関西大学法科大学院

Education 授業ピックアップ

法律基本科目A (憲法Ⅰ・Ⅱ、行政法総論、民法Ⅰ〜Ⅵ、商法、刑法Ⅰ・Ⅱ)

 法学未修者が1年次科目として履修する科目として位置付けられているのが、法律基本科目A群(憲法Ⅰ・Ⅱ、行政法総論、民法Ⅰ〜Ⅵ、商法、刑法Ⅰ・Ⅱ)です。法学部生にはお馴染みの科目が並んでいますが、法科大学院には法曹養成という明確な目標があるため、当該科目に関する基本的知識や理論はもちろんのこと、実際の紛争において争点となる問題につき、判例等を用いてより実践的な視点から学んでいきます。
 ここに含まれる科目は、法の体系的な理解と基礎知識を身につけるためのものであって、2年次以上で履修する演習や発展講義などの応用的な科目の準備段階に相当するものですから、法科大学院における学修の基盤となる大変重要な科目となります。そこで、講義形式を基本としつつも、本法科大学院における少人数教育の利点を活かし、双方向手法を取り入れ、受講生の理解度を確認しながら授業を進めています。

法律基本科目B

・刑事訴訟法

 刑事訴訟法は、実体法である刑法を具体的に実現するための手続を定めている法律です。国家によって刑罰が科されるか否かを判断する手続ですので、憲法は適正手続を保障し、令状主義などの重要な原理を定めています。刑事訴訟法は、それらの憲法の諸規定を具体化した手続を詳細に規定しています。それゆえ、刑事訴訟法を学ぶときには、まず憲法の諸規定の趣旨を理解することが重要です。
 カリキュラムとしては、2年次春学期配当のこの科目で基礎知識を確実にしたうえで、秋学期に刑事訴訟法演習を受講してもらい、3年次配当の実務科目に繋げていきます。この科目では基礎理論を中心に授業を行いますが、捜査手続、起訴・不起訴、公判準備、公判審理などの各場面において、実務上の問題を解決するために理論が考えられているのであり、理論は実務と切り離すことはできません。判例や学説についても、それらを覚えるだけで基礎にある法理論を理解しなければ、様々な事例に応用することはできません。授業では、具体例を検討しながら理論を解説するようにしており、実務上の問題を視野に入れた基礎知識の定着と応用力の養成をしていきたいと考えております。

・民事訴訟法

 民事訴訟法は法科大学院における必須科目として位置づけられており、講義科目全体において占める比重も小さくありません。民事訴訟法は、民法や商法等の実体法において定められている権利・義務をめぐる紛争を解決するための裁判手続について規律している法律です。一面で、実体権の実現を目的とするという「実践的な要請」を担うものであるとともに、他面で、適正な紛争解決のための手続権の保障という「理論的な支え」を不可欠としています。民事訴訟法の学修においては、こうした実践的な手続過程の段階的な理解にとどまらず、公正な手続運営を行うために必要な手続諸原則の理論的かつ体系的考察・検討も重要になります。
 民事訴訟法について正確な理解なしに、裁判官はもとより弁護士が職務を適正に遂行することは不可能です。また、民事訴訟の基本原理は刑事手続にも通じる基本原則であり、検察官にとっても理解が必須です。
 民事訴訟法は平成8年に大きな改正が行われ、その後若干の手直しがされてきました。先頃、民事訴訟のIT化を目指した改正が行われ、遅れを取り戻そうとしています。IT化は実務に様々な影響を及ぼすことになるでしょうが、民事訴訟の基本原理や構造には大きな変化はないと考えられます。民事訴訟においては日々新しい問題が起こっています。新たな問題に取り組むためには、とりわけ基本原則を大切にした理論的な分析力が求められる法分野です。
 民事訴訟法および民事訴訟法発展講義では、こうした諸点に配慮して、理論面を重視しながらも、受講者にとってわかりやすい講義を目指します。

法律基本科目C

・民事法総合演習

 民事紛争の事件処理に携わる法曹実務家を目指すには、実体法および手続法の両分野における専門的な法律知識はもちろん、実務に関する基礎知識を修得することが必要不可欠となります。それとともに、正確な法律知識に裏付けられた法的分析力・論理的構成力の涵養に努めなければなりません。
 民事法総合演習では、このような趣旨・目的に沿うよう、民事法に関する重要問題について、判例に現れた事案を素材に作成した事例を使用するなどして、民事紛争を処理するうえで十分に理解しておかなければならない様々な実体法上および手続法上の諸問題を多角的・総合的に検討します。
 現実の民事紛争は、実体法や手続法のさまざまな法領域にまたがって生じていますから、交錯・複合した問題点を抱えています。この授業は、原則として、2名の実務家教員が毎回共同し、学生諸君と対話・討論しながら、実際に生じうる複雑な紛争に対処する能力を高めることを狙いとしています。

