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刑法各論の紹介

―基幹科目から全てが始まる―

 法学部 飯島  暢 教授

 法律学は体系的な学問です。難しく聞こえるかもしれません。単純化すれば、どのような問題であっても、それを考える際には、原理原則に立ち返ることが必要になるということです。刑法学でも、当然にこのような体系性を重視します。学部1年生全員が履修する基幹科目として刑法各論があります。この刑法各論では、具体的には、窃盗罪や強盗罪といった財産犯と呼ばれる犯罪のグループについて勉強します。刑法学全体の中では、重要ではありますが、限られた領域でしかありません。しかし、その際に学ぶことは、刑法学の他の部分から切り離された知識に留まるものではありません。刑法各論における財産犯に関する様々な問題点、特殊な考え方の背後には、刑法学全体を貫通する原理原則が必ずあります。こちらも授業をするときに、その点を注意して強調します。この原理原則を学ぶことが一番重要であるといっても過言ではありません。

 基幹科目として刑法各論を学んだ後に、刑法総論、事例講義刑法、展開講義といった講義形式の授業、更には発展演習、専門演習のようなゼミ形式の授業で、より深く刑法の諸問題に触れる機会が多くあります。これらの応用的な授業においても、基幹科目である刑法各論で学んだ原理原則が重要となります。刑法総論では、殺人罪や窃盗罪といった具体的な犯罪の相違を超えた、全ての犯罪に当てはまる諸問題を扱います(より抽象的な議論をします)。そこでは、刑法各論で聞いていた原理原則がより直接的に議論の俎上に載せられることを体験することになるでしょう。事例講義刑法や、報告するテーマの選定などで自主的な要素が高まるゼミ形式の授業では、具体例に基づいた刑法学の論点を扱うことにより、原理原則の具体的な適用を学ぶのです。つまり、刑法と名の付いた授業では、基本となる原理原則とその具体的な適用を異なる場面において繰り返して学習することになります。ここに刑法学が体系的な学問であることの意味があります。

 しかし、これは閉じた体系ではありません。かつては想像もしなかった、犯罪と刑罰に関わる新たな問題が社会の中で生起するとき、刑法はこれに対処しなければなりません。原理原則が適用される先の新たな事実が次々と流れ込んでくるのです。刑法の授業内容もどんどん刷新されます。皆さんは、このことをまずは基幹科目である刑法各論で垣間見ることになるでしょう。全ての刑法体験は、そこから始まります。