KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

「学の実化」講座
~講師 大坪文雄氏に聞く~

関大人

/パナソニックホールディングス株式会社 特別顧問
 学校法人関西大学理事 大坪文雄さん(関西大学大学院工学研究科修了)

私にとっての「学の実化」、それぞれの「学の実化」

―学生時代、「学の実化」にまつわるエピソードはありますか。

 工学研究科修士課程の頃、自分で一から設計図を描いて、実験に必要な測定装置を専門業者に発注したことがありました。装置は問題なく完成でき、図面に間違いはなかったのですが、ご指導いただいていた先生から、「コストがかかりすぎて、これでは企業では話にならない」と指摘されました。私の実験には高い精度が要求されたので、図面のあちこちに±0.1ミリ単位の細かい精度設定を入れた結果、加工コストが膨らんでしまったのです。大学では図面で合格点をもらえても、社会に出れば0点という話です。大学で学ぶ知識、それは社会で役立つ知識と一体化して初めて「生きる知識」になるものだと、当時私は理解しました。
 「学の実化」という言葉を関西大学の大学昇格100年を機に、改めて私も意識するようになりましたが、学生の頃は「学の実化」とは何かと考えることも、意識しながら学ぶこともありませんでした。しかし振り返ればまさに「学の実化」となる体験をしていた のだと感じています。



―卒業生にとって、「学の実化」はどんな存在だと考えていますか。

 「学の実化」は一つの理念、考え方であって、個人あるいは組織が経験し、感じ取るものだと思います。大学昇格100年など節目の時に振り返ることで、十分意義があるのではないでしょうか。
 私がビジネスの現場で最も意識していた言葉は、東京大学の藤本隆宏先生の「表の競争力と裏の競争力」です。製造業でいうと表の競争力は、売上高や利益率、ブランド力、環境への取り組みなど本社の経営。裏の競争力は、物的生産性や製造品質、生産リードタイムなど、日本の昔からの強みである生産現場のパフォーマンス。企業経営では、双方の競争力が表裏一体となって力を発揮する必要がありますが、これはまさに学理と社会の実際との一体を目指す「学の実化」と同じ原理だと思います。



―関西大学が「学の実化」を長く大切にしてきたことをどのように思われますか。

 大学であれ企業であれ、組織には学是や経営理念、行動指針など、組織を支える背骨となるものが必要です。組織が長く継続すれば、時代の流れに合わせて、社会情勢も技術も、そして価値観も変化していく。しかし、その時に起こる社会のさまざまな変化に右往左往してはいけません。たとえ時代や環境が変わっても、目指すべき方向を示してくれる指針、道しるべがあれば、進むべき道へしっかりと歩んでいける。そういった意味で、100年もの間学是を継承してきたことは誇るべきこと。逆に言えば、学是があったからこそ大学が存在してきたとも言えるのではないでしょうか。

20230724_hl_otsubo_2.png

「学の実化」を実践する講師の考動に学ぶ

―「学の実化」講座の全体的な印象をお聞かせください。

 すべての回に参加しましたが、講師の方々のお話には重みがあり、私自身改めて学ぶところが多々ありました。特に印象的だったのは、全5回の講座を通じて女性の参加者数、女性からの質問や発言が多かったこと。講師も2~4回目は女性の方で、今回の講座はある意味、日本における女性の活躍を反映したものになっていました。「学の実化」を実践する講師の体験的なお話から、自己の役割を確立することの重要性、個々の多様性を認める大切さを参加者は学ぶことができたのではないでしょうか。最近の言葉でいえば、DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を打ち出せたことは成果だったと思います。
 第4回講師の玉岡かおるさんが、奈良時代の女性天皇・孝謙天皇をはじめ女性の活躍を紹介する中でおっしゃった「人生を生きる学びをつかみ取った」という言葉が、「学の実化」をうまく表現されていると感じました。

「学の実化」による経験が人生の財産に

―大学に期待される役割、関西大学に期待されることはありますか。

 日本の今の豊かさ、この平和な社会を維持向上させるには、あらゆる人的資本・資源を融合し、生産性や効率性を高めていかなければならないでしょう。人材を育成する大学と、経済力を生み出す産業界は、相互に理解し合い、協力していく必要があります。 キーワードは"「学の実化」で日本復活"。産学の連携にあたって、学理と実際の融合を目指す「学の実化」の理念は、両者のシナジー効果を強力に発揮させるでしょう。
 そして国力の維持には、健全な中間層の存在が欠かせません。教育は国力の源。我が国を支える厚い中間層を育てることも、大学にとって必要な役割だと考えています。ただし、今に満足し、維持するだけの中間層では、やがて衰退していく。特に関西大学 には、現状を変革しようという気概にあふれた人材を輩出する大学であってほしいと願っています。
 個人的には、2025年の大阪・関西万博の成功と、それを契機とした大阪や関西地区の発展を期待しています。世界の国々や企業はどのような未来像を描き、社会課題を解決しようとしているのか。学生や教職員、卒業生もぜひ万博を体験し、次の100年に向けて取り組むべきことを見つけ出してほしい。そして世界的な課題解決のため、関西大学の学是「学の実化」がどう活用できるのかを示し、実践する活動をしてくれると期待しています。

―関大生、若者たちにメッセージをお願いします。

 若い人には、「内向きになるな、外に目を向けろ」と伝えたいですね。そのためにできるだけ多くの人と交流することを意識してほしい。我々が学生だった頃と違って、身近に外国人留学生もたくさんいます。異文化や異なる価値観を受け入れ、もし課題があれば、解決法を見出す努力を経験してほしい。大学時代の経験は「学の実化」を通して、貴重な人生の財産となります。目を、心を、外に向け、ぜひ人生を生きる学びをつかみ取ってください。

20230724_hl_otsubo_3.png

大坪 文雄 ─ おおつぼ ふみお
1945年9月大阪府生まれ。1969年関西大学工学部管理工学科卒業。1971年関西大学大学院工学研究科修士課程修了。同年松下電器産業株式会社入社。1987年11月オーディオ・ビ デオ本部新規事業開発室開発工場長。1989年1月シンガポール松下無線機器株式会社社長。1995年7月オーディオ事業部長。1998年6月取締役・AVC社副社長。2000年6月常務取締役。 2003年6月代表取締役専務・パナソニックAVCネットワークス社社長。2006年6月代表取締役社長。2012年6月代表取締役会長。2013年6月より現職。日本生命保険相互会社評議委員。