KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

めざすのは、人の可能性を広げるシステムづくり

研究

人の知識形成メカニズムを明らかにするとともに知的活動を支援するシステムの開発
/システム理工学部 電気電子情報工学科 知識情報システム研究室 小尻智子准教授

 パソコンなどの電子機器が並ぶ2DKほどの無機質なスペースでの「人間の知識形成メカニズム」研究が、甲子園で野球選手が「カーン」と外野の芝生に放つ鋭いヒットにつながるとすれば、研究と無縁のあなたも「あれっ」と思うかもしれません。まして研究が中高生の英単語や歴史の学び、大学生が就職活動で苦戦する面接、中高年の気にする生活習慣の見直しなどに及ぶとすれば、文系人間でも気になりませんか。

芸術やスポーツの技術向上の「コツ」を言語化し、学び・練習の質を高める

 「甲子園のヒット」は、「アンモクチ」という聞きなれない研究テーマに関係します。「暗黙知」。これはスポーツや芸術活動で、経験の積み重ねから生まれる「コツ」のことです。野球選手や工芸作家は、自分の体がどのように動いているかを、すべて言葉で説明できるほど明確に意識しているわけではありません。無意識のうちに動作をくりかえすことも多く、その中に本人独特のコツがひそんでいます。

 小尻准教授と研究室のメンバーはこのコツを、言葉として引き出します。バッテイングでいう「ひじを畳む」「素早くひじを抜く」などがそれです。こうしたコツを含む打撃フォームを人の骨格で図示し、初心者が自分のフォームとそれとの差に気づいたら一歩前進です。そのために「左ひじの位置が違うようです」などと、フォームの「相違点抽出機能」をもたせたシステムの開発で、初心者には気づきなどの効果があることが分かってきました。

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似たような意味の英単語を瞬時に使い分けたいその思いに応える英語学習支援システム

 受験生に英語学習は欠かせませんが、同じような意味の英単語を文脈によって使い分けるのは、けっこう難しいですね。例えば、「焼く」を意味する単語には、「肉を焼く」場合にはroast、grill、boil、「パンやお菓子を焼く」場合にはbakeを用います。これらの単語の使用方法の違いを理解するには、「焼く」の対象となるものを抽象的に理解する必要があります。そこで、この研究室では学習したい単語を用いた例文に出てくる他の英単語の共通点を見つけて整理できるシステムを構築することで、単語の対象の抽象的な理解を支援します。例えば、bakeを用いた例文にcakeやbreadがあり、これらの共通点を「粉もの」と整理したとします。すると、次に「たこ焼き」などの粉ものが主語で出てきた場合はbakeかなーと考えることができるようになるでしょう。このように、システムを用いることで、例文の丸暗記ではなく、今後に使える形で英単語を理解してもらうことが目的です。

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就職活動も安心!? 企業との共同研究で「ICT面接トレーニング」を開発

 小尻准教授と研究室のメンバーは2016年末、NTT西日本との共同トライアル「ICT面接トレーニング」を発表しました。これまでの研究を就職面接指導に生かしたものです。従来の面接練習は主に面接官役の指導員の知識・経験をもとに行われ、面接官の主観が影響していました。今回のトライアルでは、様々なセンサを用いて、面接を受ける側の脈拍数等のバイタル数値をはじめ、表情や目線、言動の癖を可視化・分析し、それらを客観的情報としてデータ化します。また、良かった特徴をチャームポイントとして示します。それらによって、指導する側にとっては説得力のあるアドバイスが出来ます。また、面接を受ける側にとっても自身で気づいていなかった良さを知ることにつながり、自信を持つことができます。

 このように小尻准教授の研究グループでは、コンピュータ・システムをとおして、人の考え方を変えたり、人の活動を手助けしたりすることを目指しています。

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