドリュー・レヴィタス

熊本県水俣市の大勢の住民は水銀によって侵され、命を落とした。生き残った者たちの多くは歩くことすらできず、差別を受けている。こうした人権と環境汚染の深刻な問題を米国人写真家のユージン氏が記録していく。これはユージン氏と地元住民、有害物質を海に流したチッソ会社のそれぞれの葛藤を描いた史実に基づいた大作。

『MINAMATA―ミナマタ―』2021年
『HAFUハーフ』2013年
P.55 関連

『HAFU ハーフ』2013年

出演:デイビッド、ソフィア、大井一家
監督・撮影:西倉めぐみ、高木ララ

異なるバックグラウンドを持つ5人の「ハーフ」たちが抱く、自己のアイデンティティを構築する上で経験する、苦しみや喜びを1年間掛けて撮影したドキュメンタリー映画。日本のメディアを通してイメージ化された「ハーフ」ではなく、異なる地域の狭間を往来する「ハーフ」たちの生きざまの一端が描かれる。

P.57 関連

『在日朝鮮人 歴史と現在』

水野直樹、文 京洙 共著/岩波新書 2015年

「在日朝鮮人をめぐる諸問題への理解を深めるのに少しでも役立てば」(まえがき)との願いから刊行された本書は、在日朝鮮人をめぐる歴史から現代の問題までカバー。近代朝鮮史研究者の水野直樹(京大名誉教授)、政治学者の文京洙(立命館大名誉教授)による共著で、その記述は学術的にも十分に信頼できます。

『在日朝鮮人歴史と現在』
『⼊門被差別部落の歴史』
P.59 関連

『⼊門 被差別部落の歴史』

寺木伸明・⿊川みどり 著/解放出版社 2016年

被差別部落に関する研究は絶えず進展しており、それら近年の研究成果をふまえてまとめられた被差別部落の歴史に関する入門書です。前近代を近世部落史を専門とする寺木伸明、近代を近代部落史研究を専門とする⿊川みどりが担当しており、被差別部落が置かれてきた通史を、初心者にも分かりやすく解説しています。

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