関西大学 KANSAI UNIVERSITY

KANSAI UNIVERSITY

大阪マラソン×
SDGs
劉雪雁ゼミによるインタビュー記事

大阪マラソンと“SDGs”
~持続可能な未来のゴールを目指して~

/東京2020パラリンピック女子マラソン(視覚障がいT11/T12)金メダリスト 道下美里さん

  今回の大会では、関西大学社会学部・劉雪雁ゼミの学生が、「大阪マラソンと“SDGs”」をテーマにさまざまな人たちを取材する取り組みを実施。持続可能なより良い社会の実現に向けて何ができるのかを考えます。

  全6回シリーズの第3回目は、東京2020パラリンピック女子マラソン(視覚障がいT11/T12)金メダリストの道下美里さんに、SDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」、ゴール10「人や国の不平等をなくそう」などをテーマにお話をうかがいました。
※この記事は、2022年1月に行った取材をもとに作成したものです。第10回大阪マラソン・第77回びわ湖毎日マラソン統合大会は、一般ランナー部門を中止し、エリート部門のみでの開催が決定しました。

ダイエットから始まったマラソン。
障がいのある人がより暮らしやすい社会を創りたい

劉ゼミ
東京2020パラリンピックで金メダルをとられたことの意義を教えてください。
道下氏
2016年のリオ大会では銀メダルに終わり、すごく悔しい思いをしました。自国開催の東京オリンピック・パラリンピックは、アスリートにとって一生に一度経験できるかできないかという大舞台です。この舞台での金メダルを誰しもが目指していたと思うので、しっかりと結果を残せたことはアスリート人生においてすごく意味のある、価値のあることでした。

また障がいのある人がより暮らしやすい社会になるよう、私自身も発信力を高めるきっかけになった大会でもありました。地域で活動する中で、パラリンピック後、声をかけてくださる回数が以前に比べてかなり増えました。パラスポーツをより身近に感じられたのだと思いますし、パラスポーツを通して、障がいのある人にどのように接したらいいかと考えてくださる人が多くなったように思います。これらのことも含めて、私にとって東京パラリンピックで金メダルをとったことはとても意味深く、これからの人生を大きく変えたメダルだと思います。

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インタビューの様子

劉ゼミ
道下さんがマラソンを始めたきっかけを教えてください。
道下氏
マラソンを始めたきっかけはダイエットです(笑)。目が不自由になって、日常的に運動不足になったりストレス発散のために食に走った時期があり、増えた体重をどうにかしたいと思って走り始めました。最初は中距離を走っていたのですが、その後、出身地の山口県下関市でフルマラソン大会が開催されることを聞いて、ちょっと挑戦してみたいなという好奇心が湧いて参加したのがきっかけでマラソンを始めました。
劉ゼミ
沿道の応援はランナーにとってどういう意味がありますか?世界各地の大会に参加し、沿道の応援に違いはありましたか?
道下氏
海外ではホノルルマラソン、ロンドンマラソン、そしてリオ大会、ボストンマラソンに参加しました。その中で感じるのは、海外の応援はお祭りのようなムードだということ。通りかかるランナーに声をかけることを楽しんでいる人が、海外ではすごく多い感じがします。障がいのあるアスリートだったり、エリートランナーだったりは関係なく、沿道からの応援がすごくて、「一緒に盛り上がろう!」という雰囲気をより強く感じられると思います。

いつもそばに伴走者(仲間)がいることが、私が走り続ける一番の原動力

劉ゼミ
伴走者との関係性についてお聞きします。普段はどのように練習していますか?
道下氏
週2回早朝のランニングを一緒に走る伴走者の方は、もともと同じマンションに住んでいました。伴走者は家族よりも自分の見え方を知っているのではないかと思うぐらいで、「どういう声掛けをすれば楽に走れるか」を一生懸命考えてくれます。他の伴走者の方も、走る時以外に一緒にご飯を食べに行くなど、家族や友だちと変わらないようなスタンスでそばにいてくれる方が多いです。

