KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

漫画の力で万博に挑む
~漫画同好会×OG漫画家の共創プロジェクト~

関大人

 「あ、ここだった。ここだった」。


 うれしそうに漫画家のみづほ梨乃さんと穂積りくさんが階段を上って、関西大学漫画同好会の部室に足を運ぶ。部員らが声を上げて迎える。千里山キャンパス誠之館の中にある「年季の入った」本棚とイラストの並ぶ部室が、関大卒業生であるプロ漫画家2人の登場により、急に華やいで見えた。

最先端技術を、"4コマ漫画"でどう伝えるか

 「漫画同好会の部員らは、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで8月に展示する「企業の新技術」を"4コマ漫画"で表現することに取り組んでいる。そのネーム(コマ割りやせりふ、人物の配置などを描いた下書き)を描いたのが、みづほさんと穂積さん。みづほさんは社会学部、穂積さんは商学部(二部)の卒業生で、みづほさんは在学中は漫画同好会に所属していた。懐かしい部室で、「共同作業」に取り組んだ後輩たちと顔を合わせて笑顔を見せた。

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(左)みづほ梨乃さん、穂積りくさん

 大阪ヘルスケアパビリオンの「リボーンチャレンジ」では、関西大学の研究成果を生かしたベンチャー企業の先端技術が紹介される。それぞれ、時代を切り開く最先端の研究だ。


 課題は、集まってくるパビリオンの入館者にどう研究内容を伝えるか。


 専門知識のある人ばかりではなく、外国からの来訪者も多い。「わかりやすく伝えるために、日本独自の漫画文化は有効なのでは」と4コマ漫画で伝える案が浮上。OG漫画家と漫画同好会に白羽の矢が立った。
 プロのOG漫画家にネームを描いてもらい、それを漫画にするのが現役の学生、という組み合わせでこの難題に取り組んでもらうことになった。

プロにとっても"未知の挑戦"

 ネーム制作を担当するプロ漫画家にとって、この挑戦はなかなか歯ごたえのある仕事だった。みづほさんは2006年にデビュー。「ショコラの魔法」(小学館、ちゃおホラーコミックス)が長年読み継がれている人気漫画家だ。作品は妹の穂積りくさんと協力して作り上げ、穂積さんはノベライズも担当した。2人でさまざまな仕事をこなしてきたが、今回の依頼はかなり異色ではある。


 もともと「万博にはすごく興味があって、行ってみたいと思っていた」というみづほさんは、「あまりにも変わった依頼だったので、大学から連絡が来た当初は、喜ぶというよりも本当かどうか疑った。手の込んだ詐欺ちゃうか、と」と笑う。

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「大学×企業が生み出すイノベーションの可能性」をテーマに、
最先端の研究力と企業の技術力の融合によって描き出される「100年後の未来」を表現する

 「文章に比べて漫画は読みやすさ、入りやすさがあると思う。万博会場には子どもたちや外国の人たちも来るので、これは意義があること」と引き受けたが、ネームづくりには多くの困難があったという。「企業側がこだわっているポイントなどを4コマに落とし込もうとすると、思いのほかずれてしまうところもあった」。誰もが使いやすい先端技術だと考えて、「楽しそうに一般人が使っている」場面を提案したところ、企業からは「これはプロが高みを目指すためのものです」という趣旨の意見が「熱く」戻ってきて、驚いたことも。


 描き上げたネームは10種類、みづほさんが学生時代を過ごした漫画同好会に、2024年の年の瀬に届けられた。

漫画を通して社会と対話する

 「マンド―」の略称で知られる関西大学の漫画同好会には約130人が登録している。同好会としては規模が大きく、活動も積極的だ。毎年春秋に凜風館で開催しているパネル展には、メンバーが描いたイラストを目当てにファンが足を運ぶ。今回の取り組みには「万博で展示できるなら」と10人以上が手を挙げた。描画作業は、主に春休みに行った。

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 偉大な先輩のネームを元に、実際の漫画を描く作業にあたった河内美嘉さん(社会学部3年次生)、矢倉妃菜子さん(文学部3年次生)は、「今まで、"相手(企業)の希望に合わせて描く"ということが少なく、新鮮な経験でした」と話す。普段の「描きたいものを描く」スタイルでは通用しない挑戦。「たとえば企業の取り組みの中で、『食品のバリアフリー』をテーマにした技術革新を表現しようとすると、"小麦粉"を描かないといけない。これってどう描くんだ、というようなことがいろいろあった」と2人は話す。

先輩と後輩、創作を通じた交流

 プロ漫画家2人とマンド―のメンバーとの顔合わせは和やかなものになった。

 ネームを元に、人物などを魅力的に仕上げた後輩たちの絵は「かわいい!」と高評価。みづほさんは、「自分がネームだけを担当し、そのあとをほかの人に描いてもらうのは初めてだったので、とても目新しい経験でした」と話した。中でも、セミの羽由来の技術を紹介するのに使った「ミンミン星人」が特にお気に入りだという。


 また、2人は目を輝かせながら部室を見渡し、本棚に並んだ漫画のセレクトをほめ、自身の作品が壁に飾られていることに気が付いて喜ぶなど、後輩たちと向かい合うひと時を終始うれしそうに過ごした。

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漫画同好会の部室に並ぶ本棚やイラスト

 学生たちとの対談は、学生時代の活動や漫画家デビューをめぐる話から、漫画の「コマ割り」の技術、使っているパソコンのソフトなど具体的な内容にまで及び、漫画でつながった両者の話は尽きることがなかった。


 先輩と後輩でタッグを組んで生み出した漫画は8月5日から11日に大阪ヘルスケアパビリオンで展示される。

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各企業の未来技術を題材にした「100年後の未来社会」を表現する4コマ漫画は
展示会場のタッチサイネージ上で楽しめる(画像はイメージ)
みづほ 梨乃 ─ みづほ りの
大学卒業後、会社員を経て「チョコと赤いじてんしゃ」(『ちゃおDX』2006年春号)で漫画家デビュー。2008年に『ちゃお』(小学館)で始まった「ショコラの魔法」シリーズは現在まで続くヒット作に。同作で、第66回小学館漫画賞児童向け部門を受賞した。現在連載中の「妖とりもの手帖」(読売KODOMO新聞)も人気シリーズとなっている。
穂積 りく ─ ほづみ りく
「ショコラの魔法」シリーズでは主にストーリー制作を担当し、姉のみづほさんと共に作品を作り上げている。同作のノベライズも穂積さんが執筆。