KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

文理総合を生かした「データサイエンス教育プログラム」
誰も想像できない未来を生み出す人材を

学び

/総合情報学部 学部長 名取良太教授

 革新的技術として、あらゆる領域で活用が始まっている「データサイエンス」をご存知だろうか。膨大な量のデータを分析し、それぞれの課題解決に応用する技術だ。例えばファッション分野においては、消費者が選んだアイテムの種類やカラーのデータを集めることで、次のトレンドを予測できる域に達しているという。関西大学の総合情報学部では、2021年の4月に「データサイエンス教育プログラム」を開設する。世界的に注目が集まるデータサイエンス領域の教育において、文理総合を標榜する学部が本プログラムを実施する強みを、総合情報学部・学部長の名取良太教授が語った。

1994年から既に「データサイエンス教育」に取り組んでいた

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 2021年に新設する「データサイエンス教育プログラム」とは、データサイエンス技法を段階的に修得できるよう、新たに設計されたプログラムになります。しかし、その中で新しく設置した科目は1つだけです。というのも、総合情報学部では、1994年の開設以来、データサイエンス領域のさまざまな科目を開講してきました。例えば「データリテラシー実習」「モデル分析実習」などがそれに当たります。

 では、なぜ新たにプログラムとして再編したか。その大きな理由は「学生への意識付け」です。総合情報学部での学びは「情報を理解し、それぞれの領域の発展に活用する」もので、データサイエンスの考え方と類似しています。しかし、データサイエンスという言葉が最近になって普及したため、学生たちが新しい概念と捉えてしまっている。その状況を改善すべく、データサイエンス教育プログラムと銘打ち、新たにプログラムとして設置することとなりました。

求められるのは「データ分析の技術」だけではない

 データサイエンスと聞くと、「理系」をイメージされる方が多いのではないでしょうか。集まったデータを分析し、それをAIやプログラムに学習させる、いわば情報学的な技術と捉えられることが多々あります。事実、新設するプログラムでは、それらの分析技法やデータ処理の技法を習得することを目標としています。しかし実のところ、それらの技術だけではデータサイエンスは成立しません。

 データとはただの数値であり、無機質な情報にすぎません。そのため、データの背後にある構造を理解しておかないと、どんなに優れた技術を持ってしても、適切な分析はできません。具体例として、選挙結果で考えてみましょう。例えば投票数は、誰が何票を集めたのかという、そのままの数値情報でしかありません。しかしその裏には、議員が所属している政党、年齢、性別、世襲の議員なのか、大臣の経験者なのかどうか、といったあらゆる背景が絡み合っており、それが投票数という結果につながっています。このような背景を理解し、データを整理できてこそ、真に迫った分析が可能になります。そして、その分析結果を活用する方法も、それぞれの専門領域に詳しくなければ、アイデアが生まれないと考えています。データサイエンス教育プログラムで学ぶ「データを扱う技術」に加え、その手前にあるデータの背景を理解し、活用するために「人文・社会科学の知識」が、データサイエンスにおいては必要とされるのです。

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必要なデータを知り、収集できる人材を

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 総合情報学部は、開設当初からデータサイエンス関連の科目を有しているとお話しました。それはデータ分析の技術的な部分のみならず、背景理解においても同様です。総合情報学部は、全国的にも珍しい「文理総合」の学部で、文系・理系に関わらず、広く門戸を開いています。所属する教授陣の専門分野も、工学系はもちろんのこと、経営学や法学、心理学など幅広いため、学生自身が興味のある分野を選び取り、複数の学びを掛け合わせながら、深掘りしていくことができる特殊な学部です。

 例えば、経営学に興味のある学生の場合は、マーケティングに関する科目を履修したり、経営学を専門とする教員のゼミに入ったりすることになります。そこで学んだ知識と、データサイエンス教育プログラムで身につけた技術とを掛け合わせることで、新規マーケットの予測・分析ができるデータサイエンティストへと成長していきます。

 このように総合情報学部は、データサイエンティストに求められる「データ分析の技術」と「各分野の専門知識」、両方を修得することができる環境を備えています。総合情報学部の文理総合という土壌は、データサイエンティストの育成に最適といえるでしょう。

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 さらに総合情報学部では、用意されたデータを分析するだけでなく、必要なデータを考え、自ら集めることができる人材の育成を目指しています。高槻キャンパス内には、モーションキャプチャを利用して人間の動きをデータ化するスタジオや、心理実験を行う施設も用意する予定で、あらゆるアプローチで独自のデータを収集することができます。そこでは「ある対象を分析するために、どんなデータが必要か?」と検討する力が養われていきます。

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想像もできない未来をつくるのが、データサイエンティストの役割

 現代の社会では、経営や経済、政治に農業、環境問題など、あらゆる領域でデータ活用が始まっており、それに対して「データサイエンティストは不足している」と言われています。しかし、データ分析の技術だけを持った人材をいくら育成しようと、根本的な解決にはならないと思っています。総合情報学部は、データ分析の技術と、それぞれの専門的な領域・知見を掛け合わせることができる人材を育成します。それこそが本当に求められる「データサイエンティスト」であり、彼らこそがこれから始まるAI社会、未来を築く人材だと考えています。

 ここまで言ってしまうと「数学的な知識も人文・社会科学の知見も必要とされる難しい道なのでは」と誤解されそうですが、そうではありません。私自身、今はデータを扱いながら現代政治学を研究していますが、昔は数学なんてからっきしでした。ですが、自分が興味のあった政治現象がデータによって明らかにされると思うと、ワクワクしてきたんです。そうすると、これまで苦手だと思っていた数学も、見え方が変わってきました。だから今、数学が苦手だから、文系科目が苦手だからと悩んでいる学生さんには、何も悩む必要はないと伝えたいですね。受験勉強、試験合格という目的のための数学と、好きな分野を解き明かす手段としての数学では、楽しさは全く違ってきますから。

 よく「データサイエンティストの活躍によって、どんな世界が実現されるでしょうか?」と聞かれますが、うまく答えられた試しがありません。例えば総合情報学部ができた1994年、自分のいる場所をリアルタイムで把握して、目的地までのルートを瞬時に導き出すなんて、絵空事だと思っていました。それがたった10年、20年で実現されています。データサイエンスも同様に、日進月歩で活用が広がっています。医療の世界では、AIが即座に診断する技術が研究されている。車の自動運転の実現もすぐそこまで来ています。きっともっとすごい未来が、データサイエンスの力で実現できるはずです。総合情報学部の学生には、技術と知識と想像力を掛け合わせ、誰も想像できない未来を築いてほしいと願っています。

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名取 良太/教授(総合情報学部)
2000年に関西大学総合情報学部に着任。2020年10月から学部長。専門は現代政治の分析。主な分析対象は、地方政治と選挙制度。選挙データや調査データを用いた統計分析を研究の中心としているが、近年はシミュレーションやデータベース構築にも手を広げている。