法律実務基礎科目

・リーガルクリニック

 リーガルクリニックは、2・3年次生を対象として、弁護士資格を有する教員とともに、法律相談に立ち会い、実社会で現実に生起する問題に法を適用し、解決するプロセスを体験してもらうことを目的とした実践的授業です。
 具体的には、相談者の事前の了解を得て、受講生が法律相談に立ち会い、相談者に質問して事実関係を聴き取ったうえで、法的助言を行います。担当の教員は適切な応答がなされているかどうかをチェックし、法律相談の最終段階においては、理論的・実務的に可能な最高水準の法的助言をまとめて相談者に提供します。そして、法律相談後、受講生は、担当の教員の指導のもとに相談内容を「カルテ」にまとめ、法的知識、論理的思考力および一般常識の確認を行います。また、法律相談以外に、可能な限り、訴状、各種申立書、内容証明郵便および契約書等の実務的な書面の起案等にも取り組んでもらいます。
 社会で実際に生起する生の事件と向き合い、真剣に考える中でこそ学べること、感じられることは少なくありません。実務法曹を目指す法科大学院生には、是非とも、このような実務科目を通じて積極的に実務に触れ、一層のモチベーションを持って法律の学修に励んで頂ければと思います。

・海外エクスターンシップ

 海外エクスターンシップでは、国際協力機構(JICA)が行っているラオスでの法整備支援活動の実際を体験します。この海外エクスターンシップについては、「法整備支援論」の受講と連動してより深い理解が得られると思います。現実の法実践を経験することから、履修要件として学内成績による選抜を行ったうえで、事前講義を経て各派遣先に赴きます。期間は約1週間~2週間で、夏期に、いずれも定期試験終了後に実施します。
 エクスターンシップは、授業で学んだことがどのように実務に活かされているかを実体験できる貴重な科目です。法曹である指導者のもと、法による権利の実現の過程を直接経験し、それに関与できる科目です。海外エクスターンシップについては、現地での体験を踏まえ国際的な視野を広げられる貴重な機会となっています。また、この科目は、先輩達とのつながりを活かせるものなので、積極的に受講されることを望みます。

・国内エクスターンシップ

 「国内エクスターンシップ」は、受講希望者を大阪弁護士会に所属する法律事務所に配属し、指導担当弁護士の下で実務研修を受ける科目です。研修前には事前授業を、研修後には意見交換会を行うこととしています。研修中は指導担当弁護士とともに行動し、実際に起こっている法律問題に向き合い、解決していく様子を目の当たりにしてもらいます。法律実務家である指導担当弁護士の日常に接し、法的需要や法の適用場面の多様性を見聞することで、法科大学院での机上の学修が実務においてどのように機能しているかを体験できます。また、弁護士倫理や守秘義務の遵守など弁護士としての責務を体感することで将来自分が弁護士になったらどのような仕事をすることになるのかをイメージできます。研修中は毎日研修日報を作成し、最後に研修の結果をまとめた報告書を提出してもらいます。意見交換会では、これまでに学んだ知識が実務において活用できたか、今後の課題が何であるかについて意見を交換します。
 法科大学院在学中から、司法試験合格後の司法修習生と同じような立場で法律実務家の日常に接することができる貴重な機会です。ぜひ受講してください。

・刑事模擬裁判

 刑事訴訟法を難しいと感じる大きな理由の一つに、実際の刑事裁判がどのように進むのかを分かっていない点があるように思います。訴訟活動を体験することは刑事訴訟法を理解する上で有効な手立てとなります。特に、公判前整理手続や公判手続を理解する上で非常に有益であることは間違いありません。刑事模擬裁判の授業は、刑事訴訟法の理解をより実践的で確実なものにすることを目的とします。
 授業では、実際の事件記録をもとにした模擬記録を用いて、受講者全員が、裁判官・検察官・弁護人・被告人・証人のいずれかの役割を分担して、全15回の授業で、公判準備から、公判前整理手続、公判手続までを行います。クライマックスは、最終日に1日で4回分の授業を午前中から夕方まで実施する模擬公判期日です。この日は、冒頭手続から、書証・物証の取調べ、証人尋問、被告人質問、論告・弁論、判決宣告までを、法廷教室で、実際さながらに行います。この科目を受講することで、法曹として法廷に立つ自分の姿もイメージできるでしょう。この授業での経験は、どの役割を担当したものであっても、また、将来法曹三者のどの職に就いたとしても、大きな財産となります。
 授業には、元裁判官、現職検事、現職弁護士の3人の担当教員が毎回出席して指導を行います。理論と実務をバランスよく修得するという法科大学院の理念を体現する科目といえます

