KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

「100年後の未来社会」を描く関大の挑戦
~学生・校友・企業が共創するリボーンチャレンジ~

地域・社会

 関西大学は、8月5日から11日までの7日間、大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」内で行われた展示・体験企画「リボーンチャレンジ」に出展した。本学は、リボーンチャレンジの認定を受けた実施主体であり、26件の認定事業の中で教育機関としては唯一の選定。中小企業9社と共に最先端の技術を紹介し、大阪のチカラを世界へと伝えた。会場には連日多くの来場者が訪れ、熱気にあふれていた。


 テーマは「Academia × REBORN ~学理と実際との調和~」。未来社会を支える革新的な技術が一堂にそろい、大学の研究力と企業の先端技術の融合によって生み出されるイノベーションの可能性が表現された。

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関西大学の出展ブースには多くの来場者が訪れた

産学連携から広がるイノベーション ~出展企業9社が示す未来社会~

 出展企業の各ブースでは、未来の技術に熱視線が注がれた。


大阪冶金興業株式会社
 次世代加熱技術である「ミリ波照射」を用いて製造した、人工ルビー製の茶道具を展示。日本の伝統文化と先端技術の融合を表現した。さらに、水素社会での実用化が期待される最新の3Dプリンティング技術を活用し、「関大合金シリコロイ(高ケイ素ステンレス鋼)」も紹介された。

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次世代の加熱技術で製造した人口ルビーの茶道具/大阪冶金興業㈱

株式会社イノカ
 「環境移送」技術によって自然の海を再現した水槽展示を通じて、持続可能な海洋再生の可能性を世界に発信した。再生医療の知見を応用し、サンゴのポリプを分離・増殖して海に還す技術を開発。同社取締役CTOで関西大学化学生命工学部・上田正人教授は、「世界中の海にサンゴを増やしたい」という想いを原動力に研究を続けている。人間が壊してしまった生態系を、知恵と技術の力で少しずつ取り戻そうと挑み続ける姿勢が示された。


株式会社アックスヤマザキ
 「MIRAIミシン(コンセプト名)」のサンプル機を展示。トヨタ車体(愛知県刈谷市)の特許技術を活用し、家庭向けとしては世界初となる「タグステッチ工法」による立体物への直接縫製技術を開発。破れた椅子やソファー、自転車のサドルなどを誰でも簡単にリメイクでき、愛着ある品を長く使いたいというニーズに応える。同社はこれまでも、子ども向けや男性向けといった多様なミシン市場を開拓してきた。山﨑一史社長は「ものを大事にする文化を広げたい」と願いを込める。


Cranebio(クレインバイオ)株式会社
 髪の毛の太さの1/500という極小サイズの構造体を生みだすDNAオリガミ技術を応用し、「DNAオリガミナノロボット」を展示した。同社が開発した人工酵素「Dozyme(ドザイム)」は、DNAオリガミの構造変化を利用して細菌やウイルスなど病原体の有無を検出する。化学生命工学部の葛谷明紀教授が取締役を務めており、将来的には、スマートフォンを使って誰でも気軽に高感度の検査が可能になる未来を見据えている。


株式会社KUREi(カレイ)
 関西大学化学生命工学部・天然素材工学研究室の研究成果を基に設立された企業で、氷結晶を制御する技術により、コンクリートの劣化進行を抑える。道路凍結や遅霜、看板の視認性低下など、寒冷地の課題に対応。高速道路や公共の建築物を先行的な対象として、10年以内の実用化を見据えている。

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(左上)沖縄の海を再現した水槽を覗き込む親子/㈱イノカ
(右上)MIRAIミシンの実演に興味津々/㈱アックスヤマザキ
(左下)DNAオリガミナノロボットの展示/Cranebio㈱
(右下)氷結晶制御機能を紹介/㈱KUREi

株式会社アイ・エレクトロライト
 発火リスクが極めて低く、安全性の高い「IL(イオン液体)電池」を開発している。同社は、関西大学化学生命工学部の石川正司教授(代表取締役CEO)が率いており、JAXAの宇宙用電源として採用された実績があり、将来的にはより安全性を求められる補聴器など医療用電源や、高温でも劣化せず作動する強みを活かした民生用電池への応用も視野に入れる。展示では、廃棄物を出さずに資源を再利用・循環させることができる電池として、再生可能な「サーキュラーエコノミーバッテリー」の仕組みを紹介した。


株式会社ナノスパイク
 セミの翅(はね)表面の微細な構造から着想を得て、化学物質を使わず、物理的に殺菌・抗菌できる新素材「ナノスパイク」を開発。ナノスパイクを搭載した樹脂フィルムを展示し、未来の抗菌技術を紹介した。関西大学システム理工学部の伊藤健教授が研究に携わっており、環境負荷や人体への影響といった従来の課題を克服し、感染症のない社会の実現を目指している。


Virtual Motorsport Lab Inc.(VML)
 国内外からオンラインで参加できる自動運転レーシングカーの開発体験を通じて、自動車・モビリティ分野の技術者の育成に取り組んでいる。関西大学総合情報学部・堀口由貴男教授研究室の協力のもと、音声操作で誰でも開発体験ができる展示を行い、レース形式の開発競争を通じて、楽しみながらAIやモビリティ技術を学ぶ機会を提供した。


