第50回定点観測
商学部准教授 田村 香月子(ファイナンス専修)

「みなさんの中で、証券投資をしている人はいますか?これから始めようと思っている人はいますか?」......これは担当する証券市場論の講義で毎年、学期初めに訊ねる質問である。証券や投資に関する学生の知識の度合いを予め把握する意図もあるが、単純にどのくらい興味があるのか知りたいためだ。それぞれ手を上げて答えてもらうのだが、近年は変化が見られる。
以前、これらの質問に手を上げる学生は1〜2人のレベルであった。どのような投資をしているのか個別に聞いてみるとFXと答える学生が多く(FXは証券投資ではない)、中にはかなり怪しげな投資案件を挙げ、儲かると思うか?と聞いてくる学生もいた。
これが最近は大きく変わってきている。資産形成に興味があり証券投資の必要性を感じている学生が増えている。投資信託を購入したり、個別企業の株式を少しずつ買い増している学生、実際の売買はまだしていないが証券口座を開いたという学生も増えた。積立NISAやiDeCoなどに関しての質問も多い。
こうして定点観測のように同じ質問を繰り返し感じることは、証券投資への学生の視点が「今の自分」から「将来の自分」へと変化していることだ。これは自己投資にも通じるだろう。かつて「自分探し」という言葉が流行ったが、あやふやな今の自分を探し求めるよりも、将来のなりたい自分に近づくために努力するのは、健全な姿だと思う。そして共通するのは長期の視点である。将来の資産のため、将来のなりたい自分のため、長期の視点で投資にチャレンジする姿はとても頼もしい。
とはいえ証券投資には(そして自己投資にも)リスクが付きものだ。リスクを正しく理解し投資に活かすことができるよう、これからも定点観測を続け、学生の後押しをしていきたい。
『葦 2022.№182 夏号』
2022年9月19日更新
※役職表記は、掲載当時のものです。