KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

万博から「いもたこなんきん」の未来が見える
~農と食と人をつくる持続的な経営~

関大人

/白ハト食品工業株式会社 代表取締役社長 永尾 俊一 さん(法学部 1986年 卒業)


 「この世女の好むもの 芝居浄瑠璃 いもたこなんきん」とは、江戸時代の川柳。これにあやかって、たこ焼き、さつまいもスイーツなどの素材にこだわったおいしい商品を世に届けているのが、永尾俊一さんが社長を務める白ハト食品工業株式会社。4度目の万博参加となる大阪・関西万博でも5カ所に出店して人気を博している。

「くくる」、「らぽっぽ」、万博会場で大人気営業中

 永尾俊一さんが社長を務める白ハト食品工業株式会社は、たこ焼きなどのタコ料理専門店「たこ家 道頓堀くくる」、さつまいもスイーツ専門店「らぽっぽファーム」などのグルメブランドを全国に展開。総面積日本一のさつまいも畑を保有し、農産物の生産から加工、販売までを手掛ける。同社のウェブサイトには、"我が社の使命"として「『いもたこなんきん』の味わい、文化を、世界中の人々へ届けていく。」と掲げられている。そのミッション遂行の一環といえるだろう、世界中の人と文化が行き交う大阪・関西万博に参画。会場内5カ所に9店舗を出店している。

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大阪・関西万博での白ハト食品工業の出店エリア

 その1つ、サスティナブルフードコートの「大阪のれんめぐり~食と祭EXPO~」は、1日1万5,000食以上の提供が可能な万博会場最大の面積・席数を誇る飲食施設で、道頓堀を中心に大阪の12の味の銘店が集結。白ハト食品工業は「くくる」、「らぽっぽ」を出店するだけでなく、このフードコート全体の企画・管理運営を手掛ける。エントランスには青森ねぶた 祭りで2024年度ねぶた大賞を受賞した巨大作品を展示し、フードコート全体に祭提灯をつるすなど、日本の祭り文化を象徴する演出を施している。

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エントランスに展示中の巨大ねぶたは、史上初の女性ねぶた師・北村麻子さんの作品


 未来型チャレンジショップ「らぽっぽファーム~おいもとイチゴとりんごのFarm to the Table ~」は、さつまいもといちごを栽培する可動式の畑に囲まれた、成長する農業カフェ。万博開幕時に植えたさつまいもの苗は、閉幕の10月まで大切に育てられる。
 他にも、KANSAIマルシェ「関西お祭りマルシェ ICHIBIRI- AN」内やJAPANマルシェ「北陸お花ごっつおマルシェ」内グルメブースにも出店。さらに、フードトラックエリアには「くくる」、 「らぽっぽ」のキッチンカーを登場させるなど5つの異なる形態で営業し、万博グルメを大いに盛り上げている。

万博を通じて、たこ焼きを世界へ

 「今回で4度目の万博なんです」と、永尾さんは同社と万博のかかわりを話し始めた。
 最初の万博参加は1990年に開催された国際花と緑の博覧会(大阪・鶴見緑地)。2度目は2005年の 「愛・地球博」(愛知・長久手)だった。
 「花博では、たこ焼きが大阪のローカルフードではなく全国に受け入れられること、愛・地球博では、タコを食べる習慣がない欧米の方にもたこ焼きを喜んでいただけることが分かりました」

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ぷりぷりの大たこが入ったたこ焼き。タコ型トレーは卵の殻を一部再利用している

 3度目は2010年開催の上海国際博覧会だったが、永尾さんは 当初、海外まで出店することは考えていなかった。それを翻意させたのが、小渕恵三内閣で経済企画庁長官を務めた故・堺屋太一氏との出会いだった。堺屋氏といえば、かつての通商産業省官僚時代に、1970年の大阪万博を担当。以来、国内外の万博に関与、自らを"万博に取り憑かれた男"と称したこともある人物だ。
 「僕の夢は、たこ焼きを世界に広めること」と話す永尾さんに、初対面の堺屋氏は「分かりました。一緒に上海に行きましょう」と力強く誘ったのだった。
 こうして、上海万博で民間企業が集まる日本産業館に「くくる」 「らぽっぽ」を出店。来場者をあっと言わせてやろうと、道頓堀店の巨大な立体タコを日本から運んで壁面に飾った。結果は大成功。半年間の会期中に実に50万食のたこ焼きを販売。閉幕後には上海市内での出店が実現し、現在は同市内に3店舗を展開している。
 「今でも道頓堀の店には、タコの看板を目印に『上海万博で食べた』と、中国の方が来られます」

