大学執行部リレーコラム

「京の水脈シリーズ第1回 京都水盆」(楠見 晴重)

2009.10.22

 京都盆地は古来より地下水の利用が盛んな地域です。それは平安京の時代から今も変わりません。現在、京都盆地ではどれくらいの地下水が利用されているのか、正確な資料はありませんが、その用途は上水道、農業、工業をはじめ飲食、酒造り、豆腐造り、友禅、茶道など多岐にわたります。また、京都市内には堀川、清水、出水、泉殿、小川、河原町、御池、今出川、川端、白川、泉川など水に関係する地名が多いことに気づきます。清水寺には音羽の滝があります。これは東山からわき出ている地下水で、1200年以上にわたってわき出ています。京都は、水にまつわる文化を1200年の間はぐくんできました。
 なぜ京都盆地には地下水が豊富に存在するのでしょうか?もともと盆地は地形的に地下水が豊富で、長野県安曇野、福井県大野、神奈川県秦野なども代表的な例としてあげられます。しかし京都盆地は、盆地の大きさもさることながら、地下水の賦存量は他を圧倒しています。京都盆地は南北約33km、東西約12kmの縦に長い形をしており、地質は上から約3万年前に薄くたい積した沖積層、約150万〜500万年前にたい積した洪積層、約1億〜1億5千万年前にたい積し岩盤から成る古生層が分布しています。地下水は主に沖積層、洪積層の砂れき層に多く包蔵されています。
 その南北方向(堀川通)の地下の様子は、京都市消防局防災対策室(現・防災危機管理室)が人工的に地震を起こして活断層を探る反射法地震探査を用いて行った図のとおりで、岩盤までいちばん深い場所は巨椋池(宇治の辺りにあった大きな池で、埋め立てられて今はない)付近で約800m、その上に砂れき層は何層にも分布していることがわかります。また、京都盆地に入ってきた地下水が流れ出る個所は桂川、宇治川、木津川の3川が合流する幅約1kmの天王山―男山辺りです。天王山と男山は同じ古生層から成り、地下わずか30mのところでつながっています。すなわち幅約1kmの天然の地下ダムが存在しているのです。
 私は、ほかの地震探査資料、重力探査資料、約8000本のボーリング資料から、京都盆地の地下水賦存量を計算した結果、約211億トンとなりました。琵琶湖が約275億トンですから、京都盆地の地下には、琵琶湖に匹敵する水量の地下水が存在していることになり、しかも天然の地下ダムによってほんのわずかな量しか流れ出さないため、京都盆地には多量の地下水が貯留されていることになります。このように、自然の作用によって形造られた地下水の豊富な京都盆地を、私は「京都水盆」と名づけることにしました。

音羽の滝
音羽の滝
御香宮神社の御香水
御香宮神社の御香水
井戸水を使った豆腐造り
井戸水を使った豆腐造り