KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

起業は難しいことじゃない、 関大生の皆さんなら必ずかなえられる!── 学生ベンチャーへの参画から "上場請負人"と呼ばれるまで

関大人

/実業家・日活株式会社 社外取締役 杉山 全功 さん(法学部 1988年 卒業)


 実業家、起業家、投資家......多様な肩書が並ぶが、「"プロの経営者"と呼ばれるのが、実績を認められた勲章のようでうれしい」と話すのは杉山全功さん。在学時は学生ベンチャーの先駆けとして当時一世を風靡した株式会社リョーマに所属、卒業後もさまざまな会社で社長や取締役を務め、多くの会社を上場させる手腕に"上場請負人"とも呼ばれている。学生の起業が増加する今の時代に、彼は何を思うのだろうか。

学生ベンチャー参画が経営者への出発点

 大学に入学した年、友人から当時流行っていたダンスパーティーの運営スタッフをしないかと誘われた。「なんだか面白そうだ」そんな軽い気持ちで手伝い始めたが、イベントを運営する楽しさを知り、自分たちの手でやってみようと、翌年には仲間たちと作ったサークルでイベントを開催。最初は赤字続きだったが、試行錯誤して回を重ねるうちにグングンと集客力も上がっていった。
 世の中は好景気で、学生イベントにも企業がスポンサーについた時代だ。拙いながらも企画書を作り企業へ協賛依頼に回るうち、同様の活動をする他大学メンバーとも顔見知りに。「その時に知り合ったのが、当時関西で名を馳せていた真田さん(KLab株式会社創業者の真田哲弥氏)たち。彼らが立ち上げた会社に誘ってくれて、二つ返事で加わりました」。その会社が学生ベンチャーの先駆け、株式会社リョーマだ。これが現在の道に進むきっかけとなった。
 卒業後は民間企業に就職したが、2年後に退職。仲間とベンチャー企業を立ち上げるなどし、2004年にはそのつながりもあって株式会社ザッパラスの代表取締役に就任する。翌年に会社は東証マザーズへ上場、5年後には東証一部上場を果たした。同社代表取締役を退任後は株式会社enishの代表取締役に就任。こちらもわずか2年半で東証一部上場へ導き、その手腕を知る業界では"上場請負人"と呼ばれることとなる。
 同社の代表取締役退任後も、ウォンテッドリー株式会社、akippa株式会社、株式会社ROXX、株式会社ACSL、株式会社KaizenPlatform、など、社外取締役や出資者としてかかわってきた企業は数え切れない。

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2013年12月に東証一部上場を果たした株式会社enish

企業に薪をくべる役割の苦労は当たり前

 企業からのアプローチが引きも切らない杉山さんだが、応える基準はあるのだろうか。「その企業に伸ばせる部分があるかどうかですね。それさえ分かっていれば、自分が何とかして薪をくべ火を起こせばいい。苦労があるのは大前提なので、そこは判断基準にはなりません」。
 起業家が0から1にしたものを90、100までもっていくことが自分の仕事だと話す杉山さん。そのなかで重要視するのは"再現性"だ。コンテンツやサービスが一つヒットすれば終了ではなく、企業はgoing concern(継続企業の前提)でなければならない。ヒットしたもの一つが消えても、次のヒット作や、より売れるサービス・事業が生まれ続けてこそ企業は持続的に成長できる。そこまで実現できてこそ自身の中にもようやく達成感が生まれるという。
 「気負った気持ちはないですよ。これで日本を良くしようとか、そういう高尚な思いも全くない」と豪快に笑いながらも、「かかわる以上は結果にもこだわりたい、やるからには業績を上げ、上場するなどの結果を出したいんです」と力強く語る。

