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【執行部リレーコラム】日本に1つしかない学部

2016.12.24

副学長 吉田宗弘
 長野県上田市の信州大学繊維学部で開催された学会に参加してきました。上田市はNHKの大河ドラマ「真田丸」の舞台であり、駅前には真田幸村の大きな銅像もありましたが、ここでは「繊維学部」という、おそらく多くの人に馴染みのない学部について述べます。
 信州大学繊維学部は1910年に開設された官立の上田蚕糸学校を前身としており、今年で創設106年を迎えています。蚕の繭から絹糸を紡ぐ製糸産業はかつて日本の主要産業であり、日本各地に蚕糸学校が設置されていました。戦後の学制改革に伴い、これらの蚕糸学校の多くは大学の繊維学部となりましたが、製糸業の衰退とともにその多くは改組・改名され、21世紀に入った時点で繊維学部を有するのは信州大学と京都工芸繊維大学の2大学のみとなっていました。その後、2006年に京都工芸繊維大学の繊維学部が工芸学部と合併して工芸科学部となったことから、繊維学部は信州大学にしか存在しない、学会の懇親会で挨拶された学部長の言葉を借りれば「絶滅危惧種」となりました。
 現在の信州大学繊維学部(英語名Faculty of Textile Science and Technology)は、「ファイバー」をキーワードとした教育・研究を行なう4つの学科によって構成されており、工学士と農学士を社会に送り出しています。天然繊維や化学繊維だけでなく、光ファイバー、炭素繊維なども守備範囲であるため、機械や電気系のスタッフも充実しており、農学と工学を融合した特徴ある「絶滅危惧種」として認知されています。
 研究の対象を学部名にしているという点で「繊維学部」は1980年代以降に急増した文理融合型の「人間学部」「環境学部」「情報学部」などとネーミングのコンセプトは同じといえます。一般論ですが、このような「研究対象名を冠した学部」は一体感を保つことが重要と思います。信州大学繊維学部は蚕糸学校の伝統を引き継いでいるため、構成員の「ファイバー」というキーワードへの強いこだわりが学部の一体感を高めて活気を生み出していると感じました。
 大学を活性化するため、世間のニーズにあわせるため、補助金を獲得しやすくするためなど、様々な理由で、新規な名称の学部や学科が誕生し続けています。このような新学部・学科が成功するには、そこに集う教員が共通のキーワードに強いこだわりを持つことが必要です。古い看板であっても、中身を更新し続けることによって存在感を示し得ることを信州大学繊維学部は証明しています。

添付写真:貯繭庫(ちょけんこ)
 かつて繭を保存した貯繭庫です。現在は資料館になっています。植えられているのは桑です。