関西大学 科学技術振興会 2020年度 第5回研究会

 関西大学科学技術振興会では、例年、第5回研究会として先端科学技術シンポジウムにて1年間の活動内容をポスター展示しております。今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、先端科学技術シンポジウムがオンライン開催となったことに伴い、本会第5回研究会におきましても活動内容を、以下の通りWEBサイトに掲載いたしますのでご高覧ください。

● 2019年度 学の実化賞・研究奨励賞表彰式  ● 2020年度第2回研究会  ● 2020年度第4回研究会

2019年度 学の実化賞・研究奨励賞 表彰式 及び 2020年度 第2回研究会を開催 8月28日(金)

 今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響により、役員会および総会は郵送審議となり、第1回研究会も中止となっておりました。
 8月28日(金)に2019年度 学の実化賞・研究奨励賞 表彰式および2020年度 第2回研究会をようやく開催する運びとなり、100周年記念会館ホール1・2という広い会場にて感染拡大予防に十分配慮した形式にて開催することができました。
 今回はコロナウイルス感染が心配される中、28名の方のご出席があり、久しぶりの開催に互いに話がはずみました。開会にあたり、西村会長ならびに先端科学技術推進機構長 棟安実治教授からご挨拶をいただきました。


2019年度 学の実化賞・研究奨励賞 表彰式

 表彰式では、2019年度各賞受賞者に対し、西村会長から表彰状・副賞が授与されました。受賞者におかれましては、今後ますますのご活躍とご発展をお祈りいたします。


学の実化賞
ファジィAIで人を育てる卓球ロボットの開発
総合情報学部 教授  林 勲 氏
研究奨励賞
Self-Organizing Localization with multiplexed topology for smart devices in indoor space
理工学研究科 環境都市工学専攻  川田 千尋 氏
研究奨励賞
Design of Glucose-responsive Microcapsules with Biomolecular Complex Crosslinks at W/O Interface
理工学研究科 化学生命工学専攻  松原 しおり 氏
研究奨励賞
可視光と温度に応答する二重刺激応答性ゲルの創製と細胞制御基材への応用
理工学研究科 化学生命工学専攻  沖原 正明 氏
研究奨励賞
可溶性分子ネットを用いた新規な温度応答性ゲル作製法の開発と物性評価
理工学研究科 化学生命工学専攻  瀬古 文佳 氏

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2020年度第2回研究会

 表彰式の終了後、第2回研究会として総合情報学部 教授 林 勲先生による受賞記念講演を開催しました。


2019年度「学の実化賞」受賞記念講演
演 題:「ファジィAIで人を育てる卓球ロボットの開発」  総合情報学部 教授 林 勲 氏

 林勲教授は脳知能情報学を専門とする人工知能研究の第一人者です。第2次AIブームでは、「ニューロ・ファジィ」を提案し、AI分野の研究で幾多の成果をあげてこられました。一方、卓球への造詣も深く関西大学卓球部の顧問を務めておられます。国際卓球連盟理事と共同研究を行い有名選手の知り合いも多くおられます。
 受賞対象の「卓球ロボット」は、当初オムロン株式会社の単独開発でしたが、AIと卓球の専門家である林勲教授のことを知った開発陣のお声がけで共同開発を行うことになったとのことです。協業の結果、AIと人との共存を課題とする現代社会で、人を育て人と共に成長する卓球ロボットを実現させた功績は「学の実化賞」にふさわしいものと言えましょう。
 記念講演では、①ファジィAI、②卓球、③卓球ロボット、④人を育てる、の項目でお話をされました。①AIの話題では、ファジィ理論やファジィ推論、制御の基本的なお話に続いて、培養神経細胞網とファジィ推論を組み合わせたロボットの制御、深層学習による卓球の上達度の判定、福原愛選手の公式ビデオを用いて卓球戦略を自動で分析する卓球戦略ボードのお話など、興味深い具体例をご紹介いただきました。②卓球の話題では、伊藤美誠選手と関大卓球部との合同練習によって部員達が世界レベルの選手の技術を目の当たりにでき、関西学生リーグ戦優勝の原動力の一つになったとのお話がありました。③また、オムロン社の卓球ロボットは、搭載したAIが相手の上手さを読み取って、相手に合わせたラリーを実現しています。これによって誰でも卓球を楽しみながら上達できます。現にオムロン社の研究員は卓球ロボットを担当してからめきめきと上達しているそうです。④最後に、人を育てるということに関して、卓球部では部員の技術が上なので、心から感心して部員を褒めると、部員が心から喜んでくれる。これが人を育てるポイントだと締めくくられました。
 コロナ対策下での表彰式のため従来と勝手が違い、表彰状も手渡しでなく受賞者自ら手に取るという今までにないものでしたが、講演は大変好評で、質問者からは、「個人的に目からうろこの内容が多くあった」、「これからのAIの展開に希望が持てる」といった声が聞かれました。


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2020年度 第4回研究会を開催 11月27日(金)

