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教員エッセイ

第31回小説の中にあらわれた簿記・会計

商学部 教授 水野 一郎(会計専修)

 2009年、日本経済新聞で連載されていた北方謙三の『望郷の道』が刊行された(上下2巻幻冬舎)。この小説は、近代日本製菓史に重要な足跡を残した新高製菓の創業者であり、北方謙三の曽祖父にあたる森平太郎氏をモデルにしたものである。

 小説の主人公である小添正太は、遠賀川の水運業を営む小添家の三男坊であるが、縁あって佐賀で三つの賭場を持つ藤家を継いで女親分となっているルイと結婚し、婿入りとなる。藤家に入った正太は、簿記による賭場の徹底した収支管理と若い衆の給金制度の導入などを軸にして近代化し、藤家を立て直していく。正太はまた貸し金の上限を低額に設定する新しい賭場を開設し、顧客層の拡大を図ったり、賭博業に向かない若い衆の雇用確保としてレストランも営業する。

 藤家の経営改革による隆盛は周辺の同業者の嫉妬を招き、そのトラブルが原因となって、正太は九州から所払いとなり、台湾にわたる。正太がここでも身を立てるきっかけは、彼は簿記ができるということであった。小説では彼がどこで簿記の知識を得たのかは書かれていないが、天性の几帳面さと計数による管理の重要性を認識し、勤務していたキャラメル工場を買収し、経営改革を進め、ライバル企業との競争を制覇しながら会社を成長させ、台湾では有力な企業として発展させていくのである。

 この小説は博徒の親分が、九州を追われ、その家業から離れ、台湾にて会社を興し、成功するというサクセスストーリーとしても読め、事業成功の重要な要素が簿記・会計の管理機能にあることが上手く描かれている。どのような組織でも簿記・会計は必要であり、その知識は個人にとっても身を立てるきっかけとなるものである。

『葦 №145号』より
2012年10月17日更新
※役職表記は、掲載当時のものです。

     

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商学部教授 水野 一郎

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