Human Rights
Handbook 2024

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マイノリティや他者への偏見

多様な人 多様な価値観

リテラシーパンダ

Thinking Time

ジェンダーやうつなどについてどれだけ知っていますか?
友人などの身近な人が困っている時に助けになるためには?

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神経発達症(発達障害)

理解してもらえると心強い

「神経発達症(発達障害)」は注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症、限局性学習症など、それぞれに困難の様相が異なる障害の総称です。おのおのの障害の発症原因は明らかにされていませんが、状況の判断や効果的な対処・調整、対人関係、読み・書き・計算スキルなど、社会生活を営む上で重要な高次脳機能の発達に偏りや遅れが生じます。

大学生活では複数の課題の優先順位を判断しづらい、口頭で説明された内容を把握しづらい、一度に複数のことを言われるのが苦手、曖昧な指示や自由度が高いテーマの課題が苦手、音読や書字の顕著な誤り、などの困難が見られます。しかし、神経発達症の場合、個人が苦手とする状況ではない場合には支援ニーズがあることに気付かれにくく、症状の程度に個人差もあるために、周囲に理解をされにくい面があります。

障害を伴う個人の苦悩は、障害そのものに起因した困難だけでなく、学校や職場などの環境や人間関係といった社会との関係においても生じます。社会が障害をどのように捉え、その支援ニーズに対してどう向き合っていくかという意識は、当事者の社会生活に重要な影響を及ぼします。障害によって生じる困難は、個人の努力のみでの対処が難しい場合も少なくありません。

神経発達症では大学生活での学び方の違いや自己管理が求められるさまざまな活動に戸惑いを感じやすく、周囲の理解や配慮が欠かせません。

具体的には、文字や手本で視覚的に情報を伝える、複数の用件は少しずつ段階的に伝えたり、ToDoリストにして参照できるようにする、曖昧な表現を避ける、ハンドアウトで書字負担を軽減する、などがあげられます。また、理解のある人の存在自体が、当事者の安心感にもつながります。

困っている様子に気付いたり、相談を受けたら、実行可能な工夫のアイデアを一緒に考えたり、学生相談・支援センターへの相談も提案してみましょう。

「理解してくれる人の存在自体が安心感につながる」

「理解してくれる人の存在自体が安心感につながる」

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うつに対する理解

うつ病は心のダムの水不足!?

気分が落ち込む、やる気が出ない、涙が出てくる、全てがダメに思えてくる、夜中に目が覚める、食欲がない……皆さんはこんな「抑うつ状態」になったことはありませんか。このような症状がもし2週間以上ずっと続いているならば、それは「うつ病」かもしれません。

心をダムに例えると、うつ病は心のエネルギーの水位がひどく下がっている状態と言えます。通常は8〜9割あるダムの水位が2割くらいまで下がって、もう干上がる寸前です。それでも10割満タンの人についていこうと頑張って、けれど2割の水位ではついていけず、うつ病の人はそんな自分をダメだと思ってしまうのです。

ここまで水位が落ちてしまったら、とにかく使わずにダムに水を貯めなければなりません。何もせず、最初のうちは1日中寝ているくらいでゆっくり過ごすと、やがて自然に上の川から水が流れてきます。薬を飲むことで雨を降らせることができます。このようにうつ病の治療では、水をまず6割まで貯めることを目指します。

うつ病の人は自分で何とかしようと頑張ってしまう人が多いけれど、2割まで落ちるその手前で治療を始められれば回復は早くなります。セルフチェック(1)などを利用して、自分の状態を把握する手掛かりにするのも良いでしょう。

また、うつ病がひどい時は悲観的になりがちで、考えもうまく進みません。退学や結婚、退職のような重大な決断をすることは避け、元気になってからしっかり検討するようにしてください。

