芝井の目

愛しいあなたへのメッセージ 〜遠隔授業の開始にあたって〜

2020.04.17

                                   2020年4月17日
                                 学長  芝井 敬司
                         

 4月に入学された新入生の皆さん、そして上位学年に進級された在学生の皆さん。すでに周知のように、4月7日に政府によって出された特措法に基づく「緊急事態宣言」と特定都道府県となった大阪府の要請を受け、4月10日に関西大学では5月6日までの休業とキャンパスへの立ち入り禁止を決定しました。
 この措置によって、これまで私たち関西大学がもっとも大切にしてきた人との出会いと交流が大きく毀損される事態となりました。大学生活に夢と期待をもって学ぶべきあなたから、貴重な機会を奪い取った感染拡大にたいして、私たち関西大学はあなたとともに、ぶつける先のない「腹立ち」と耐えがたい「口惜しさ」、ここまでの事態の急展開への「戸惑い」と将来のいっそうの深刻化への「不安」といった思いあるいは感情を、こらえることができません。
 新入生はキャンパスを自由に訪れることを禁じられ、大学の対面授業を経験できず、友だちをつくる機会も奪われています。上級生もまた苦しい状況に置かれています。専門分野の研究テーマを深めるためにゼミや研究室に行くことすらできず、気の合う友だちと楽しく語らうことを妨げられ、スポーツ・学術・文化に関するクラブやサークルの活動も停止されて、キャンパスは文字通り火が消えた状態です。新型コロナショックのために、下宿生は生活費の足しにしていたアルバイトの機会が失われました。就職活動に臨む最上級生は、慣れないオンラインでの説明会や面接に四苦八苦しながら、何とか対応することを余儀なくされています。
 しかしながら私たちは、こうした困難のなかでも、大学教育をあきらめるわけにはいきません。大学は、来週の4月20日から、「インターネットを利用した遠隔授業」を本格的に開始することを決定しました。これまで実施してきた対面授業と比べると、インターネットを利用した遠隔授業にはさまざまな制約が想定されます。でも教員・職員は、あなたのために精一杯努力しようと決心しました。初めての取組であるため、最初はうまくいかないことがあるかもしれませんが、少しでも良い授業を提供したいと考える教員・職員と、授業の開始を待ちわびている学生の皆さんが、どうか力をあわせてこの困難を乗り越えてほしいと願っています。
 もう一つ皆さんにお伝えしたいことがあります。たぶん皆さんは、突然の新型コロナ感染症の拡大とそれに伴う日常生活上の困難や厳しい制約を、あなた自身にとっては降ってわいたひどい災難だ、何て自分は不運なのだろうと嘆いていることでしょう。しかし、現在、皆さんが見舞われている新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う困難は、決してあなた一人の困難ではありません。一つの大学の困難でもありません。一つの地域を越えた日本の社会全体の困難、いやそれどころか、グローバル化した世界、人類全体が等しく見舞われている新型感染症のパンデミックという世界史的な大災害なのです。であるからこそ、あえて私たち関西大学は皆さんに、個人の不運をのみ嘆くのではなく、このさいあなたが社会の構成員の一人として持つべき思いやりとやさしさ、人間としての誇りと真の強さを求めます。私たちを育んでくれているこの社会にたいするあなた自身の責務について強い自覚を求めます。感染予防に意を払いながら、このまとまった時間を使って自らの知識、教養、人格の向上を目指すことが、個人の目的であるとともに社会にたいするある種の義務であるという自覚を堅持しながら、どうか有意義にお過ごしください。
 私たちの愛しい人たち。関西大学のキャンパスで皆さんの晴れ晴れとした姿を見る日はいったい何時になるのか、現時点でそれを確かに見通すことはできません。私たちは、少なくともしばらくの間、外出を制限されて不自由な生活を強いられます。でも、いずれ遠からず今回の新型コロナウイルス感染が終息する日がやってきます。その時まで、感染防止に細心の注意を払いながら、大人の自覚をもって、ぜひこの時間を慎重かつ有意義に過ごしてください。それでは、笑顔のあなたとキャンパスで会える日を心待ちにしています。

                                   (以 上)