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2010年 上海国際博覧会(日本産業会館)の様子

4度目の万博は、未来志向の挑戦の舞台

 上海万博を通じてたこ焼きを世界に広げる確かな一歩を踏み出した永尾さんが、4度目の万博で試みたのは、いもたこなんきんの未来、つまり白ハト食品工業が進もうとする未来を示すことだ。
 そのために、フードコートでは、たこ焼お助けロボット、配膳ロボット、IoTスマートゴミ箱、再生容器を採用するなどサスティナブルな新しい試みを取り入れた。「らぽっぽファーム~おいもとイチゴとりんごのFarm to the Table~」では、万博終了後も生き続ける鉄コンテナを使ったさつまいも畑、まっすぐ上に伸びて場所を取らない高密栽培のりんごの木など、効率的な農業技術を店頭で実践。また、JAPANマルシェでは北陸の食材を使ったたこ焼きや、さつまいもの新メニューを開発投入するなど、数々の新たな店づくりに挑戦している。

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(左)焼き菓子"ミャクミャク焼き"をトッピングした らぽっぽ「おいもといちごのプレミアムプレート」
(右)「らぽっぽファーム~おいもとイチゴとりんごのFarm to the Table~」

 こうした取り組みは、万博のためだけに間に合わせたものではない。例えば、茨城県行方市に開設した20万坪の体験型農業テーマパーク「らぽっぽなめがたファーマーズヴィレッジ」、風評被害に苦しんでいた福島県楢葉町に建設した世界一の大規模甘薯貯蔵施設など、いもたこなんきんを通じた農業振興、地域創生、観光活性化につながる白ハト食品工業ならではの活動の経験と成果が生かされている。

万博を楽しめ。万博は人生を変える

 このように、万博を契機に事業を発展させ、夢を実現させてきた永尾さんが、万博効果として最も期待するのが、実は人づくりだ。
 「堺屋先生は言われました。『万博で、見たもの、聞いたもの、食べたもの、感動したものが、その国のナショナルスタンダード(未来の当たり前)になる。万博をやるのは本当に大変だが、成し遂げた者にはとてつもない未来の可能性が見えてくる。万博は人生を変える』と。当社が最終的に目指すのは、利益ではなく、強く生き抜く力を持った人材とチームをつくることです」

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 サスティナブルフードコートに5月、関大万博部とのコラボブースが期間限定で設けられ、らぽっぽと共同開発した商品などが販売された。そこで見た万博を積極的に体験しようとする学生たちの姿に、永尾さんは「もっともっと万博を楽しんでほしい。チャレンジしてほしい。彼らの中から日本を変える人が現れるかもしれない。社員たちにいつも言っているんです。空振り三振OK。見逃し三振NG。思いのままにバットを振っていこうって」と目を細めた。

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関大万博部×らぽっぽコラボスイーツのブース

 万博はここから始まる未来を感じられる場所。次世代の若者が どう育つのか、日本の農業・食・地方はどうなるのか。永尾さんの描く未来像が万博会場の白ハト食品工業の店々から見えてくる。


出典:関西大学ニューズレター『Reed』81号(6月27日発行)
永尾 俊一 ─ ながお としかず
1963年大阪府生まれ。白ハト食品工業株式会社代表取締役社長。会社経営デザイナー。関西大学第一中学校、第一高等学校を経て、1986年関西大学法学部卒業。大学4年の時、「タコヤキハウスKU/KU/RU」道頓堀店(現 たこ家道頓堀くくる本店)を開店。1987年、「おいもさんの店 らぽっぽ」を開店。 2010年から現職。道頓堀商店会副会長。関西大学評議員。