 第4回研究会は、千里山キャンパス内 学術フロンティア・コア 3階会議室での開催と、コロナ感染拡大のため初めての試みとしてオンライン(Zoom)での同時配信を行いました。会場での参加者19名、Zoomでの参加者 11名、併せて30名の方にご出席いただきました。
 今回のテーマは、「環境破壊への挑戦~関大発サンゴ礁再生技術の最先端」としました。
 関西大学でのサンゴ礁再生促進技術に関する研究は、社会安全学部の高橋智幸教授が、サンゴに微弱電流を流して成長を促進させ、サンゴ礁を効率よく再生させる取組からスタートしました。2016年からの3年間は先端科学技術推進機構の研究グループにより、また2019年からの2年間は本学教育高度化促進費によりプロジェクトを推進され、大きな成果を上げられています。
 講演会の後は、例年行っておりました忘年会に代わり、西村会長からの振興会活動のご紹介の後、会場・Zoom参加の皆様より一言ずつお言葉をいただき、盛会のうちに終えることができました。


講演1:「サンゴ礁再生促進技術に関するこれまでの活動とこれから」
            / 環境都市工学部 教授 鶴田 浩章 氏

 鶴田教授は、建設材料学・コンクリート工学分野がご専門であることから、サンゴを固着させるモルタル基盤の最適化をご担当されています。ご講演では、自然界におけるサンゴの役割、縮小要因、現在世界で行われているサンゴ礁再生技術、本学における研究活動について、沖縄県や和歌山県でのフィールド試験の結果も交えて詳しくご説明いただきました。
 サンゴは動物でありながら、植物プランクトンの褐虫藻との共生により栄養分を得ています。魚介類の生息地として、また二酸化炭素の貯蔵など自然界で大きな役割を果たしていますが、近年、海水温の上昇による白化現象、天敵による捕食などにより、死滅の危機にあります。サンゴ礁の再生は、電流を流してサンゴの生育を促進する方法が主流ですが、本学ではサンゴを固着させるモルタル台の上に電極となるチタンを設置し、潮流を利用することで発電する圧電デバイスをつなぎ、その上にサンゴを植え付ける方法を特徴としています。
 モルタル基盤を最適化するため、鶴田教授はシリカフュームやフライアッシュの添加によるサンゴの生育に適したpH調整や、炭素粒子添加により微弱電流を安定的に流す検討をされました。最近のご研究では、直接基盤に電流を流さずに、サンゴに電流の効果を及ぼす試みをされていますが、フィールド実験では自らサンゴを植樹するため、ダイビングのライセンスも取得されています。
 現在はコロナ禍の影響により、フィールド実験の現場に赴くことはできないのですが、現地の漁協や自治体の皆さんのご協力を得ながら、精力的に研究をされているとのことです。


講演2:「再生医療技術を利用したサンゴの再生」/ 化学生命工学部 教授 上田 正人 氏

 上田教授は金属材料がご専門で、骨とすみやかに一体化するインプラントの開発など、現在は主に再生医療のご研究をされています。脊椎動物の骨形成とサンゴの骨格形成のメカニズムが似通っていることに着目し、すっかりサンゴの研究の魅力に取りつかれているとのことです。
 講演では、サンゴ発生・成長過程、電流によるサンゴ成長促進のメカニズム、チタンの役割などについて、詳細なご説明を頂きました。
 サンゴ礁の再生は、その99%が断片移植による無性生殖ですが、生きたサンゴから断片を切り取り傷つけてしまうことから有性生殖が望まれています。
 上田先生は有性生殖を実現するため、サンゴの子供であるポリプ(イソギンチャクのような軟組織)の単離・培養に塩濃度を調整することで成功されました。再生医療に裏付けされた研究を基に、効率的な有性生殖によるサンゴ礁再生の実現に一歩近づかれています。
 これからの活動として、NPO法人や漁協・自治体との連携、サンゴ礁保全のための教育活動、アカデミックかつ単純寄付型のクラウドファンディングによる活動費の調達、さらには材料が持つ底力についても熱く語られました。クラウドファンディングによる資金調達は、コロナ禍の影響により先送りになっているとのことですが、西村会長からは、「今こそ、進めるべきでは!」との激励のお言葉がありました。
 サンゴ礁は自然環境改善に重要な役割を担っています。身近な材料や技術を用いたその再生への取組は、親しみやすく社会貢献度も高いことから、両先生のご講演に対して参加者から強い関心を示すコメントが多く寄せられました。 


科学技術振興会 会員交流会

 鶴田先生・上田先生のご講演後、忘年会に代わり、参加者の皆様より一言ずつお言葉をいただきました。まず、西村会長より振興会の活動についてお話をいただきました。会場で参加の会員、Zoomで参加の会員ともに言葉を交わしあい、大変有意義な時間となりました。

【会員の皆様へ/ 関西大学科学技術振興会 会長 西村 哲郎 】
 55周年を迎えた振興会は、新型コロナ感染症の拡大により多くのイベントを自粛しました。しかし、そんな中であっても、熱意ある研究にどんどん触れて新しい刺激をもらいながら、その新しい技術を糧にして、安易なところへ走ることなく、会員の皆様や先生方と共にチャレンジして、伝統を絶やさず頑張りたいと思います。
 この度、関西大学のホームページがリニューアルされました。社会連携部からのリンクからSDGsに役立つ研究テーマの検索や研究組織体制がわかり易くまとめられています。また、振興会のリンクでは、これまでの活動内容が一覧できるだけでなく、会員リストからは各会社のホームページを閲覧することができますので、是非お役立てください。






◆科学技術振興会では新規会員を募集しております。入会のご案内はこちらをご覧ください。




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