実践演習 TA 業務ふりかえり(2021/08/06)

こんにちは、秋学期開始まで残り二月を切ってしまいすでに焦っています、院生(M2)の野元です。先日、夏季集中講義である社会安全実践演習(危機管理本部運営)に TA として参加しました。せっかくなので、感想などをまとめておきます。

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演習実施本部(2) Zoom 背景;当日即席で作成。

この実習は、いわゆる想定外の事態における「危機管理」に必要なスキルを養うことを目的としています。 ISO 22320 に沿った内容を学べるようデザインされており、3日間かけて、学部生向けにエッセンスを抽出した体験型の演習が行われます。

適宜開示される情報を整理しながら、(1)危機の影響や重要度、対処可能性などについて認識を統一する COP(Common Operational Picture)の作成、(2)危機管理における MBO(Management By Objectives)実行のための目的の共有、(3)それらを踏まえた個々の具体的なアクションプランである IAP(Incident Action Plan)の作成などを行い、それらの効果と難所を、体感しながら学ぶ構成になっています。

さて、演習の詳細は学部生のどなたかが書いてくれると期待して、自分は、TA 業務のなかで思ったことをいくつか振り返ってみようと思います。

〇 投資と初期費用

TA の仕事内容は受講生の皆さんに見えている範囲だと、出席確認や資料配布、発表時のマイク消毒くらいだったかもしれません。実際には、事前講義や各種演習が行われている間に、各教室の準備や印刷物の用意など、裏で色々な作業をしていました。例えば、各教室の連絡網として利用した Zoom のセッティングは当日行ったのですが、うまく接続できない場合には、TA でフォローしていました。

ICT の導入については、コロナ禍で昨年度にオンライン対応が進んだこともあり、OneDrive を用いた共同作業も積極的に行われていました。ゴミの削減や作業効率化に一役買っていたと思います。一方で、各班のメンバーが資料を統合する際、発表用資料を空データで上書きしてしまうトラブルもあったようです。

こうした現実では起こり得ないハプニングは、ICT のデメリットとしてよく挙げられます。ただ、これは個人的にはどんな手法を選択する際にも現れる「トレードオフ」だと考えています。慣れや習熟によって、問題を未然に防いだり、より安全な代替手法をとることが可能だからです。

ICT の活用は、個人的な便益に限らない多角的なメリットを同時に得られるという点で、ほかの手法よりも魅力的な選択です。しかし、問題はその初期費用(学習コスト)をどう限られた資源のなかから捻出するかです。主観的なインセンティブがほかの物事よりも相対的に低いなら、便利なツールを使わないことは、むしろその時点においては合理的でしょう。

長期的な効用を見据え、学習する余裕を持つことができたという点で、自分は恵まれているのだなと改めて思います。同時に、やはり教育機関が「学ばせる」場所ではなく、「学べる」場所であってほしいし、そのための支援が、より充実していってほしいものだなと考えていました。

〇 テスト駆動ライフ

実は演習中、運営側でもトラブルがなかったわけではありませんでした。例えば、各教室の役割変更にあたって、教員および受講生の配置を示す資料を TA 側で用意したのですが、教室番号の振り方を間違えており、いくらか混乱させてしまいました。

幸い、教員の皆様にうまく立ち回っていただき事なきを得たものの、きちんとチェックしていれば良かったなと反省しています。元々の教室の配置が若干ややこしかったこともあり、ほかの場面では注意していたのですが、このときは資料作りが存外スムーズに進んでしまい、見逃してしまっていました。

こういった検証忘れを防ぐ方法は色々あると思いますが、ソフトウェア開発の現場では、TDD(Test Driven Development: テスト駆動開発)という手法をよく見聞きします。入力と出力の対応を確認する「テストコード」を先に書き、そのテストが通るように、各システムを実装するというものです。

もし、人間の様々なタスクについても、先にテストを用意して自動で検証できるようになっていれば良いのですが、ノイマン型コンピューターではない私たちにとっては、あらゆる物事のテストをいちいち記述するのは、かえってコストパフォーマンスを下げてしまいます。

XR や AI 等の関連技術の力を借りることで、TDD ならぬ TDL(Test Driven Life)が実現しないかなあなどと考えてしまいましたが、これは自分のタスクですね。図らずも、自分の目指す社会の将来像と符合する要素が立ち現れてしまいました。

〇 間違わせないデザイン

先ほどの教室番号のミス以外にも反省点はあります。例えば最終日の片付けでは、回収した物品に各教室のマーカーやマグネットがかなり紛れ込んでおり、確認などに少々手間取ってしまいました。回収前に注意喚起しておけば良かったのですが、これも完全に見落としていました。

こちらで配ったマーカーには「社会安全学部」のテプラが貼ってあったものの、その違いは認識されていなかったようです。見た目が明らかに違うようなマーカーを準備しておけば、直接説明する手間も省けて良かったかもしれません。

こういった勘違いを防ぐデザインというのも、なかなか興味深い分野です。社会安全学の分野はもちろん、日常生活の様々な場面でも利用できるので、もっと広まってほしいなと思います。脳の認知資源を考慮して情報の扱われ方を設計する、というのが基本なので、まずは書籍「ノンデザイナーズ・デザインブック」や、Web サイト「伝わるデザイン」などを読むだけでもどうでしょうか。

https://tsutawarudesign.com/

間違わせないデザインの方法論としては、判断材料の可視化も有用なアプローチのひとつです。今回の演習のなかでも指摘されていましたが、同じ状況を目の当たりにしても、それをどう認識するか、どのような対応が必要なものと判断するかは、人によってかなり変わるからです。

あくまでその情報の受け手がどう処理するかを考える必要があるため、難しく感じてしまうかもしれませんが、うまく機能する手法がデザインできたり、そういった手法に触れることができたときには、それなりに面白いものです。ぜひ、そういった視点も多くの人と共有できると楽しいですね。

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事前準備中に撮った写真。来年こそはコロナ禍が収束してるかな。