cc-library010005268[1].jpg政治学系の教員が現代政治論を受講しているみなさんに、お薦めしたい本として3冊ずつピックアップしました。政治の歴史や思想,政治行動,政策決定など政治学の広がりを感じてもらえるのではないかと思います.ほとんどが図書館に所蔵されています.ぜひ本を手に取ってみてください.


西洋政治史 津田 由美子先生

・上橋菜穂子『精霊の守り人』新潮文庫、2007年(を始めとする「守り人」シリーズ)

文化人類学者の知見が、人間と社会・国家について考えるヒントを与えてくれる物語。

・ジョージ・オーウェル(川端康雄訳)『動物農場』岩波書店、2009年

書かれた時代から状況が変わった現代でも、権力について考えさせられて他人(動物)事とは思えない小説。

・丸山眞男(著)杉田敦(編著)『丸山眞男セレクション』平凡社、2010年

吟味された日本語で書かれた、「政治」を巡る政治学者の考察を味わってほしい論文集。


政治機構論 森本 哲郎先生

・佐竹五六『体験的官僚論-55年体制を内側からみつめて』有斐閣、1998年

元水産庁長官による55年体制下の官僚に関する学術的かつ率直な分析。「ファクト・ファインディングの弱さ」などという項目もある。

・御厨貴編『園部逸夫オーラル・ヒストリー―タテ社会をヨコに生きて』法律文化社、2013年

元最高裁判事(行政法専攻の研究者出身)がその裁判官生活について生き生きと語る。「経済学の重要性」などという項目もある。

・奥武則『メディアは何を報道したか―本庄事件から犯罪報道まで』日本経済評論社、2011年

元毎日新聞論説委員による体験に裏打ちされた学術的メディア研究。《「悪いニュース」は「いいニュース」》という副題の章もある。

情報処理論 山本 慶介先生

・中山幹夫『社会的ゲームの理論入門』勁草書房 、2005年

鈴木光男先生のお弟子さんで大学の先輩の本。経済社会の数理的構造を勉強するのに好適

・ポール・ケネディ(鈴木主税訳)『大国の興亡』草思社、1988年

世界史を年代と事件の経緯でなく各国のダイナミックな動態として理解する助けとなる。

・小林 康夫、船曳 建夫 (編集)『知の技法』東京大学出版会、1994

東大の教養課程の教科書として編集され、教養のTipsとして発表当時話題となった。


行政学 廣川 嘉裕先生

・武藤博己『入札改革―談合社会を変える』岩波新書、2003年

少し古い本であるが、公共事業や公共サービスの問題と改革の方向性について分かりやすく論じている。

・小熊英二(編)『平成史【増補新版】』河出書房新社、2014年

平成以降の政治・経済・社会保障などの流れが分かる本。全てを読むのが難しければ、関心のあるテーマを選んで読んでみてもよい。

・砂原庸介『民主主義の条件』東洋経済新報社、2015年

選挙や政党などの、政治学で重要なテーマについてコンパクトに解説している。

                      

日本政治史 若月剛史先生

・加藤陽子『戦争の日本近現代史』講談社新書、2002年

国全体に多大な負担を強いる戦争を始めることを為政者が国民にどのような論理で説得しようとしたのか、近代日本の各戦争を素材にしながら分析している。歴史を考えるうえでの「問い」の重要さを教えてくれる。

・御厨貴編『増補新版 歴代首相物語』新書館、2013年

伊藤博文から安倍晋三までの全首相について、その人物像に鋭く迫っている。政治家のリーダーシップのあり方を考えるのに好適な1冊。

・上塚司編『高橋是清自伝(上・)』中公文庫、1976年

政治史研究にとって重要なのは対象とする時代の雰囲気を掴むことであるが、その際に政治家が残した自伝は大いに役立つ。そのなかでも、留学先のアメリカで「奴隷」に売られるなど波瀾万丈の半生を語っている本書は抜群に面白い。


政治過程論 坂本 治也先生

・早川誠『代表制という思想』風行社、2014年

現代の代表制民主主義を原理的に考えるうえで最適の一冊。民主主義って何だ?と思う貴方に。

駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする』ちくま文庫、2011年

「新しい公共」を体現する、ある社会的起業家の奮闘録。若者でも社会変革は可能であることを本書を通じて知って欲しい。

・伊藤公一朗『データ分析の力-因果関係迫る思考法』光文社新書、2017年

近年の社会科学では「実験」がブームとなっている。政治学でも実験手法を用いた先端的研究が多数出てきている。研究手法としての実験の基礎と応用を知る上で、本書は最良の一冊である。

