KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

高い技術と深い馬愛に溢れる関西大学馬術部の魅力

文化・スポーツ

 関西大学馬術部は1924年に創部された伝統のある体育会クラブです。その活動拠点である馬場は、かつて千里山キャンパスの第1学舎付近にありましたが、2004年高槻キャンパスに移転。現在は、広大な敷地の中に馬場や厩舎、クラブハウスなどが整備された環境で練習に励んでいます。

 馬場に到着すると、すでに部員の皆さんが練習していました。馬術の練習風景を眺めるのは初めての経験。聞きたいこと、知りたいことが満載です。

 お話を聞いたのは、主将の福島秀太さん(人間健康学部4年次生)、荒川将暉さん(文学部3年次生)、布村翼さん(商学部3年次生)。「そもそも馬術とは」からいろいろと教えてもらいました。

13_02.jpg
お話を聞かせていただいた荒川さん、福島さん、布村さん(左から)

 馬術は近代オリンピック創設当時からある種目の一つで、「性・年齢の区別がない」「動物と一緒に競技する」という意味で唯一の存在なのだとか。ヨーロッパに比べると日本ではあまりポピュラーではないですが、大学スポーツとしては古くから定着。馬術部は全国各地の大学にあり、それぞれが切磋琢磨しているそうです。

 馬術競技には3種目(①コース上の障害を馬と一緒に飛び越える「障害馬術」、②ステップなどの演技や正確さや美しさを競う「馬場馬術」、③障害馬術と馬場馬術に、丸太などの障害物が設置された自然の地形を駆け抜けるクロスカントリーを加えた3種目で競う「総合馬術」)あり、オリンピックとはクラスは異なりますが学生大会も同じ種目で争います。関西大学馬術部は特に障害馬術に強く、毎年秋に開催される全日本学生賞典障害馬術競技大会(以下、全日本学生馬術大会)では何度も団体優勝しており、2020年度は団体2位、個人では永合更良々さん(総合情報学部2年次生)と千駿号が見事、優勝しています。

13_03.jpg
クラブハウスにはいたるところに表彰状やトロフィーが

まさに「馬が合う」かどうか

 この日、練習を見せてくれたのは、全日本学生馬術大会で個人優勝したカリエーレ号(2017年)と千駿号(2020年)。脚の防護具、胴に載せる鞍、口にくわえさせるハミなど、馬具を付けると、ぐっと凛々しくなる感じ。大会の時は、ジャケットと白の乗馬ズボン、白いネクタイなど正装で騎乗することがルールとか。さすが格式のあるスポーツです。

13_04.jpg
福島さんとカリエーレ号

 馬が普通に歩くのは「常歩(なみあし)」、少し速く走るのは「速歩(はやあし)」と言います。速歩になると騎手の体が上下しますが、あれは、自然に上下しているのではなくて、馬が歩くリズムに合わせ騎手が立つと座るを繰り返しているのだそう。競技でコースを回る時は、速歩よりさらに速い「駈歩(かけあし)」で。馬術ではこれが最速。

 ちなみに競馬のような走りはさらに速い「襲歩(しゅうほ)」と言い、時速60~70キロと自動車並みの速度になります。

 全日本学生馬術大会の障害馬術の試合では最も高いもので130cmのバーがコースの中に11~14個配置されており、一つも落とさず飛び越え、しかも一番速くゴールすることをめざします。全ての馬の動きは騎手が誘導するもの。左右の手綱で力の入れ方を変えたり、重心を傾けたりといった微妙な指示も組み合わせて、思い通りに馬を動かす技術が要求されます。試合では、開始15分前に初めてコースがわかるため、そこから各障害までの距離を歩測し、歩数、踏み切る位置などを素早く計算、頭の中で戦略を組み立てて臨むそうです。

13_05.jpg
荒川さんと千駿号

 基本的な馬への指示は決まっていて、例えば、止まってほしいときは手綱を引く、動いてほしいときは踵でトントンと合図するなど、これら指示の通りに動くように馬はある程度調教されています。そのうえで、馬の個性に合わせた指示を、一緒に練習をしながら身につけていきます。その基本は、常歩、速歩、駈歩を組み合わせながら、馬の癖を理解し、どうすれば馬が言うことを聞くのかを細かく確認していくことなのだとか。

馬にとって良ければ、それでいい

 次に厩舎へ。間近で見る馬は、想像以上に迫力があります。潤んだ瞳は大きくてかわいくて、鼻筋をなでるとすべすべで温かでした。

13_06.jpg
気配に気付いて、いっせいに馬たちが顔を出した

 現在、関西大学馬術部は部員16名、馬21頭。馬の名前には、創部の地、千里山にちなんで「千」の字が入っているのが多いのだとか。ちなみに、関関戦のライバル関西学院大学は「月」の字が多いそうです。
 各選手はコーチとも話し合いながら担当の馬を決め、年間を通してほぼそのペアで練習し試合に出場しているのだとか。「各選手が愛馬とも言える馬を持てる環境はかなり恵まれていて、練習や世話にも身が入ります。馬にも、得意不得意があり、個性もあります。『人馬一体』と表現されるように、馬術はいかに思った通りに馬を動かせるかが勝負。担当の馬を決めて長く付き合えるため、信頼関係も築きやすいんです」

