/鷲尾 隆 ビジネスデータサイエンス学部長(就任予定)
現 関西大学商学部教授
/矢田 勝俊 ビジネスデータサイエンス学部 教授(就任予定)
現 関西大学商学部教授
/鎌田 真由美 ビジネスデータサイエンス学部 教授(就任予定)
日本マイクロソフト株式会社ソリューションアーキテクチャー本部長
2025年 4月、関西大学はビジネスデータサイエンス学部を新設します。学びの舞台は吹田みらいキャンパス。今号では、学部長に就任予定の鷲尾隆教授と、教授着任予定のお二人の矢田勝俊教授、鎌田真由美さんが、新学部が目指す教育、育成したい人材像などについて語り合いました。
データ活用力が国の未来を決める
─最初に鷲尾先生から、関西大学がビジネスデータサイエンス
学部を開設するに至った社会情勢についてお話しいただけますか。
- 鷲尾
- 世の中の動きとして、まず、データの重要性が増しています。よく言われることですが、20世紀の重要な資源は石油だったが、21世紀はデータだと。いろいろな企業がデータを中心に大きなビジネスを起こし、一国の経済を左右するような大きな力になっている。データをうまく扱い、いかに我々の生活に応用していけるかが、その社会が栄えていけるかの大きな境目、分水嶺になっているということです。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2023」によると、日本は「ビッグデータとアナリティクスの活用」の項目において、調査対象国で最下位の64位です。そのぐらい日本はデータの利用が遅れている。この状況を引き起こしている原因は、圧倒的な人材不足です。
データを扱える人材を日本社会の中でどんどん輩出していかなければならない。さらに世界で活躍できる人材を増やしていかなければならない。そうしないと日本の経済は浮上せず、世界の中での日本のプレゼンスも向上しないでしょう。人材育成がやはり一番の鍵だと思います。それがひいては我々の日常生活の水準、豊かさに直結するでしょう。そういう意味で、このビジネスデータサイエンス学部は世界にとって非常に重要な教育機関となると信じています。
この学部では、マーケティング、経営およびデータサイエンスの知識を学ぶだけではなく、その知識を生かした実践的な学びを通じて、即戦力となる能力を身に付けた人材を育てます。
カリキュラムにおいて、最も重視するのがアクティブラーニングです。1年次生から座学の講義と同時並行で、アクティブラーニングによる学習をしていきます。
- 矢田
- 実践的な学びを1年次生からすることで、面白い人材が育つと思いますね。本を読んで、深い知識を身に付けることが、大学教育では伝統的に大事とされてきました。確かに深い知識は必要ですが、知識があっても、使えなければ意味がない。
ビジネスの現場では話が通じないような相手とも仕事をしなければならない場面が必ずあります。そういう現実を全く考えずに、知識だけを教える教育は違うなと思います。知識やスキルだけでなく、実社会の現実とも向き合いつつ、多様な人と協働していく、そういったものをトータルに融合した教育を実現したいという思いが、この学部を創設するに至った理由の一つだと思います。
鷲尾 隆 ビジネスデータサイエンス学部長(就任予定)
多様な個性と本音で協働する体験を
- 鷲尾
- 本学部の特色の一つは、多様性だと思っています。だから、教員も多様でなければならない。産業界で経験を積んできた方、アカデミアでやってきた方、両方にまたがって活動してきた方、そういった多様な先生方が集まっています。
また、学生には大学にいる間から、さまざまなバックグラウンドを持つ仲間と協働する経験を積んでもらいたいと思います。そのためにも多様な学生に入学していただきたい。
- 矢田
- 多様性とチームビルディングは、全学年を通じてこの学部の大きなテーマになっていくでしょう。各ゼミの演習実習の中でも、小グループに分かれてそれぞれで助け合いながら取り組んでもらう予定です。
ただし、仲良くやればいいというものではありません。本音のぶつかり合いをしてほしい。それができるのは大学までなんです。今どきの学生を見ていると、みんな性格が良く、優しくて、口喧嘩もしない。それでは駄目なんですよね。ぶつかり合いながら状況を突破しないと実現できないことがあると思うんです。だから、4年間かけていろいろな人とチームを組み、さまざまな経験をして、耐性を付けて、社会に出てほしい。ストレスはかかるけれど、それが大事なんじゃないかと、教員として四半世紀、学生を見てきて思うことです。
矢田 勝俊 ビジネスデータサイエンス学教授(就任予定)
ダイナミックに成長し続けるこの学部に完成はない
- 鷲尾
- 2025年4月に学部が出発する時点で、準備が100%できていることはあり得ないし、それを目指してはいません。これはいいかげんに不完全な形で出発するという意味ではなく、入学してくる学生のために、最善を尽くしてやろうとするからこそ、完成した状態でスタートすることはないと思っています。学生も成長するけれど、学部としても常に成長し続けなくてはならない。そのスタートが2025年の4月だということです。学部というものは未完成なもので、常にダイナミックに変わっていかなければならない。
- 鎌田
- 私が経験してきたAIの開発も同じことが言えます。ゴールを最初に決め切るのが難しい。やっている間に、ゴールが先へ先へと行ってしまう。まさにそういう探索と適応を素早く繰り返すアジャイルな学部として、常にどんどん先へ進んで、気が付いたらはるか遠くまでたどり着いていたということになればいいなと思います。あえて「よし、終わった」とせず、常にゴールはまだ先だという状態を続けるのは、大学や学部にとって良いことだと思います。
- 鷲尾
- 留まらないで変化し続けることが、特にこの分野の学部としては必要だと思いますね。それが学生のためでもあると思います。