そして、うつ病といっても、症状や現れ方は人により千差万別です。うつ病に対する正しい知識(2)を持つとともに、周りから見て気になる様子の人には「顔色良くないよ」「大丈夫?」と声を掛けてあげてください。「うつかもしれない」と相談された時には、受け止めて話をただ聞いてあげてください。その上で、本人の意向を尊重しながら、専門家の助けが得られる相談先を勧めてみましょう。

(1)厚生労働省 こころもメンテしよう ヘルプノート 気分障害〈うつ病の特徴〉

(1)厚生労働省 知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス うつ病

※セルフチェックは簡易的なものです。過信せず、少しでも調子が悪ければ早めに専門医へ相談しましょう。

「相談されたら受け止めて話を聞いてあげることが大事」

「相談されたら受け止めて話を聞いてあげることが大事」

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ジェンダー問題

「女だから」「男だから」と制約しないで

性別役割規範とは、女や男といった性別カテゴリーに「○○ならこうすべき」といった規範意識を結びつけたものです。なお、こうした性別カテゴリーの話をすると、トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別とは異なる性のあり方で生きる人)にまつわる内容だと思われるかもしれませんが、むしろトランスジェンダーに限らず、あらゆる人に関わる問題であるということがポイントです。

例えば、学校生活においても「女の子なんだから優しくしなさい」とか「男の子なんだから弱音を吐くんじゃない」というように、性別役割規範を当然視したりそれを引き受けるよう他人に強いることはいまだに見られるのではないでしょうか。これは、誰もが人生の中で一度は経験したことがあるような身近な問題なのです。そして、そのような実践は大人から子どもへというだけでなく、大人同士や子ども同士において見られることもしばしばです。

そもそも、性別を女または男のどちらか一方だけで捉えることには限界があります。例えば、世の中には性器の形状や性染色体といった身体的特徴に関わる部分について女か男のどちらか一方に分けることが難しいケースだってありますし、自分の性別について女でも男でもないと思っていたり、はっきり分からないと思っている人、人生半ばでそうした意識が変わる人だって存在するからです。また、「女/男ならこうすべき」と制約することは、本人の望まない性別カテゴリーやそこに結びつけられた規範意識を一方的に押しつけることで他人を苦しめてしまう恐れだってあります。

こうした制約の問題を解消するためには、社会や個人の中にある性別カテゴリーに結びつけられた規範意識について改めて考え、それらを「当たり前」だと思っていないか問い直すことが大切です。そうすることで、誰もが性別役割規範に制約されずに生活を送ることができる未来への扉が開かれていくでしょう。

「あなたの持つ性別カテゴリーや一般論はあなただけの基準かも?!」

「あなたの持つ性別カテゴリーや一般論はあなただけの基準かも?!」

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セクシュアル・マイノリティ

「普通」の押しつけが人を苦しめることもある

ごく一部の国や地域を除いて、人は誰でも生まれた時に男女一方の性別を与えられ、何らかの形で性的な存在として生きていきます。「性」を生きるかたちは人それぞれで、とても多様です。

この多様性を表す言葉の一つが「LGBT」で、「セクシュアル・マイノリティ」と表現されることもあります。L(レズビアン)・G(ゲイ)・B(バイセクシュアル)が「どのような人に性的魅力を感じるか(性的指向)」に関わる言葉であるのに対し、T(トランスジェンダー)は、「性自認・性同一性」に関わる言葉です。

いまだ学校教育の現場では、「思春期になったら異性に関心を持つようになる」という表現が使われることも多く、異性愛者ではない生徒が疎外感を感じることがあります。また、法律上の性別によって制服や水着、更衣室、グループなどが男女で分けられていることが多いため、シスジェンダー(生まれた時に与えられた性別に違和感がない人)ではない人が居場所のなさを感じたり、部活動への参加をためらうこともあります。