映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』の配給会社としてマーケティングを担う

 杉山さんが社外取締役を務める日活株式会社は、4月25日公開の関西大学を舞台にした映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』の配給会社として、マーケティングを担っている。卒業生の福徳秀介さん(ジャルジャル)の小説を原作とした映画で、2024年4月から関西大学と周辺の商店街などで撮影が行われ、8月には初号試写会が行われた。
 「観ているうちに時間の感覚を忘れて、あっという間の2時間でした。登場人物もそれぞれキャラクターが魅力的。良い映画でしたね」。杉山さんが通っていた当時は今よりもバンカラな校風だったというが、映画の中に次々と登場する関大前の飲食店やボウリング場など、当時利用していた場所を懐かしい思いで観たという。

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起業サポートが潤沢な今、挑戦すべき

 関西大学のイノベーション創生センターでは起業家たちに講演してもらうイノベーターズトークを開催するなどさまざまな起業(ベンチャー)支援を行っている。また梅田キャンパスでは起業を後押しするスタートアップカフェ大阪なども展開している。
 「昔はそういったものは何もなかった。特に対面で起業家の話が聞けるのはうらやましいですね。いまスタートアップ界隈でもカンファレンスが盛んになっていて、実際に上場した人の話が直接聞ける機会も多くあります。現場の声を聞くことができるチャンスは積極的に活用した方が良い」。
 起業する機会は広がりをみせ、チャレンジしやすい環境が整ってきたといえる。杉山さんは今と昔、起業するにあたってどのような変化を感じているのだろうか。「一番はインターネットの時代であることですね。検索すれば成功例も失敗例も世界規模のさまざまなケースが手に取るように分かります。これだけでも若い世代の起業するノウハウや能力、センスが磨かれる。昔とはスタート時から得られるスキルが断然違います」。
 また資金の面でも大きく変化した。昔は投資のシステムが一般に浸透していなかったため、友人や知人に借りて回る、銀行で借りるなら担保が必要、とハードルが高かった。そのため大きな事業には着手できず、起業自体が難しかったのだという。今はさまざまなVC(ベンチャーキャピタル)からクラウドファンディングまで資金調達の道は多数あるのだ。「ただ勘違いしてほしくないのは、それは投資家から預かったお金だということ。リターンという義務とセットのものなのです。その責務を伴うお金だということは今も昔も変わらない」。
 杉山さんが起業を目指す若者に必ず伝えているアドバイスがある。「できれば一度就職して組織を経験してはどうかと。雇用される側を身をもって体験することは非常に有意義で、起業する時にも発想力が広がるし、後々必ず生きてきます。僕も新卒で民間企業に一度就職していますが、今でも貴重な時間だったと思っていますよ」。
 まもなく60歳を迎える杉山さんだが、今後は若い世代の成長に貢献したいと考えている。現在、社外役員を務める会社の一つも、学生で起業した社長が社員たちを率いているのだそう。「その会社がもうすぐ上場するんです」とうれしそうに教えてくれた。自分の息子のような年齢の若者たちの頑張りを見ていると、こちらまで元気になると顔をほころばせた。
 「起業は皆さんが思うほど敷居が高いものじゃない。僕がリョーマにいた頃は、周囲がみんな上場企業の社長を目指していたから、特別なことという意識さえなかった。それでいいんですよ。僕ができるぐらいなんだから、いま関大で起業を目指している皆さんも絶対できます!」

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出典:関西大学ニューズレター『Reed』80号(3月21日発行)
杉山 全功 ─ すぎやま まさのり
1965年大阪府生まれ。1988年法学部卒業。在学中から学生ベンチャーの株式会社リョー マに所属。卒業後は民間企業を経て、株式会社ダイヤル・キュー・ネットワークを立ち上げ取締役を務めた。その後も株式会社ザッパラスや株式会社enishを代表取締役社長として東証一部上場へ導く。現在は日活株式会社をはじめ、株式会社ROXX、akippa株式会社などの社外取締役を務める傍ら、エンジェル投資家としてベンチャー経営者の育成にも取り組んでいる。