株式会社ゴエンジン
 イスラム教徒向け飲食店ポータルサイト「TourisMuslim(ツーリスムスリム)」を紹介。関西の店舗を中心に、宗教的制約から日本での食事に困るムスリムの方々が安心して食を楽しめるよう、調味料や食材の細部まで配慮した信頼性の高い情報を発信している。展示では、食品サンプルやオリジナルキャラクターを用いて共生社会の未来を提案。異文化理解と受け入れの輪を広げ、誰もが安心して暮らせる社会の実現に貢献する。

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(左上)安全性の高い「イオン液体電池」を紹介/㈱アイ・エレクトロライト
(右上)化学物質を使わない未来の抗菌義技術を紹介/㈱ナノスパイク
(左下)仮想空間で自動運転レースを体験/Virtual Motorsport Lab Inc.
(右下)食品サンプルやオリジナルキャラクターがお出迎え/㈱ゴエンジン

環境とアートの融合 廃棄アクリル板を再生した「リボーンモニュメント」

 関西大学のオリジナル企画としては、廃棄アクリル板を再活用したアート作品やデジタル漫画を展示。技術と文化をかけ合わせた創造的な展示が会場を彩った。

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リボーンモニュメント

 コロナ禍に使用し、その後不要となったアクリル板を熱加工して、球状に組み合わせることで生まれた「リボーンモニュメント」。素材に新たな生命感を宿し、「循環と再生」をテーマに表現した。花びらの枚数はSDGsの17ゴールに呼応し、再生の象徴として会場中央付近に展示された。美しさにとどまらず、未来への問いかけを込めたアート作品として、海外からの来場者にも高い関心を集めた。

4コマ漫画で100年後の未来を表現 企業×学生×校友による共創プロジェクト

 タッチサイネージで楽しめる4コマ漫画の前には、熱心に画面をスクロールする来場者の姿が目立った。児童向け漫画家として活躍する本学卒業生のみづほ梨乃氏と穂積りく氏がネームを手がけ、本学漫画同好会の学生が作品として仕上げた。


 出展企業9社が提示する未来技術を題材に、「100年後の未来社会」を描いた本展示は、海外でも人気の高い日本の漫画を通して、未来の技術を分かりやすく紹介した。

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漫画同好会の学生が描いた4コマ漫画

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漫画の力で万博に挑む~漫画同好会×OG漫画家の共創プロジェクト~


~来場者の声~

<大阪府在住ファミリー>
 「MIRAIミシン」ブースを体感。「裏に糸が出ないので、ほつれなくていいですね。ミシンは子供のグッズを作る時など普段からよく使っています。ソファーを直すときなど便利そう。日常使いができて、安く手に入るようになれば試してみたい」


<大阪府在住20代男性>
 VMLブースで音声による自動運転のシミュレーションを体験。「音声で走行やタイヤなどカスタマイズできる自動運転の新たな形を見せてもらいました。eスポーツのような大会が開催できれば、新しい層が参加して広がっていくのでは」


<東京都在住30代男性>
 KUREi(カレイ)の氷結晶制御技術に触れ、「氷の結晶が大きくなることで道路が劣化していくことは知らなかった。社会課題への取り組みがすばらしい」と関心を寄せていた。

関西大学の挑戦

 今回の出展企業9社は、便利さの裏にある社会課題にそれぞれの視点で向き合い、未来への再構築に挑んでいる。「サンゴの成長は年に1〜2センチ。この研究は、私たちの世代だけで完結するものではなく、未来へとつなぐ挑戦です」。㈱イノカの展示ブースで上田教授が残した言葉が印象的だった。だからこそ、自然を取り戻すための技術と想いを、未来を担う次の世代に託したいーーそんな願いが込められていた。万博という場を通じて、これまで意識してこなかった人々にも"再生(リボーン)"の意味が伝わり、持続可能な社会への意識と行動が少しでも芽生えたなら、それこそが本当の成果といえるのかもしれない。

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出展企業9社と関西大学関係者による集合写真

 関西大学の「リボーンチャレンジ」は、単なる技術展示ではなく、大学が社会とどう関わり、未来をどう描くかを示す挑戦であった。教育機関としての知見と、企業との連携による実装力を融合させ、100年後の社会を見据えたビジョンを示すことができた。学生・校友・企業が一体となって創り上げた展示は、万博という国際的な舞台で確かな存在感を放った。


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画像をクリックして「関大リボーンチャレンジin大阪・関西万博」公式PVへ

担当副学長コメント
 多くの来場者の驚きや笑顔に触れ、とても嬉しく感じました。出展企業の皆さまも、それぞれに工夫を凝らし、分かりやすく技術を紹介してくださいました。
 学生が描いた4コマ漫画には、技術が拓く未来への一歩が込められています。100年後の社会を想像しながら、今ある技術がどのように夢へとつながるのかを学生たちが語り合うプロセスは、まさに大学ならではの取り組みでした。
 この大きな経験を一過性のものに終わらせることなく、大学の研究力・人材力・発想力を掛け合わせながら、これからも「関大らしさ」を表現していきたいと思います。未来へのワクワクを育て続け、大学としてのアイデンティティを継承していければと考えています。

関西大学 「リボーンチャレンジ」実施主体代表
担当副学長 長岡 康夫