学校や社会、周囲の人がもし、そのような悩みを抱えているなら、まずは話を丁寧に聞くようにしましょう。セクシュアル・マイノリティの当事者や専門家によるサポートを受けられる場所を知っていたら、それを伝えるのもいいでしょう。ただし、相談された内容やその人のセクシュアリティを本人の許可なく他の人に伝えてはいけません(そうすることを「アウティング」と言います)。セクシュアリティは個人のプライバシーに深く関わることであり、差別が根強い社会ではその人に負の影響が出る可能性もあります。

あなたの周りには、たくさんのセクシュアル・マイノリティがいます。関西には当事者団体や学生サークルも複数ありますので、自分が当事者で情報や仲間がほしいと思ったら、一度のぞいてみるのもいいでしょう。またカミングアウトを急ぐ必要はありません。自分のペースとタイミングで、安全だと感じられる場所を見つけてからでいいのです。

「あなたの周りには、たくさんのセクシュアル・マイノリティがいます」

「あなたの周りには、たくさんのセクシュアル・マイノリティがいます」

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カルト集団

「自分は大丈夫」が一番危ない

2022年に発生した「安倍晋三元首相銃撃事件」で社会の注目を集めた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、以前から「カルト」と見なされていました。一般に「カルト」と呼ばれる宗教団体に共通するのは、社会の一般常識から逸脱した行為や人権侵害が組織内で常態化しているなど、反社会性を帯びていることです。

それらの団体が正体を隠し、サークル活動やボランティア団体を偽装して学生に接近し、巧みに関係性を構築し、教義を教え込んでいくことは、明らかに「信教の自由」の侵害に当たります。

最近はキャンパス内での勧誘が難しいため、キャンパス外やSNSでの勧誘にシフトしているといわれています。「自分はそんな変な宗教なんかに興味ないから大丈夫」と思っていても、いつの間にかその考えを「修正」させられて、教義を信じ込んでしまうように導かれます。実は「自分は大丈夫」と考えている人が一番無防備なのです。

カルトが信者のみならず一般人に対して、身体的、精神的、金銭的な被害を与えることは違法性が認められています。問題は、勧誘された若者が、同じような手口で家族や友人をはじめ周りの人間を引き込もうとすることです。すなわち、被害者が自分でも気付かないうちに加害者に転じてしまうのです。

では、どのようにして「カルト」から自分の身を守ればいいのでしょうか。一番大事なのは知らない人から誘いを受けた時、即断しないことです。押し切られてしまう不安がある人は、一度距離を置いてみることがとても重要です。そして少しでも不自然な印象を持った場合、親しい人に相談してみましょう。「誰にも相談しないで」と言われたら、カルトを疑ってかかるべきです。

親が熱心な信仰を持った家庭で育った「宗教2世」は、信仰に疑問を抱いても親との縁が切れない、周りにも知られたくないなど、人知れず葛藤に苦しんでいます。キャンパス内には、さまざまな宗教の信者が一定数存在します。信仰を持っている人たちの人権に十分配慮するためにも、「カルト」に対する客観的な認識が重要でしょう。

「知らない人から誘いを受けたら即断しないこと」

「知らない人から誘いを受けたら即断しないこと」

情報BOX

障害のありか

自治体などの公用語として「障がい者」と、ひらがな表記を用いるところが多くなってきました。どうも「害」の字が、ひっかかるようですが、「障害」という言葉自体に罪はなく、問題は、その「ありか」をめぐってのことと思われます。

「障害」とは、辞書によると「さわり、さまたげ、じゃま」という意味で、確かに、これらの「ありか」を「(当事)者」という個人だけに押し付けるのはフェアではありません。似たような言葉に「障壁(バリア)」がありますが、これは、周囲の環境に問題があることを意味し、これらを取り除くことを「バリアフリー」といいます。さらに、進んで最初からバリアのない設計をする合理的な「ユニバーサル・デザイン」という考え方も生まれました。