 他にも関西大学馬術部ならではのよさを聞いてみました。「1頭ずつの洗い場があるのがいいです。練習後はすぐに汚れを落としてやれれば、病気にもかかりにくい」とか、「昨年、厩舎にエアコンがつきました。エアコン付きなんて、関大ぐらいじゃないかな。馬の夏バテ予防ができます」など、馬の生育環境を何よりも大切にしている気持ちが伝わってきます。

13_07.jpg
手入れも大切なコミュニケーションです!

まるで家族の一員のように

 「人馬一体」は日々の積み重ねから。馬の世話はすべて部員が分担・担当。馬が疲労しないよう練習は1頭1時間程度にとどめ、午前中には終了しますが、授業や個々の予定を調整しながら当番を決めて、午後以降も必ず誰かが常駐しています。

07_.jpg
13_09.jpg
昼のエサやりの様子

 「早朝から世話をしたり練習したり、辛そうに見えるかもしれませんが、馬がかわいいので全然苦ではないです」と荒川さんは言います。むしろ辛かったのは、コロナ禍で部活動が中止になり、外部の乗馬クラブに馬の世話を任せることになった時。「ずっと馬に会えなかったので、日常の中にぽっかり穴が開いたというか」と布村さんが言うと、福島さんも「再会した時は、完全に馬よりも僕らの方が喜んどったな」と笑いながらうなずきます。
 3人とも子どもの時に馬術を始め、馬のいない生活は初めてだったそうで、余計堪えたのかもしれません。

知るほどに魅力的な馬たち

 毎日、馬たちと過ごしているからこそ知る馬たちの喜怒哀楽。その一端を部員の皆さんから聞きました。

 「目はもちろん顔もしぐさもよく見たらみんな違うのがかわいいです。牝馬(メス)は最初警戒心が強いことが多いのですが、世話をするとだんだん懐いてくれるのがうれしいですね」(布村さん)

 「掃除してきれいにしてやると、嬉しそうに寝転んだりして明らかに喜んでくれるんです。世話のしがいがあります」(福島さん)

 「お互いの距離が縮まると、寄ってきて、甘噛みしたりじゃれてきたりするんですよ。馬同士でじゃれ合うこともあるし、見ていても飽きないです」(荒川さん)

 他の部員からも、「寝る時に、無防備に足を伸ばて寝そべる子もいる」、「洗い場で気持ちいいのか、猫のようにグーッと足を伸ばして身体を沈めたり上に背伸びしたりする」、「手入れをしていると口元が緩んでくる。掻いてあげると目を細める。表情はすごく豊かです」、「馬の感情は耳の動きに表れます。集中している時はピンと立ち、怒っている時はピタッと後ろに寄せ敵意むき出しの表情に。リラックスしている時は耳が横になって、目もトロ~ンとなって」...。なるほど、馬愛が止まらないのもわかりますね。

13_10.jpg
表情豊かな馬たちと一緒にいると、馬愛が溢れだすのがよくわかります

鞍の上でしか味わえないこと

13_11.jpg

 馬と一緒にするスポーツだからこその面白さがあると3人は語ります。「言葉で伝え合えられないからこそ、思ったその通りに動いてくれた時のうれしさは格別」という福島さんに、荒川さんも「目標を達成できたときの達成感が、自分とは違う生き物と一緒にやるからこそ大きいような気がします」と賛成します。布村さんは、さらに障害を飛ぶ魅力を教えてくれました。「馬の上に乗って障害を飛び越える瞬間は、目線がポーンと高くなります。分速350mとかのスピードで走りながら飛ぶスリルとダイナミックさも、他のスポーツには代えられない楽しさです」

 毎年入部してくる新入部員は、経験者と未経験者が半々ぐらい。馬術競技は難易度に応じてクラスが分かれているので、未経験者でも毎日少しずつ練習して、1年目から大会にも出られるそう。4年次生になる頃には1mの障害も飛べるようになり、「経験が少なくても、楽しめる競技」だといいます。馬への指示が上手であれば特別な運動神経も必要ではないとも。

 部員たちの馬への思い、世話をする部員たちの優しい手、クラブハウスにたくさん飾られていた馬の写真や絵、はたまたスマホの待受画面にまで...馬への愛情の深さがいろんなところに溢れ出し、温かい気持ちになると同時に馬術に親しみをおぼえた取材となりました。
 団体優勝の目標に向かって、関西大学馬術部のますますの奮闘を応援しています。