目が見えない中で走ることは、最初は怖かったです。50メートルぐらいなら何とか全力で走れましたが、それより距離が長くなると怖い。路面がちょっと変わるだけで恐怖心が湧いてきました。でも伴走者の方がついてくれて、「マンホールがあるよ」とか「1㎝の上りの段差」など具体的な声掛けをしてくれることで、徐々に長距離も走れるようになりました。人間には順応力があるので経験とともに慣れてきて、今では全然知らない場所でも信頼できる伴走者がいれば安心して走れます。

いつもそばに伴走者(仲間)がいることが、私が走り続ける一番の原動力だと思います。1週間の練習を約12人の方に支えてもらっています。20代から70代までと幅広い年齢層の方々がガイドバンドを持って一緒に走ってくれます。その人たちが私の原動力になっています。

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どんな質問にも気さくに答えてくれる道下さん

劉ゼミ
パラスポーツがもっと普及するための改善点があれば聞かせてください。
道下氏
視覚障がい者は見えないことによって、情報を入手しづらい、一人で行きたい場所に行けないなど、「情報障がい」と「移動障がい」が常につきまといます。例えば大会の開催情報は、友人の助けや、ネット検索ができないと得ることが難しいです。最近では、音声対応のサイトが増えてきたのでネットで情報を得やすくなってきていますが、周りでも視覚障がい者が自分でエントリーまでできることは少なく、伴走者の方にしてもらうことが多いです。また大会の開催地に一人で行くにはどうしたらいいかと悩む方もいます。

盲学校や視覚障がい者の施設などで、地域の大会に関する情報を簡単に入手したり、移動手段を支援する仕組みなどがあれば、あるいは参加をよびかけて課外授業で一緒に取り組むといったことが日常的にあれば、よりスポーツに取り組みやすいのではないかと思います。また地域の大会に参加して色々な人と関わり楽しむ経験を積めば、新しいことに飛び込みやすくなったり、周囲の人に手助けを求める手段を得るなど、社会に出たときに役に立つと思います。
劉ゼミ
障がい者の方が参加しやすい社会を作るには、どのようなことをしたら良いのでしょうか?
道下氏
約11年前、私は誰も知り合いのいない福岡に引っ越してきました。行動的でいろんな場所に出かけることが好きですが、知らない場所では道や土地の情報を一つ一つ覚える必要があり、主人がいないと外出ができない状況でした。そんな時に、街で信号が青に変わった際、「青になりました、一緒に渡りましょうか」と学生さんに声をかけていただいたことがあり、すごく気持ちが明るくなりました。知らない場所にもこうして声をかけてくださる方がいることで、もっと外に出ようという気持ちが湧いてきました。本当に背中を押してくれたひと言でした。

障がい者には日常的に困ることがあります。障がいのある人を見かけた時に、手助けをしようとする人や、気軽に声をかける人が増えることで、障がいのある人がもっと外に出ようという気持ちになり、社会に参加しやすくなるのではないかと思います。
劉ゼミ
大阪マラソンに出場される皆さんへの応援メッセージをお願いします。
道下氏
大阪マラソンに出場される皆さん。今回の目標はなんでしょうか。自己記録更新を目指す方、完走目的で走る方、その後の打ち上げを目標に走る方、さまざまな目標があるかと思います。私がマラソンを走る時に必ず心がけていることは、「どんな時もポジティブでいること」です。練習ができていない、じゃあその中でどういう走りをするか。練習が思いっきりできている、でも風がすごく強い。じゃあこの風の中で自分がこの風をどう利用して走れるかとか、そういう意識で自分をどうプラスに持っていくかによって結果というのはすごく変わってくると思います。

皆さんもスタートラインに立つ時には、今日はどういう目標を立てるのか、自分の中でしっかり考えてポジティブな発想でマラソン完走をぜひ目指してみてください。福岡から応援しています。

<取材担当学生:千原颯、園昇一郎、中村楓>

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道下 美里(みちした みさと)
1977年山口県出身。角膜の病気により中学生で右目の視力を失い、その後左目の視力も低下。中距離のレースで鍛えた後、2008年にマラソンに転向し、16年のリオデジャネイロパラリンピックで銀メダルを獲得。雪辱を誓った21年東京大会で3時間00分50秒の記録で金メダルを獲得した。表彰台で受け取った金メダルを自分より先に伴走者の首にかけた様子は広く報じられた。