Human Rights
Handbook 2024

1

SNS社会の人権問題

ネットと上手く付き合おう

リテラシーパンダ

Thinking Time

大学生活で友人を得る上で注意しておきたいSNSの注意点とは何ですか?

01

SNS社会と人間関係

SNSでさまざまな人と出会える

SNSの登場は、私たちの情報流通に画期的な「革命」をもたらしました。インターネットが登場する以前の社会では、情報流通の「媒体(メディア)」は、マスメディア企業が独占していたため、マスメディアにアクセスできる一部の人々だけが情報の発信を担っていました。インターネットの登場は、そうしたトップダウン型の情報流通の環境を激変させ、マスメディアに属さない人々にも情報発信の機会を広く与え、それに伴ってよりインタラクティブな情報流通を可能にしました。またSNSの多くは、「匿名」で情報の発信を行うことができ、これを利用して複数のSNSアカウントを同時並行的に利用している人(例えば、実名で投稿する本アカウント、匿名で趣味について情報収集するアカウントなど)も珍しくないのではないでしょうか。SNSは、コミュニケーションツールとして、遠く離れた、見も知らぬ人たちと、趣味やスポーツ、食べ物、勉強、ニュースといったさまざまな事柄について、気軽に意見交換し、交流を深めることも可能にしました。それは、“うまく使えば”私たちの人生をより豊かにし、さらに政治についての意見を深めることで民主主義をより発展させるでしょう。もっとも、SNSでは情報流通への参入コストが大きく下がり、偽情報や陰謀論の流通も容易になりました。マスメディア中心の社会では、情報発信の前に、職業倫理に基づいたスクリーニングが行われてきましたが、SNSに流れている情報はそうしたスクリーニングを経ていないものも多くあります。偽情報や陰謀論には注意が必要です。また悪質業者による被害は、皆さんにとっても身近にある問題となっています。例えば「情報商材」は、投資などにより大金が稼げるとうたってそのノウハウを記載したマニ ュアルを販売するビジネスですが、中身に大した情報がないものや、より高額な商材の購入を勧誘するものもあるようです。消費生活相談窓口でもSNSに関連した相談が年々増加していると言われています。SNSでつながった人から「うまい話」を打診されても、うのみにしないことが重要です。

「『うまい話』をうのみにしないで!」

「『うまい話』をうのみにしないで!」

02

SNSによるプライバシー侵害

「軽い気持ち」が人権侵害につながることも

皆さんのスマートフォンには、写真や動画を撮影するカメラ機能を付属していることが一般的です。特にスマホの最新機種は、カメラ機能がどんどん高性能化しています。SNSに載せるための「自撮り」や「SNS映え」を狙ってスマホで撮影する姿は、今や日常の風景と言っても過言ではありません。だからこそ注意すべきことがあります。

スマホに付属しているカメラは、皆さんにとっては一般的で「気軽」なものですが、その一方で、カメラは使い方次第では他人の私生活に大きな影響を及ぼす、強力な「武器」にもなり得ることを自覚してください。

カメラでの撮影とSNS上で画像・映像を公開する際、問題となるのが「肖像権」と呼ばれる権利です。私たち一人一人は、自身の「肖像」を勝手に撮影して画像・動画を作成されない、さらにはそうした「肖像」を勝手に公開されない権利を持っています。皆さんは、友達と撮影したツーショット写真を、友達の許可を得ず、勝手にSNSに載せていないでしょうか?

自分がその写真を公開することが気にならなくても、その友達は違うかもしれません。必ず載せる前にひと言掲載について同意をとりましょう。

またSNS映えのスポットでカメラを向けた先に、見も知らぬ人の「顔」が映り込んでいることはないでしょうか?そうして撮影した画像を、「いいね」を稼ぐためにSNSに気軽に載せていないでしょうか ?

小さな映り込みぐらい大丈夫だろうと思っていても、顔認識技術により小さな顔画像をもとにSNSのアカウントを追跡することも可能になっています。また掲載した写真が無断で他のSNSやネット掲示板に転載され、被写体に対する誹謗中傷が行われるきっかけになることもあります。

必ず映り込んだ人に許可をもらうか、モザイク加工を行うアプリなどで顔の部分を見えないように加工することを心がけましょう。

「誰かを傷つけないか?立ち止まって考えよう」

「誰かを傷つけないか?立ち止まって考えよう」

03

グループチャット誹謗中傷の書き込み

そのコメント本当にあなたの意見?