鎌田 真由美 ビジネスデータサイエンス学教授(就任予定)
AI 時代に適応した新しい学びの形を探求して
- 矢田
- 勉強の仕方も随分変わってきています。今の学生は教科書を読まずにYouTubeを見ていますから、それも早送りで。それは浅い知識だと思うかもしれませんが、でも知識はどう使うかが問題で、その方法で実践的に学習できるのなら、効果のある勉強の仕方と言えます。
- 鷲尾
- プログラミングの勉強の仕方も、ここ数年で急激に変わりつつあります。昔だったらまず基礎的なコマンドを覚えて、それからどう組み合わせればどんなプログラムを書けるかを、コツコツ積み上げて勉強するのが常識でした。ところが、最近の学生の勉強の仕方は、まずChatGPTに書かせてみて、それを眺めて勉強していく。あるいは実際に動かしてエラーが出たら、その原因を調べる。そういった経験を積み上げて、プログラミング言語を習得するという方法に変わってきている。まだ大学の講義がそこまでついていってはないですが、その方が効率が良いし、身に付く。このように、勉強の仕方が変わる時代にちょうど今差し掛かっている。そういう意味で、ビジネスデータサイエンス学部は、良いタイミングで設立されることになったなと感じています。
- 鷲尾
- ガラッと変わってきていますよね。
- 鎌田
- 企業も一生懸命、人材育成しているところですが、これまでのやり方での学びだけではなく、生成AIなどに適応する能力が求められるようになってきています。
- 鷲尾
- 授業の中で大規模言語モデルを積極的に使っていかなければと考えていますが、そのためにどういう講義にしていくかは、これからさらに追求していかなければならない。見本はないんですよ。
- 矢田
- 教える側の意識も変えていかなければならない。この間、教員同士の反省会で、学生も自分と同じようにコンピュータが好きだという前提でプログラミングを教えてしまっていないかという話がありました。今後は、コンピュータが好きじゃない学生も絶対に一定の割合でいるということを踏まえて教え方を勉強していく必要があります。
- 鷲尾
- 教員も本当に勉強しながらやっていくしかないですね。教え方も内容もどんどん変わっていくと思います。最新の成果も常に取り入れていかざるを得ないでしょう。
企業との連携でリアルな課題解決力を育む
- 鷲尾
- アクティブラーニングでは、いろいろな企業の実際の困り事、悩みを課題にして、学習することを考えています。そのためにさまざまな企業と連携することが必要で、その交渉も、これからさらに増やしていく必要があると思っています。
- 矢田
- 現場の企業で働く方の熱意を感じられることで、学生は「私も何か力になりたい」とモチベーションが高まって、頑張れる。そういう、企業にとっても有益で、学生のやる気に火を付けるシチュエーションを用意できるよう工夫していきたい。
- 鎌田
- これまで私が仕事で相談を受けた企業とのやり取りの話をすると、データはあるけれど、これを使って何がしたいかが明確でなく、ぼんやり何かできるよね、みたいな感覚を持っている方が結構いるんです。その状態で自らが背景を知り、さらに一歩踏み込まないと、先に進むことはできない。
今までの大学教育の主流は、きれいに用意されたサンプルデータと解き方があり、そこからスタートする学びだったと思いますが、この学部は違うことを目指している。そこが、重要だという気がします。
- 鷲尾
- これからは問いを立てる力が、ますます重要になってくる。あとはまさに本学が掲げている「考動力」、考えて動く力ですね。アクティブラーニングにおいても、データを企業からご提供いただいたら、解決すべき課題をそのデータから探すところから取り組める学生が育ってくれるといいなと思います。
学部名にデータサイエンスという言葉を含んでいるから、なんだか数学的、科学的なきれいなことをやるのではないか、というイメージを持たれる方もいると思いますが、多分やることはかなり人間臭い、泥臭いことになるんじゃないかな。
- 矢田
- うちの大学のカラーにもそういうものが合うと思います。関西大学はドロドロの難しい状況であっても、とにかく突破して、活躍している卒業生がビジネスシーンにたくさんいます。そういう力を育てる学部は本学の伝統によくマッチしていると思います。
─最後に、受験生、保護者、学校関係の方へのメッセージをお願いします。
- 鎌田
- 私はずっとビジネスの世界にいて、近年はAIとデータ分析、DXといったプロジェクトが増えてきています。そこで感じたのは、世界には加工され解釈された情報やデータが溢れていて、それをあまりにもナイーブに受け入れている若者が多いのではないかと。情報の核心を見極める問いを心に置いて、人間として生き抜いていくための力を養う場に、この学部がなればうれしいです。
- 矢田
- 私たち教員としては、学生に幸せになってもらいたい、夢を叶えてもらいたい。そのためには、人とのつながりがすごく大事で、この学部では人とのつながり方と、それを通して、夢を実現するために欠かせないITを学んでもらい、たくましく生き残る人間を育てていきたいと思います。
- 鷲尾
- 今はいろいろなバックグラウンドを持った人が協働しないと、社会を良くしていけない時代です。一人ひとりに個性があるということがとても重要で、だからこそ、他の人にはできない見方で社会に対するとらえ方ができる。いろいろな課題を見つけることも、人それぞれが違うからこそできるものです。そのように自分の持つ個性を生かして、社会をより良くしていきたいという思いを持つ方であれば、ぜひこのビジネスデータサイエンス学部の受験を考えていただきたい。多様な学生が入学し、社会に出て活躍していただきたいと願っています。
出典:関西大学ニューズレター『Reed』78号(9月27日発行)