このように、「障害のありか」は、時代とともに治療やリハビリといった医療中心の「個人モデル」から制度や環境の整備に目を向ける「社会モデル」へと大転換していったのです。その背景には、障害者たちの当事者運動が、障害の有無にかかわらず誰もが住みやすい共生社会づくりを「市民権(シティズンシップ)の問題」として問うてきた歴史があります。

国連ではこの「社会モデル」の考え方に立った「障害者の権利に関する条約」が2006年に採択され、日本でも「障害者差別解消法」がようやく2013年に成立しました。しかし、障害者が暮らしやすい社会づくりはまだまだです。なぜなら街をデザインする人、ビルを建てる人、教育現場で働く人、企業で働く人のほとんどが健常者だからです。障害者運動に「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というスローガンがあるように、これから持続可能な社会をデザインしていくには、障害当事者の参画が不可欠でしょう。みんなで、「社会にある障害」をなくしていく時代の到来です。

もっと深めよう

関連資料紹介

※リンクが掲載されている資料は本学図書館に所蔵されています。

『新版子どもの発達障害事典』
P.39 関連

『新版 子どもの発達障害事典』

原 仁 編/合同出版 2019年

神経発達症に関し、医療と教育の視点から、網羅的かつ具体的に解説がなされた実用的な書籍です。「子ども」とはありますが、各神経発達症の基本的な症状や、かかわりの視点を理解するのに有用です。

P.41 関連

『うつ病の人の気持ちがわかる本』

大野裕、NPO法人 地域精神保健福祉機構(コンボ)監修/講談社 2011年

うつ病を経験した人たちの言葉をもとにつくられた本です。うつ病の人の気持ちや対処法について具体的に書かれていますので、本書を読むことで理解が深まり、いろいろな対応方法を考えることができます。

『うつ病の人の気持ちがわかる本』
『トランスジェンダー問題―議論は正義のために』
P.43・P.45 関連

『トランスジェンダー問題―議論は正義のために』

ショーン・フェイ 著
高井 ゆと里 翻訳/明石書店 2022年

トランスジェンダーへの差別が深刻化する中、イギリスを中心にメディアや医療、階級、セックスワークといったさまざまな観点から、当事者たちが直面しているリアルで複雑な問題について検証しています。訳者による注釈も充実していて、日本における性のあり方にまつわる問題を考える上でも大いに参考になる書です。

P.45 関連

『フェミニズムってなんですか ?』

清水晶子 著/文藝春秋 2022年

「フェミニズム」の根幹には、性別を含めたあらゆる支配に基づいた関係を終わらせるというビジョンがあります。そのためにフェミニズムは何を考え、何を主張し、何をしてきたのか。性と身体、性暴力、結婚、スポーツ、ケア、LGBTQ、インターセクショナリティなどさまざまなトピックで学べる一冊です。

『フェミニズムってなんですか ?』
『LGBTと家族のコトバ』
P.45関連

『LGBTと家族のコトバ』

LGBTER 著/双葉社 2018年

国会議員の「生産性がない」発言や、『新潮45』の記事などで議論を巻き起こしたLGBT問題。本書は「娘が息子になった家族」や「かつては母だった父」、「ゲイ3人で同棲するカップル」など、LGBT当事者とその家族ら15名の赤裸々な半生を掲載しています。「家族とは?」「幸せとは?」と問いかける珠玉のインタビュー集です。

P.47 関連

『なぜ人はカルトに惹かれるのか―脱会支援の現場から』

瓜生崇 著/法蔵館 2020年

ある「カルト」教団への入信と脱会を経験した著者が、人はなぜカルトに惹かれるのかについて、「正しさ依存症」という観点から論じています。自ら関わってきたアレフ(旧オウム真理教)脱会支援の体験に基づいているので具体的な事例が豊富で、カルトの危険性が身の回りに溢れていることに気付かされることでしょう。

『なぜ人はカルトに惹かれるのか―脱会支援の現場から』
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