関西大学 KANSAI UNIVERSITY

KANSAI UNIVERSITY

大阪マラソン×
SDGs
劉雪雁ゼミによるインタビュー記事

大阪マラソンと“SDGs”
~持続可能な未来のゴールを目指して~

/杉本厚夫 関西大学名誉教授

  今回の大会では、関西大学社会学部・劉雪雁ゼミの学生が、「大阪マラソンと“SDGs”」をテーマにさまざまな人たちを取材する取り組みを実施。持続可能なより良い社会の実現に向けて何ができるのかを考えます。

  全6回シリーズの第4回目は、第1回大会から読売新聞社との「大阪マラソン共同調査研究」に取り組む杉本厚夫 関西大学名誉教授に、SDGsゴール11「住み続けられるまちづくりを」、ゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」などをテーマにお話をうかがいました。
※この記事は、2022年1月に行った取材をもとに作成したものです。第10回大阪マラソン・第77回びわ湖毎日マラソン統合大会は、一般ランナー部門を中止し、エリート部門のみでの開催が決定しました。

調査研究を通じて、多くの人々が大阪マラソンに魅了される謎が解けた

劉ゼミ
杉本先生が大阪マラソンに関わった経緯は何ですか?
杉本名誉教授
マラソンはもともと一番嫌いなスポーツでした。その理由は、サッカーのようにボールを追いかけて走るとか、ジョギングのように健康になるために走るとか、走りを手段としてしか考えていなかったので、走ること自体が目的であるマラソンの意味がまったく理解できず・・・。市民マラソンが全国で隆盛し、3,000もの大会があると言われていますが、なぜ42.195㎞を走るという苦しいことを好んでするのか不思議でなりませんでした。そんな中、関西大学と読売新聞社から声が掛かり、大阪マラソンの調査研究に関わりました。

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劉ゼミ
杉本先生が考える大阪マラソンの魅力は?
杉本名誉教授
9回連続で調査研究をやっているうちに、なぜ多くの人びとが大阪マラソンを走りたくなるかという謎が解けてきました。大阪マラソンの一番の魅力は観客の応援だと思います。海外ランナーの参加動機を調べたところ、「観客の応援が楽しいと聞いたから」という答えが一番に上がりました。沿道の観客はユーモアあふれるメッセージボードとか、クスッと笑えるような応援でランナーをリラックスさせるのが、大阪マラソンの特徴だと思います。

また、ボランティアも魅力のひとつです。名物給食AIDの「まいどエイド」もそうですが、単に食べ物を渡すだけではなく、歌ったり仮装したりして渡し、ランナーを和ませようとしていました。それを見てランナーが元気を取り戻して、最後まで頑張る気持ちやまた参加したい気持ちが湧いてきます。ボランティアを楽しむことが相手を元気にする、このあり方にすごく感動しました。ボランティアの調査をしていた時に、「来年もまたさせてほしい」という言葉がありました。「何か私が役に立つことをさせてほしい」、これは本来のボランティアの考え方であり、それを実践しているところに大きな意味を感じました。
劉ゼミ
大阪マラソンで印象深かったことを教えてください。
杉本名誉教授
第4回大会から始まった「力持ちボランティア」というものがあります。これは開催中に道路が遮断され渡ることができない一般の方々の自転車を持って、歩道橋を渡ったり地下道を通ったりする活動です。この「影のボランティア」に対しても、あるランナーがアンケートの自由記述欄に「皆さんのおかげで走らせてもらっていることを痛感し、感謝の気持ちでいっぱいになった」と書いていました。都市生活で忘れていた人々への思いやりや、それに対する感謝などを走ることによって得られたことは大阪マラソンの大きな特徴であり、印象深いところだと思います。

大阪ならではのチャリティ文化を、世界へ

劉ゼミ
大阪マラソンは世界から注目されるマラソン大会を目指すことを目標の一つにしていますが、そのためにはどうしていけばいいですか?
杉本名誉教授
世界から注目されてほしいのは、大阪文化にあるチャリティ文化です。1月に出版した『大阪マラソンの挑戦』(創文企画)という本のサブタイトルに、「市民マラソン、チャリティ文化、都市創造」をつけました。大阪マラソンはロンドンマラソンを目指してチャリティマラソンにしようという考え方でずっとやってきましたので、大阪がもともと持っているチャリティ文化がそこに花開くことを、もっとアピール必要があると思います。

大阪の多くの橋や、大阪のシンボルになっている大阪市中央公会堂などは民間人の寄付によって建てられました。それが大阪の気質で、国に頼らず自分たちでまちを作っていくチャリティ文化は今まで脈々と続いています。そうした文化を背景に行われているマラソン大会であることをアピールしていくことが大事です。今後の成熟社会において、チャリティ文化によってわれわれは自分たちで何かをしていこうという機運が高まってきているのではないかと思います。寄付文化が根付いているのが大阪の特徴で、寄付する人と寄付される人の意識のつながりで地域共同体を作り出していきたいです。

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インタビューの様子

劉ゼミ
大阪マラソンが日常生活にどのような影響を与えると思いますか?
杉本名誉教授
ある主婦の話ですが、何気なく大阪マラソンを見に来たら周りの雰囲気に誘われて、知らない間に声を出して知らないランナーを応援していました。その時に、普段の生活でこのように知らない人に声をかけることはなかったことに気づき、次の日から近所の知らない人にも気楽に声をかけるようになり、地域の人間関係が広がっていたといいます。このように応援することによって普段の生活を変える力を大阪マラソンは持っています。これは非常に大事なことです。「非日常」でのイベントを通して自分の日常生活の振り返りができることに、大阪マラソンが寄与していると調査から見ることができます。ただそれは応援する側だけではなく、応援を受けた側も同じように考えていました。

近所の人と目を合わせて挨拶することをしない、コミュニケーションが苦手のランナーが、大阪マラソンで見知らぬ沿道の方々から応援され、笑顔でハイタッチしていました。大阪マラソンの後は人との会話を楽しむようになったという事例がありました。このように日常生活が変わるきっかけが、応援することによって得られるというのは、大阪の都市創造の中で非常に重要なことだと思います。いま都市生活の中で孤立してさまざまな問題が起きていますが、大阪マラソンは日常生活におけるコミュニケーションの大事さなどに気づく場になっていると思います。このようにランナーも観客も相互作用で一つのアイデンティティを形成しています。

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劉ゼミ
コロナ禍での開催の意義や課題は何ですか?
杉本名誉教授
第10回の今回はコロナ禍での開催となりますが、大阪マラソンの意義を改めて考える必要がありますし、調査で課題も見つけなければなりません。コロナ禍がわれわれに問いかけているのは、今まで当たり前のように思っていた日常を、どのようにもう一度基本から見直すか、ということだと思います。形状記憶のように元に戻るのではなく、未来の大阪マラソンを作っていく意味で、コロナを機に学ぶことがすごくあると思いますし、今回の調査のテーマでもあると思います。

ピンチはチャンスでもあります。大阪マラソンがこれから持続可能な形で存続するためには、基本的な見直しが必要だと思います。観客がいないから感動がなくなるとは思いません。沿道の応援に変わるような感動が得られる仕掛けであったり、皆があらゆる形で大会に関わり楽しめるような仕掛けが、根本的な見直しの中から出てくるのではないかと思います。

<取材担当学生:千原颯、小林杏名、久保杏梨>