KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

学生だからできることとは?
コロナ禍で誕生した相談窓口「なんでもオンライン相談」担当学生たちに聞いてみた

学び

 2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大を受けて「緊急事態宣言」が発令され、各大学では急遽遠隔授業に切り替わりました。そんななか関西大学では6月上旬から7月下旬にかけて、学生による学生のための「なんでもオンライン相談」を設置。この試みはどんな経緯で誕生し、どんな活動を行ってきたのか? そして関大の学生たちはコロナ禍のなかで何を思うのか? 「なんでもオンライン相談」で相談役(=スチューデント・アシスタント/SA)を務めた学生3名に、Zoomを使ってオンラインでお話を伺いました。

学生たちから見たコロナ状況下の大学生活

 じわじわとコロナ禍が広がり、緊急事態宣言が発令されて......、色々と悩ましい状況に直面したと思いますが、そこでまず何かしたことはありますか? 誰かに相談したとか、何かを準備したとか...?

 「私の場合、最初に遠隔授業に対応できる環境を整えました。カメラやマイクを買って。関東の私大は早い段階でオンラインに舵を切り、その様子を見ていたので、関大も同じ様になるだろうと思っていました」

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松岡柊治さん

 そう振り返るのは政策創造学部4年次生の松岡柊治さんです。まさに読みどおり、見事に授業がオンラインに切り替わりました。では、実際にオンラインによる大学生活に変化はあったのでしょうか。この質問に答えてくれたのは、経済学部4年次生の久保田さくらさんです。

 「移動時間がないので、講義の復習をしたり、睡眠で体を休めたりといったいろんな時間の使い方ができました。ただ、定期試験の代わりに毎回授業の課題が増えてしまい、その点はみんなも苦労していましたね。特に締め切りが重なるとかなり大変でした」

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久保田さくらさん

 システム理工学部4年次生の後藤真里奈さんは、また別の感想を聞かせてくれました。「私の学部はもともとパソコンを使う授業が多いこともあって、いまのところ授業形態に関しては目立った困難はありません。でも、実習の授業には影響があるかもしれません。自分たちの手を動かして学ぶことの多い実験などができなかったことは、その後の授業にも影響してしまうのではないかと心配です」

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後藤真里奈さん

 なるほど、学部や授業によっても事情はばらばら。また、対面授業にはない遠隔授業ならではのマナーや気遣いがあることもわかってきたようです。

 「対面のゼミだったら、何か意見や質問があればその場でぱっと発言できますよね。でもオンラインだと、急に喋り出して良いのか、発言の前にチャットで合図したほうが良いのか、はじめはいろいろと考えました。他の人はどうしてるのかとSNSで調べながら、いろいろ試行錯誤しましたね」(松岡さん)

 学生たちは、変化に順応し、遠隔授業を受講しながら、たくましく自分たちなりに対応の仕方を身につけていったようです。

「なんでもオンライン相談」は収入源でもあり、人とつながる場でもある

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「なんでもオンライン相談」のプレスリリース

 とはいえ、「同じ場所に人が居ない」「接触できない」ことに、少し慣れたとしても生活への影響は大きいはず。自分たち自身も大変なのに、他の学生たちの相談に乗るという「なんでもオンライン相談」に携わろうと思ったのは、どんな動機があったのでしょうか?

 「コロナ禍で、人とつながる場や相談できる場がなくなってしまったなと感じます。特に新入生は不安だろうなと。オンラインでもつながれる場をつくる手伝いができるならと考えて、参加を決めました」(久保田さん)

 藤さんは、この活動によってつくられるコミュニティに興味を持ったといいます。「相談窓口のSAは寄せられた内容について、SA同士で相談し回答を考えるという仕事だと知って、他学部の人とも交流する機会になると感じました。それで積極的に参加していこうと思ったんです」

 一人暮らしの松岡さんがこの取り組みにメリットを感じたポイントは、他の二人とちょっと違うところもあるようです。「もともと関大には、講義の際の出欠確認や機材設置を担当するスチューデント・アシスタント(SA)という仕事があって、私もその仕事をしていました。対面授業がなくなり通常のSAの業務もなくなって、かといってコロナ禍で他の仕事を探すこともできない。困ったなと思っていたら、SA業務を担当する職員の方より、悩みを持った学生向けにオンラインで窓口を開設するので対応可能な人はいますかと案内が来て。やるしかない!と即決しました」

 今回、「なんでもオンライン相談」の担当事務職員である授業支援グループの土井健嗣さんにもお話を伺ったところ、当初遠隔授業に関する総合窓口はなかったため、学生、特に新入生がどこに何を相談してよいか困っていたとのこと。さらに松岡さんの話にもあったように、従来のSAの仕事がストップし、経済的に困る学生たちが出てきていた。そこで、まずは5月末から事務職員によるオンライン相談窓口を試験的に行い、6月8日にはSAを中心にした体制をスタートさせたのだそうです。人となかなか会えないなか、新入生にとっても、上回生にとっても、強く求められていた取り組みだったと言えるでしょう。

SA同士で話し合い、回答を練っていく

 オンライン相談のSAは合計25人で、曜日ごとに数名ずつ分かれて対応をします。業務時間は1日あたり2時間。学内システムから投稿された相談を事務職員が匿名化し、その相談についてSAたちはZoomを使って話し合いながら回答を考え、回答案を事務職員が投稿者に届けます。一つひとつ相談内容を吟味し回答するのは、なかなか大変な作業です。マニュアルの類はあったのでしょうか?

