KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

福祉の灯りがともる場所
「Just Be.」を受け入れる共生社会へ

関大人

/La Luna 旧中川邸 代表(一般社団法人月心 代表理事) 福本 久美さん(文学部 1998年 卒業)


 兵庫県西部、たつの市にある龍野城下町は、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。その一角で2025年11月にオープンした「La Luna(ラ・ルーナ)旧中川邸」を経営する、地元出身の福本久美さん。お店はレトロカフェとして人気を博す一面、福祉カフェとしての側面を持ち、多様な人たちの居場所となっている。カフェオープンまでに至った彼女の道のりを聞いた。

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多くの出会いと経験を重ねた大学時代

 明治時代に建てられ、かつては産婦人科だった建物をリノベーションした「La Luna 旧中川邸」。ハンディキャップがある人たちも気兼ねなく足を運べる場所にしたい、そんな想いを込めた福祉カフェだ。運営する一般社団法人「月心」を立ち上げたのは、たつの市で生まれ育った福本久美さん。「開店した時、お客様同士が手話で楽しそうに話されていて、思い描いた通りの光景に感激して涙が出そうでした」。

 日本人初の国連難民高等弁務官である緒方貞子さんに憧れ、高校時代は国際協力の道を目指して勉強していたものの、家庭の事情で進路を変更することに。当時、福本さんの頑張る姿を見ていた先生が関西大学文学部の英文学科(当時)を勧めてくれた。

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(左)高校生の時に聴覚にハンディキャップのあるご両親への思いと決意を書いた英語スピーチコンテストの原稿。
この時の思いが時を経て今も続いている/(右)英語と多文化への関心の原点となった高校時代のホームステイの写真

 実際に関西大学で学び始めてみると、多岐にわたる分野の文学を教材とした授業は楽しく、言語学のゼミでもその奥深さに夢中になった。一方でテニスサークルとツーリングサークルを掛け持ちし、アルバイトをしたり、英会話スクールにも通ったりと忙しい日々の中でたくさんの出会いと豊かな経験に恵まれた大学時代はとても貴重な時間だったと振り返る。
 「心をフルオープンにして知らない世界へ飛び込んだからこそ、今まで気付いていなかった新しい自分を知ることができました。世界が広がるってこういうことなんだ!と身をもって体験できた4年間でしたね」。

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(左)ツーリングサークルの仲間たち/(右)学部の友人たちと大学の卒業式で

作業療法士として認知症患者の地域支援へ

 就職活動を始めることなった3年次生の頃、訪問した国際協力関連のNGO団体でフィリピンへのスタディツアーに誘われて参加したことが、その後の人生を大きく変えることになった。
 「見学した現地の療育施設にアメリカから作業療法士のインターン生が研修に来ていたんです。彼らが提供したゲーム療法を通じて、疲れた表情だった施設の親子たちの目に輝きが戻り、笑顔になるのを見て『なんて素晴らしい仕事なんだろう!』と感動しました」。
 自分も人を笑顔にする仕事に就きたいと、作業療法士への道に進むべく関西大学卒業後、専門学校を受験。無事合格し、作業療法士として病院の認知症病棟や老人保健施設でキャリアを重ねた。たつの市で認知症地域支援推進員として働いていた時、認知症患者や家族からの相談を受ける度に感じることがあった。「若年性認知症の方は特に、退職してしまい生活に困ってからや、問題が大きくなってから相談に来る方が多いんです。もう少し早く相談してくれていれば対応出来ることも多いのですが、相談先が行政や病院だと気後れしてしまう。だからもっと気軽に話せる場所があればと思っていました」。

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(左)フィリピンを再訪問した際に過ごした村の人たちとともに
(右)村にお金が循環する仕組みの一環としての豚バンク事業を支える養豚場づくり

50歳を機に想いを詰め込んだ場所を

 そこで福本さんは「自分が50歳になったことを機に、他にやってみたかったことを全部詰め込んだ場所を作ろう」と一念発起。一つは認知症の患者や家族が気軽に話ができる場所づくり。そしてもう一つは手話の啓発活動。耳が不自由な両親を持つ福本さん自身も幼い頃から手話を使っていたこともあり、ハンディキャップがある人たちの居場所を作りたいと考えていた。またアレルギーを持つ自身の娘のために食について長年勉強しており、食材や調理法にこだわった食事を提供したいという気持ちもあった。
 現もともと旧中川邸は「多世代交流カフェ」で、推進員として足を運んでいたこともあった。その後、閉店の話を聞き受け継ぐことに。他の地域に安価で借りられる物件もあったが、両親をずっと助けてくれた地域、自分を支え育ててくれた地元に恩返しをしたいという気持ちを大切にした。一般社団法人「月心」を立ち上げ、新たなカフェが無事オープンの日を迎えたのは2025年11月。「ハンディキャップのある方は、外出してお店に入っても気を遣うことが多いですが、ここだと気軽に来られると、いろいろな方が足を運んでくれています」。
 手話ができるスタッフの名札には「手話」と書かれており、耳が不自由なスタッフも臆することなく笑顔で働いている。「今後はハンディキャップがある人もどんどん起用していきたい。法人を立ち上げたのも、就労継続支援B型事業所も併設して運営していきたいと思ったからです」。県からの認可も無事に下り、今後はカフェの裏にある畑で料理に使用する野菜の栽培や、導入予定の焙煎機でコーヒー豆の焙煎など、ハンディキャップのある人たちが笑顔でいろいろな仕事にトライできる受け皿にもなりたいと夢は膨らむ。

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(左)スタッフの名札。「手話」という文字の横には会話レベルを表す絵文字が書かれている
(右)認知症地域支援推進員時代に支援していた方々が常連さんとして訪れる
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共にお店を支えてくれる大切なスタッフたちと

心を開いて向き合えば世界は広がる

 カフェの運営を始めてからしばらく経った。「背景やコミュニケーション方法も違う人たちの、真の共生社会は本当に可能なのだろうかと立ち止まることもあります。けれど"Just Be.(ありのまま)" をお互いが受け入れ合うことができれば、きっと可能になると信じています。それに気付かせてくれたのは、たくさんの出会いに心を開いて向き合い、世界を広げることができた大学時代でした」。
 カフェには大学時代の友人も大阪から訪れてくれる。「何事も前向きに楽しみながら自分の道を作っていくと、さらにその先へと道が拓けていくことを体感した4年間でした。私が大学生活の中で得たことは、自分がどう過ごすかでその場所の意味が変わるということ。今いる場所での積み重ねが、思いがけない未来につながることもある。学生の皆さんにはそう伝えたいです」。

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出典:関西大学ニューズレター『Reed』85号(2026年6月30日発行)
福本 久美─ふくもと くみ
1975年兵庫県たつの市生まれ。1998年関西大学文学部卒業。大学卒業後、国立療養所箱根病院付属リハビリテーション学院で作業療法士の資格取得。千葉県の精神科病院に勤務後、地元たつのに戻り、認知症病棟や老人保健施設などで勤務。たつの市地域包括支援センターでは認知症地域支援推進員を務め、若年性認知症の生活支援に携わる。2025年9月に一般社団法人月心(つきごころ)を設立し、11月に福祉カフェ「La Luna 旧中川邸」をオープン。