地震学者は、なぜ南海トラフの『巨大地震注意』下でも釣りを続けられたのか
研究
研究

/社会安全学部 安全マネジメント学科 林 能成 教授
2024年8月には南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)、2025年12月と2026年4月20日には北海道・三陸沖後発地震注意情報が出され、こうした情報への関心が高まっている。社会安全学部の林能成教授らの研究チームは二つの認識状況の変化に焦点を当てたアンケート調査を行い、人々の意識変化を追った。林教授にこれらの情報をどう受け止め、地震防災につなげることが望まれるか聞いた。
——アンケートではどんなことが分かりましたか。
南海トラフ地震臨時情報と北海道・三陸沖後発地震注意情報のいずれでも、「そうした情報が出されていること」を知っている人の割合は、呼びかけ期間の直後には高まっていました。しかし南海トラフ地震臨時情報の場合、半年を過ぎるとその認知度は低下し、1年後には発出前の水準に近づいていることが分かりました。
一方で、情報の内容についての理解を見ると、別の課題も浮かび上がります。1週間以内に巨大地震が起きる可能性を「100%近い」「80%以上」と誤解していた人の割合は、発出直後には一時的に減少しましたが、時間がたつにつれて再び増える傾向が見られました。臨時情報※の意味や確率の説明が、時間とともに十分に記憶されなくなっていることがうかがえます。
※臨時情報は、短期間(例えば1週間)に巨大地震が起きる可能性が平時より高まっている状況を示すもので、場合によっては約1%程度と説明されることがあります。
結果として、情報そのものは広く知られたものの、その不確実性を理解したうえで適切に判断できる人が増えたとは言い難く、後発地震注意情報でも同様の傾向が生じる可能性があると考えられます。
——そもそも臨時情報については「不確実性」の認識が不可欠ですね。
もともと、1970年代から東海地震の予知に力を入れ、可能性を「判定」できる、という考え方がありました。そのことへの反省があっての「臨時情報」です。予知や可能性の判定は現状ではできないのだから、一定の条件がそろえば自動的に臨時情報を出し、個々で対応を考えてください、というのが基本です。
実際に災害が起きれば、どう動き、自分の命を守り、被害を最小限にとどめるか、というのは最終的には個々人の判断です。100人いれば100通りの適切な動き方がある。情報をもとに一斉に動けばよい、というものではありません。災害というと「一斉避難」を言われがちなところがありますが、そのデメリットも考える必要があります。常に「一斉」「みんなと同じ」ではなく、個々人が意識を高め、どう動くか普段から考えておくことが必要です。
——2024年8月8日、日向沖地震の後に「巨大地震注意」が発表されましたが、この時に和歌山で「釣りを続けた」ことを公表されています。
和歌山県串本町で友人と釣りをしていました。町のハザードマップで高台を確認し、道路状況を調べたうえで、車をすぐに発進できるように前向きに停め、翌日まで釣りを続けました。日本地震学会の広報誌などにそのことを寄稿しましたが、少なくとも地震学者で「巨大地震注意が出ている中でその対応は不適切だ」という人はいません。
不確実性を認識したうえで、自分のできる対応をして、自分なりに「適切に動けた」という自信を持つことは意義があると思います。逆もそうですね。「適切でなかった」と思ったら反省して次に生かせる。
東日本大震災が避難を要する津波災害だったこともあって、今は「災害といえば避難」という意識が強いですが、耐震化や家具固定など備えとしてできることは多様です。自分にとって必要な災害への備え、災害対応は何か、という視点から考えることが重要だと思います。
——2つの「情報」は意義があるのか、現状をどう見られますか?
まだまだ知られておらず過渡期にありますが、災害対応について考えるきっかけになれば意義がある、と思います。「情報が出されてもほとんどは何も起きない」ことを不満に思うのではなく、自分で情報を吟味し、考えて、判断につなげる、という使い方が必要ではないでしょうか。