展開・先端科目

・知的財産法演習

 知的財産法演習は、司法試験で知的財産法を選択することを予定している学生向けに、司法試験既出問題等を題材として、特許法及び著作権法の条文・判例・学説等の知識を具体的事例に適用することを通じて、特許法及び著作権法の理解を深め、法的思考力を身につけてもらうことを目指す授業です。 同時に、この演習では、論述力の修得にも重点を置くこととし、各回に扱う問題についての答案作成や添削指導等を通じて、自らの考えを説得的に文書に表現する能力を身につけることも目指します。
 知的財産法は民法の特別法であり、民法と密接な関連性を有しています。他方で、保護の対象が無体の情報財であるという点で、民法とは異なる規律や特有の法理もあり、このような知的財産法に特有の法理論を学ぶことで、民法の理解がより深まるという相乗効果も期待できます。
 知的財産というと何となく小難しいイメージがあるかもしれませんが、決してそんなことはありません。知的財産法は法律家にとっても面白く、やりがいのある分野です。実務にも触れつつ、知的財産法の面白さを感じてもらうとともに、分かりやすく、かつ実践的な双方向授業を目指したいと思っています。皆さんの受講をお待ちしています。

・労働法1

 労働法は、憲法25条の生存権保障を理念とし、①憲法27条・28条の定める労働権、団結権・団体交渉権・団体行動権を具体化し、労働者の雇用と労働条件を保障する法分野であるとともに、②憲法の定める基本的人権保障を労働関係において具体化する法分野です。
 具体的には、①個別的労働関係法(人格権保障、平等原則、労働基準、労働契約)、②集団的労使関係法(団結の結成と運営、団体交渉、団結活動と争議行為、労働協約、不当労働行為)、③雇用保障法(雇用の確保、失業・休業時の所得保障等)の大別3つの法領域をその内容としますが、労働法1は、このうち、①個別的労働関係法を対象として、制度・理論と判例を体系的に検討する授業です。
 労働法は、労働相談や労働事件の数が多いので、法実務上とても重要であり、また国民・住民の大多数が「労働者」及びその家族なので、とても身近な法分野です。しかし、明文規定が必ずしも十分に整備されておらず、判例法理や学説の役割が大きいため、なかなか独学が難しい法分野でもあります。労働法1では、最新の法改正と判例・学説を踏まえ、実務で必要な知識と論点を検討しますので、制度・理論と判例を体系的に理解することができ、労使紛争の処理に必要な基礎的素養と能力を身につけることができます。

・倒産法1

 「倒産法1」では、秋学期開講予定の「倒産法2」、「倒産法演習」への橋渡しとして、倒産法(主として、破産法と民事再生法)の基礎を研究します。倒産処理手続についての理解は実務家にとって極めて重要です。本講義では、破産法と民事再生法相互の異同や平時の民事法との比較を意識しながら進め、倒産手続法と倒産実体法について、実務に即した全体的な理解の獲得、基礎的な概念・知識の習得を目標としています。司法試験においては、最近の最高裁判決の事案や倒産処理実務において議論されている分野・テーマを題材として出題されていますので、これらを指摘するとともに、相殺権や否認権等の基礎的な事項について理解を深めることが大切になってきます。もっとも、司法試験の選択科目として倒産法を選択する予定がなくても、「倒産法1」を受講し、基礎的な概念・知識を習得することは、将来、実務家となった際に必ず役に立つことでしょう。司法試験において倒産法を選択する予定の方だけでなく、それ以外の方にも広く受講を薦めます。

基礎法学・隣接科目

・法と社会(法とメディア)

 現代社会では、情報発信にかかわる様々な法的紛争が増えてきており、従来はマスメディアによる名誉毀損やプライバシー侵害がその中心でしたが、近時、ソーシャルメディア(SNS)の興隆により、ネット上における一般私人間の紛争事例も数多く生じています。
 このような新しい時代の法曹として、新しい紛争に対して、基本科目(憲法、民法、刑法等)の知識やスキルを前提としつつ、どのような解決が妥当とされるべきかという正義・価値判断論と、原理・原則から考えるというリーガルマインド(論理的思考)の両方を用い、実務的課題に取り組んでいくという授業を行っています。具体的には、マスメディアに関する裁判例やインターネットメディア上の実際の紛争例につき、法的観点から検討を加えていくものであり、訴状での記載方法や訴訟の遂行方法、あるいは発信者情報開示請求の書式についても紹介しており、実務においてすぐに役立つ内容となっています。

・法整備支援論

 法整備支援論は、日本が開発途上国において行っている法整備を支援する事業についての理論と実務について学ぶ講義です。
 日本が明治維新以後、西欧諸国の法制度を導入し、自らのものとしてきた経験を踏まえ、現在日本が開発途上国に対して行っている法整備支援の理論と実務について、現状と問題点を総合的に概観した後、法整備支援の実例を取り上げ、その成果と教訓を検討してもらうものです。
 法整備支援について学ぶことは、日本が自ら行ってきた法整備の経緯を踏まえ、日本法及び日本の司法制度の成り立ちや強みや課題を見つめ直すことにもつながり、法の支配とは何か、人権保障とは何かを考えてもらうことで、日本法の専門家になろうとする法科大学院生にとって、極めて有益なものとなります。
 また、この講義は、本学が行っている海外エクスターンシップとも連携し、海外エクスターンシップへ行く学生にとっては、現地での活動の理論的背景を学ぶ場にもなっています。