女性プロレスラーがリアリティ番組をきっかけにSNS上で誹謗中傷を受け、自らの命を絶ってしまった事件は、皆さんの記憶に新しい出来事かと思います。それを機にSNS上での誹謗中傷対策が官民で検討されています。注意が必要なのは、こうした誹謗中傷の問題は、オープンなSNSに限らないことです。

刑法では、公然と事実を摘示して人の名誉(社会的評価)をおとしめると名誉毀損罪(230条1項) に、事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合には侮辱罪(231条) に問われます。

ここで問題となるのは「公然性」という条件です。公然性は、情報が不特定多数の人々に向けて発信されていることを意味します。では、鍵付きのSNSアカウントやメッセージアプリのグループチャットならば問題ないかというと、必ずしもそうではありません。

仮に少数であっても「伝播可能性」を考慮して、公然性が認められる場合もあるためです。つまり、グループチャットに参加している少数のメンバーのうちの一人が、別の大人数のグループチャットに情報を転載したり、グループチャット画面のスクリーンショット(いわゆる 「魚拓」)をオープンなSNSに投稿したりすることで、うわさが一気に拡散してしまう危険性があります。「人の口に戸は立てられない」ということわざがあります。いくら信用のおける友人グループのチャットであっても、ひょんなところから「うわさ」は漏れ伝わってしまうものと考えた方がよいでしょう。また誹謗中傷は誰もが加害者になり得るものです。ネット炎上に加担した人たちの動機の多くが、それぞれ個々人の「正義感」に基づくものであったとの指摘があります。「これは許せない!」と自分の中の正義感に火が付いた時は、まずはSNSの投稿ボタンを押す指を止めることを心掛けてください。同時に、自分が誹謗中傷の被害者になってしまうこともあります。インターネット上で誹謗中傷の被害を受けた際には、まずは、セーファーインターネット協会によって運営されている「誹謗中傷ホットライン」に連絡をしてみましょう。SNS事業者や電子掲示板の管理者等に対して、問題となった投稿の削除などを促すよう、通知してくれる場合があります。

「あなたも加害者に?『正義感』にご用心!」

「あなたも加害者に?『正義感』にご用心!」

04

不確かな情報(偏見)から始まる差別・いじめ

ネットで得たその情報正しいですか?

情報発信の参入コストが低下したことで、さまざまな人が発信と拡散を行えるようになりました。ネットで得られる情報の中には、不確かな偽情報や根拠のない陰謀論が転がっています。また偽情報の方が、真実よりも拡散速度が速いこともよく知られています。特にネットでは、人々の「注目」を引くことが重要な経済的価値を持つと考える「アテンション・エコノミー」というビジネスモデルが広がっています。そのため、「注目」を引くために必要な要素ではない正確性や科学的根拠などは二の次になりがちです。それどころか、新奇性(目新しさ)のある情報は人の注目を引きやすく、そのような偽情報はより多く人の注目を引き寄せます。

偽情報は感情をあおるような内容も多く、特に怒りの感情を刺激するものは拡散されやすいことが指摘されています。そうした偽情報の中には、特定の個人に対する偏見や、特定の人種を差別的に扱うものが含まれている場合があります。ネット上の情報は、分かっていてもすぐに「いいね」を押したり、シェアやリツイートによって拡散しがちですが、それによって傷つく人々がいるかもしれない、ということを忘れてはいけません。まずは冷静に、報道機関など信頼できる機関から発信された情報かを確認しましょう。

もちろん報道機関が流すニュースの中にも、「誤報」が交じっていたり、ひどい場合には「捏造」されたものが含まれている場合もあります。ただ忘れてはならないのは、こうした機関は特殊な職業倫理を有するプロの集まりです。情報を発信する前に、正確性を担保する情報の「裏取り」や、法的なチェックが行われています。また、悪意を持って「捏造」記事を書いた記者などは、所属する報道機関から厳しく処断されます。

複数の情報源や、もとになっている情報に当たることも必要です。またネット上で広く拡散してしまっている偽情報に対しては、「ファクトチェック」が行われている場合があります。日本でも、まだ小規模ではありますが「日本ファクトチェックセンター」が設立されています。情報を信じたり、拡散したりする前に、まずはファクトチェ ック結果を確認するなど、情報の真偽について確認する意識を持つようにしましょう。

「偽情報の中には人を傷つけるものも。情報発信は慎重に」

「偽情報の中には人を傷つけるものも。情報発信は慎重に」

情報BOX

人知れず誰かを傷つけていませんか?

もし傷つけられたと感じたなら一人で悩まず相談を!