政治哲学 寺島 俊穂先生

・プラトン(加来彰俊訳)『ゴルギアス』岩波文庫、1967年

人はことばによって真実を探究することができるが、ことばを操ることによって人をだますこともできる。ソクラテスは、3人の論客との対話をとおしてことばによるごまかしを暴いていく。正しい行為のあり方、正義についてスリリングな議論が展開する名著。

・マックス・ヴェーバー(脇圭平訳)『職業としての政治』岩波文庫、1980年

著者は、職業政治家の資質として「情熱」「責任感」「判断力」をあげているが、これは、市民活動家、職業人の倫理としても通用する議論である。政治家や市民が理想と現実との緊張のなかで生きていかねばならないことを示した必読書。

・丸山眞男『自己内対話―3冊のノートから』みすず書房、1998年

戦後日本を代表する政治学者が戦中から書きためていた未公刊のノート(覚え書)を死後、出版したもの。丸山の民主主義思想の根底を知るうえで必読の書。


外交史 池田 慎太郎先生

・宮城大蔵『増補 海洋国家日本の戦後史:アジア変貌の軌跡を読み解く』ちくま学芸文庫、2017年

戦後アジア変貌の背後に開発と経済成長という日本の「非政治」的な戦略があったと説く。

・光田剛編現代中国』ちくま新書、2017

巨大な隣国を多面的に理解する上で最適だが、少数民族や香港・マカオの章がないのは残念。

沖縄タイムス社編集局編『これってホント!? 誤解だらけの沖縄基地』高文研、2017年

沖縄問題をめぐる事実誤認やデマを取り上げ、データや史実によって反証しようとした本。


国際政治学 大津留(北川) 智恵子先生

最上敏樹『人道的介入―正義の武力行使はあるか』岩波新書、2001

命を守るための武力行使は許せるのか。真の人道的介入とは危機を未然に防ぐ政策だとの主張。

東野真『緒方貞子―難民支援の現場から』集英社新書、2003

難民を受け入れない日本を批判する元国連難民高等弁務官が、聴き取りの中でその経験を語る。

J.D.ヴァンス『ヒルビリー・エレジー-アメリカの繁栄から取り残された白人たち』光文社、2017年

アメリカ社会の隅に追いやられた白人労働者階級の心理に、トランプ現象を理解するための鍵があるとされる。


政治心理学 河村 厚先生

宮沢賢治『宮沢賢治全集(1)〜(8)』ちくま文

宮沢賢治には「全て」がある。そして「銀河鉄道の夜」「グスコーブドリの伝記」「ビジデリアン大祭」「ポラーノの広場」には、政治を学ぶに必要な全てがある。

スピノザ(畠中尚志訳)『エチカ--倫理学』岩波文庫、1951年

私には人生を賭けて登りつめ超えなければならない頂が3つ在る。スピノザ、フロイト、そして宮沢賢治だ。この本で、「別の仕方」に覚醒して欲しい。

小此木啓吾『フロイト』講談社学術文庫、1989年

幼少期より、批判するにしても経済学はマルクスに心理学はフロイトに、まずは沈潜しないとならないと植え付けられた事に感謝している。政治の謎は心の謎だと思う。


政策過程論 石橋 章市朗先生

G・アリソン(宮里政玄訳)『決定の本質--キューバ・ミサイル危機の分析』中央公論社、1977年

核戦争を引き起こしかけたキューバ危機をめぐる米ソの緊迫する決定のモデル分析。政策過程研究の古典、名作、面白い。新しい資料に基づく第二版もあります。

飯尾潤『日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ』中公新書、2007年

憲法が想定する政治と現実政治のズレを理論的にわかりやすく解き明かす良書。現代政治論1の続きにどうぞ。

V・フランクル(池田香代子訳)『夜と霧』みすず書房、2002年

ユダヤ人の精神分析医による自らの収容所体験の心理学的分析。冷静な文体がかえって戦争と生きる意味を問いかけます。もっと若いときに読んでいればと思う一冊。