芝井の目

秋入学の新入生へのメッセージ

2018.09.20

 9月19日(水)は忙しい1日でした。春学期の卒業式・学位記授与式、学位(博士)記授与式に加えて、秋学期の入学式が行われたからです。ご存知のように、卒業式も入学式も春に行われるのが風物詩となっている日本です。それぞれこじんまりした式典でしたが、学長の責任を考えると、たとえ短くても何か心に訴えるものを伝えたいと思い、秋学期の入学式では尊敬する出口治明さんの言葉を引用しました。以下は、秋学期に新入生になる学部と大学院の学生にたいするメッセージです。


「本・人・旅」

 皆さん、ご入学おめでとうございます。
 皆さんは、これから始まる4年間の大学生活に、大きな希望をもってこの場に座っていると思います。まことに古い話で恐縮ですが、せっかくの機会ですので、私自身が大学に入学した時のことを、少しお話ししてみます。私が大学に入ったのは、1974(昭和49)年の4月、いまから44年以上前のことでした。
 今でも覚えている入学のときの気持ちを素直にいうと、「うれしかった」。なぜかといえば、「これでもう、受験勉強をしなくてもよい」という解放感、別の言い方をすると「これからは自分の好きな本をたらふく読める。面白そうな学問分野の勉強が好きにできる」という期待感、それが大きかったのです。事実、お世話になった受験参考書の類は、まだ合格発表が出る前の3月のうちに、ひもで括ってリサイクルごみに出してしまいました。大学に受かったかどうかは別にして、もう顔も見たくなかったのですね。不合格だったら、そのときには、どこかの予備校に入って、一からやりなおそうと考えていたわけです。
 大学に入学してから、1年生の時には、おおおよそ200冊くらいの本を読みました。高校での受験勉強というのは、たいてい、まあそう面白いものではありません。それと比べて、哲学、歴史学、経済学、政治学、社会学、心理学、人類学、民俗学などなど、この時に出会ったさまざまな学問ジャンルの書物は、高校までの自分がそれまで知らなかった知識の宝庫でした。小遣いやアルバイトで得たわずかのお金を手にして、古書店をめぐり気に入った本を買い求める楽しみも、この時期に覚えました。
 さて、皆さんは出口治明さんという人をご存知でしょうか。大学卒業後、34年間日本生命保険に勤めた後、勇敢にもライフネット生命保険というネット保険の会社を、30歳を過ぎたばかりの岩瀬大輔さんという若者と一緒に立ち上げ、さらに今年の4月から大分にある私立大学の学長に就任された方です。
 今年70歳になる出口さんは、それまでに人生を振り返って、こう述べています。自分は教養人であるとは思わないが、私にいくばくかの教養のようなものがあるとすれば、それを培ってくれたのは3つ、「本・人・旅」の3つであると述べています。「さまざまな本を読み、さまざまな人に出会い、さまざまな場所を旅すると、世界にはこれほど素晴らしいところがあり、こんなにも素晴らしいひとがあるのかと、その広さと豊かさをあらためて実感します。同時に自分の小ささや幼さがよく分かります。『本・人・旅』は、常に私に身の丈を思い知らせ、謙虚であらねばと思わせてくれます。『本・人・旅』は私の人生の道しるべなのです。」
 さあ皆さん、これから挑戦しなくてはならないことがたくさんあります。選りすぐりの本と出合い、一生の友と出会い、旅を通じて世界と出会う。ここ関西大学での皆さんの大学生活が、その後のあなたの一生を左右するような濃密な時間になること、これからのあなたの人生の道しるべとなることを心より期待して、私の式辞といたします。

9月20日 学長 芝井 敬司