大屋根リングの内側で~海外パビリオンの関大生たち~
グローバル
大阪・関西万博で日々来場者が増えている海外パビリオンの数々。それぞれの国が工夫を凝らした展示やパフォーマンスは大きな話題を呼んでいる。ここで関西大学の学生たちが案内役などのスタッフとして活躍している。外国語学部の学生たちが得意な英語を生かして活動しており、パビリオンの運営側からも「語学ができるだけでなく、人間力がある」「しっかりした意見を言えて、チーム内のコミュニケーションに貢献している」などと評価が高い。「万博の花」とも言える海外パビリオンで働く外国語学部生たちに話を聞いた。
絵画など「本物」展示で注目を集め、大屋根リング下に延びる長蛇の列がひときわ目立つイタリア館。大人気パビリオンで大畑直毅さん(4年次生)は忙しく動き回っている。並んでいる人たちに声をかけて案内し、時にはミネラルウオーターを手渡すなど来場者の体調にも気を配る。「あとどのくらい待つの?」と聞かれることが多く、そのたび丁寧に見通しを説明する。
「展示内容もいいですが、展示替えを積極的にしているのも魅力なのでしょうね。リピーターで来る人も多いです」と話す。と同時に「ここで働くのは忙しいですが、充実しています」という。「接客の経験はあまりなかったのですが、本当にいろいろな人が来て、対応も幅広い。一緒に働いているメンバーは国籍なども多様で、楽しい人が多く、こうした人たちと働く経験は就職後も生きると思います」。日焼けした顔に笑みが浮かんだ。
イタリア館の運営にかかわる株式会社ブレイン/株式会社三修社(東京都)の前田俊秀代表取締役は、大畑さんら大学生スタッフを「語学ができるというだけでなく、明るくてコミュニケーション力がある」と評価する。「スタッフもパビリオンの魅力の一つ」と採用選考は時間をかけて行ったので元々自信はあったというが「期待以上ですね。周囲に対してフレンドリーで、頼りがいのあるメンバーです」と話す。
ポルトガル館は数多くのロープが吊り下がる独特の建築がひときわ目を引くが、スタッフの明るさ、親切さも魅力の一つだ。
藤田実奈さん(4年次生)はショップを担当している。店長から展示などに意見を求められることもあり、信頼されている様子が伝わる。「お客さんに突然いろいろ聞かれるので対応力は上がったかな、と思います。毎日学ぶことがあり、楽しいです」。「フレンドリーで仕事がしやすいショップ」の悩みは商品がすぐに売れてしまって、棚が埋まらないことだ。ショップマネージャーで上司のミゲル・ラザロさんは藤田さんについて「学ぶことに意欲的でアイデアも出してくれる。説明も上手」と話す。
案内の仕事を担当している池内紗来さん(3年次生)は案内の仕事の中で自分が対応した外国人客がパビリオンに戻ってきて「いい対応をしてくれてありがとう」と言ってくれたのがうれしかった、と話す。パビリオン内外で英語と日本語で誘導する仕事。「英語を話す仕事につきたいと思っているので、いい経験になっています」という。
同じく案内の仕事をこなす早見希望さん(4年次生)も案内の仕事についていてやりがいがある、と話す。「海をテーマにした展示が魅力のあるパビリオンでの仕事は、ポルトガルと日本のつながりも感じることができます。将来は通訳・翻訳の仕事をしたいと考えているので、それを実践でき、将来につながる場です」と話す。
ポルトガル館のSupervisor(for the Attendants)のマシャ・バンジュールさんは「学生たちは外国人と分け隔てなく話して自由に羽を広げていると思う。積極的にアイデアを出し、楽しみながら成長してくれていると感じる。私たちも教えられることが多いですよ」と笑顔。
セルビア館は「浮遊する森」という別名があり、樹木を生かした外観が特徴的。2027年の「次の万博」がセルビアの首都ベオグラードで開かれるということもあり、注目度は高い。
ここでも秦菜々花さん(4年次生)が案内役で活躍中。ツアーガイドを任されることもあり、「緊張しますが、良い経験です。通訳を仕事にしたいということもあり、これは実践にもなる。今後につながると思います」。案内した中国人ツアー客から「良いツアーでした」とキャラクター人形をプレゼントされたことも。セルビア館のテーマが「遊び」で、子どもたちが喜ぶ展示が多くあるため、動き回る小さなゲストから目が離せない大変さもあるが「個性的なパビリオンでいろいろ発見があり楽しい。仕事を任せられている、という実感とやりがいもあります」と話す。
運営に当たるギヨーム・ガルティエさんは「語学のレベルが高く、頑張っている。英語でのツアーも任せており、良い仕事をしてくれています。軌道に乗るまですごく忙しかったが、スタッフの大学生たちがポジティブに挑戦してくれたので乗り切れた」という。
波をイメージした大きな階段が印象的な外観とフラメンコショーなど華麗なステージパフォーマンスが多くの入場者を集めるスペイン館では冨田奈津子さん(3年次生)に話を聞いた。
ステージが人気なだけに「展示へと向かう入場者が舞台そばで立ち止まってしまい、動いてもらうのが大変です」。また展示スペースの一部は映像を見てもらうためやや暗く、「ゴールデンウイーク中などは"迷子"対応で苦労しました」。それでもこの間の経験は「楽しい!」と笑顔になる。
「スペイン館はスペイン人のほか、中南米のスタッフもいて出身国が10カ国以上の混成チーム。それぞれ英語と日本語を使ってコミュニケーションをとっています。こういう場所で働くのが自分に向いている、と再確認できました」。航空業界を目指して就職活動中で、「この仕事を通じて、お客様へのホスピタリティを求められる仕事にやりがいと楽しさがある、と分かり、これは自分の将来に役立つ、と感じています」と話す。
スペイン館の乾奈津美スーパーバイザーは冨田さんについて「来場者への魅力的な説明と、チーム全体とのコミュニケーション能力が非常に高いと感じています。スペイン館では、『海と太陽』をシンボルに黒潮をテーマに紹介する展示が設けられています。高い英語力と太陽のような笑顔で、来場者にスペイン文化の魅力を伝える案内役として活躍しています。関西大学で培ったコミュニケーション力がとても役に立っているのだと感心します」という。
閉幕まで約1か月に迫った万博会場で、「大屋根リングの内側」はさらに人が集まる場になりそうだ。学生たちの活躍は続く。