SNS上での他人の人権やプライバシーの侵害が社会問題となっています。誹謗中傷、個人情報やプライバシーに関する情報の無断掲示、デマ・フェイクニュースの拡散、いじめ、児童ポルノ・リベンジポルノなど、例を挙げれば切りがありません。

あなたの何気ない投稿が、知らず知らずのうちに相手を傷つけることのないよう、また、あなた自身をも傷つけることのないよう、SNSに投稿する前に以下の点を思い出しましょう。そして、一つでも該当するのであれば、投稿をやめる勇気を持ちましょう。

  • あなたの言葉で傷つく人はいませんか?
  • 同じ言葉を相手に直接言えますか?
  • 投稿が半永久的に残っても大丈夫ですか?
  • 情報の発信源は信頼できますか?

近年のSNSにおいては、特に情報の発信源に注意する必要があります。SNSでは自身と同じ意見を持つコミュニティーが形成されることがよくありますが、そのようなコミュニティー内ではエコーチェンバー現象が発生し、コミュニティー内の意見は正しいものと思考が偏り、異なる意見や情報を無視しがちになります。また、AI技術の発展により、本物そっくりのフェイクコンテンツがネット上に溢れていることも現代のSNSの特徴です。情報が信頼できるものか、一呼吸おいて確認する必要があります。

もしSNS上であなたが傷つけられたと感じたとき、相手が大切な人でないのなら、ブロックやミュートなどの機能を使って少し距離を置き、一休みしましょう。また、相手からの心無い言葉にじっと我慢する必要もありません。SNSサービスの運営者に連絡して削除を依頼することができます。それでも解決しない場合は、匿名であっても相手を特定し、損害賠償を請求することもできます。

大事なのは、一人で悩まないことです。家族、友人、学生センターはもちろん、公共や民間の相談窓口も複数あります。困ったことがあったなら、まずは相談しましょう。

※エコーチェンバー現象:SNSにおいて、価値観の似た者同士で交流し、共感し合うことにより、特定の意見や思想が増幅されて影響力を持つ現象(デジタル大辞泉より)

相談窓口

出典および参考資料

もっと深めよう

関連資料紹介

※リンクが掲載されている資料は本学図書館に所蔵されています。

『リスクに備える最新情報版 大学生が狙われる50の危険』
P.9、P.11、P.13、P.15 関連

『リスクに備える最新情報版 大学生が狙われる50の危険』

(株)三菱総合研究所・全国大学生活協同組合連合会・日本コープ共済生活協同組合連合会・奈良由美子 著/青春出版社/2023年

成年年齢が20歳から18歳に変わり、大学生の皆さんは法的にもさまざまなことができるようになりました。その一方、悪質商法に代表される消費者トラブルに一層注意しなくてはなりません。この本は、そうしたリスクから、スマホ・SNSの利用上のリスク、病気やけがなどの日常でのリスクまで、大学生が知るべきリスクとその対処法をまとめた一冊になります。

P.9、P.11、P.13、P.15 関連

『2023 事例でわかる情報モラル&セキュリティ』

実教出版編修部 編/実教出版/2023年

SNSで人権侵害をしないために情報モラルを身に付けましょう。この本では、ネット社会で必要なマナーやモラル、さらにはセキュリティを、事例漫画を見ながら学ぶことができます。高校生向けのため難しくなく、苦手と思う人も安心して読むことができます。

『2023事例でわかる情報モラル&セキュリティ』
『ソーシャルメディア炎上事件簿』
P.13 関連

『ソーシャルメディア炎上事件簿』

小林直樹 著/日経デジタルマーケティング 編/日経BP/2011年

SNSの炎上と聞いても、他人事と感じている人も多いのではないでしょうか。この本は、10年以上前の2011年発刊ですが、当時のSNSにおいて炎上した30の事件を赤裸々に描き、炎上の理由や対策を解説した本になります。反面教師としてリテラシーを高めるために過去の炎上事件の詳細を知りたい、という人にはお勧めです。

P.15 関連

『フェイクニュースを科学する拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』

笹原和俊 著/DOJIN文庫/2021年

皆さんは、フェイクニュースとはどのようなもので、どのように拡散するか知っているでしょうか?この本では、認知バイアスに代表される人間の認知特性、エコーチェンバー現象やフィルターバブルに代表されるSNS特有の情報環境の特性など、さまざまな側面からフェイクニュースを議論し、メディアリテラシーやファクトチェックなどの対抗策を検討した一冊になります。

『フェイクニュースを科学する拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』
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