 「何度か相談に乗っているうちに、事務手続きの方法など、頻繁に寄せられる質問がわかってきたので、回答例を用意しました。マニュアルが最初からあったわけではなく、自分たちでマニュアルを整備していったという感じです」(松岡さん)

 ただ一方では、マニュアル化できない相談もあったようです。

 「特に印象的だったのは、一言、『しんどいです』という相談ですね。みんなと話せないし、課題も多くてつらいという内容でした。回答では、誰かにこうして悩みを話して欲しい、そして私も今あなたと同じような気持ちですと、相談者への共感を大事にしました」(久保田さん)

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寄せられた相談とSAによる回答。
担当職員の土井さん曰く「この内容を質問しても良いものか」と迷っていた学生たちも、
相手が学生ということで気兼ねなく投稿してくれたようだ。
まさに「なんでも」相談できる場だったのだ

川柳や、遠隔授業への提案書...相談以外の活動も

 「なんでもオンライン相談」の活動ですが、実は相談への回答だけではなかったようです。他にどんな活動をしていたのでしょうか。

 「たとえば、大学刊行物の『ニューズレター』に掲載する川柳を考えて欲しいという依頼が大学からありました。"遠隔授業あるある"というお題で、私たちが考えていることを川柳で表現するというものです。SAみんなで考えましたね(久保田さん)

 せっかくなので、どんな句を詠んだのか、いくつか教えてもらいました。

・学生も 学校行かなきゃ ニートかな
・忘れてる 提出期限と 通学路
・回線が落ちて バーチャル 神隠し
・帰省して いない下宿に 金払う

 ユーモアも効かせつつ、現状に対する疑問や悩みや観察が詠み込まれていますね。

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コロナ禍の経験を反映したSAによる川柳。
教育開発支援センターの『ニューズレター特別号』(2020年8月)に掲載されている

 遠隔授業に関する提案書を作成した、というのは、後藤さんです。「これも大学からの依頼で、遠隔授業の良い点、悪い点、そして大学に改善して欲しいことをまとめていきました」

 SAの学生がまとめた提案の一部に対しては、すでに大学も対応を行っているそうです。例えば「授業が始まっているのにZoomがつながらない時に連絡がとれるところが欲しい」という要望には対応窓口を開設。また、「録画型の授業は短いほうが聴きやすい」という意見に対して、教員向けマニュアルで10から15分ごとに動画を区切ることを推奨しました。そして、今回取材した3人も含め、多くのSAが望んでいた「オンライン相談窓口の継続」という要望に対しては、海外にいて入国ができなかったり、事情があり来学できない学生向けに、秋学期も継続する予定だそうです。

オンライン相談の経験で考えた、大学という場所の意味

 オンライン相談は一旦7月下旬で終了。関西大学初となる、ほぼキャンパスに足を運ばないの春学期を乗り切り、3人のSAは何を感じたのでしょうか。最後に、それぞれの気づきについて語ってもらいました。

 「私が思ったのは、対面の大切さです。キャンパスの景色を目にしたり、人と話したりして......」と、ここで突然久保田さんの画面がフリーズ。しばらくして復帰すると......。

 「遠隔授業でもこうやって止まってしまうことがありました(笑)。続けますと、今までのように、友人と一緒に授業を受けるという生活がいかに貴重なものだったのかがわかりました。後期も『なんでもオンライン相談』が実施されるかどうかはまだわかりませんが、機会があればぜひやってみたいですね」

 後藤さんは、オンラインの可能性を感じたと言います。「当たり前だと思っていたことが必ずしもそうじゃなかったんだなと感じました。ただ、そんな状況だからこそ、今まで接点を持てなかった人とオンラインで話す機会ができて、新しい関係が築ける機会にもなったんだと思います」

 大学の場としての大切さを知ったというのは松岡さんです。「私は、大学は単に授業を聞くだけの場じゃないんだと改めて思いました。誰かと関わって、社会を知る場所、他者とも出会える場所が大学だったんだと実感しました」

 事務職員の土井さんは、「SAの学生たち自身も答えがない相談に向き合い、不安によりそうことで、想像力や文章力などいろいろな面で成長していくのがわかりました」と、今回の取り組みを振り返ります。さらに学内の担当部署には、相談を寄せた学生たちから「なんでもオンライン相談を設けてくれて助かりました」という声が届いているそうです。相談を通じて自らも成長したSAたち。その存在はしっかりと、不安を抱えた学生たちの心の支えになっていたようです。

なんでもオンライン相談SA
松岡 柊治さん(関西大学 政策創造学部 政策学科)
久保田 さくらさん(関西大学 関西大学 経済学部 経済学科)
後藤 真里奈さん(関西大学 システム理工学部 電気電子情報工学科)
なんでもオンライン相談担当職員
土井 健嗣さん(関西大学 授業支援グループ 教学IR室・教育開発支援室)