コンテンツ没入するVR(仮想現実)表現
~先駆的な映像表現に挑む~
研究
/総合情報学部 長谷 海平 准教授
映画をはじめとする視覚芸術作品の制作を通じて、学生に映像の魅力を伝えている総合情報学部の長谷准教授。新たな表現にも挑戦し、従来の映像表現とは異なる課題と、その壁を越えていく面白さを感じていると言う。現在進めている、誰も見たことのない映像表現への挑戦について聞いた。
長谷准教授は芸術系学部を卒業し、就職後、映画制作現場の課題に関心をもち大学院に進学。自身の経験から、「多様な専門家が集まる組織的な活動を通して自分の思いを表現し、外へ発信する映画制作は、自己成長につながる経験になると感じていました」と語る。現場での経験を裏付けるために、映画制作をテーマとして研究を始めた。
映画制作スキルの伝承は、従来では言葉に表せない「暗黙知」として受け継がれてきた。しかし、時代の変化に伴い映画の徒弟制度が崩れ、「形式知」いわば言葉による知識伝承の必要性が高まったという経緯がある。長谷准教授はこの変化への対応方法を研究することにより、高等教育で映画制作を学ぶことの有効性を明らかにした。
「経営学者のドラッカーは、現代において『知識は中心的な資源』とした上で、知識に対して知識を体系的に応用することによって、知識そのものの生産性を上げることができると指摘しています。映画制作はまさしく、知識に対して知識を体系的に応用することによって、価値、すなわち作品を生み出す場です。撮影・編集・録音・美術などの独立した知識が結集して価値の生産を行うわけで、映画制作を学ぶことは知識という資源の生産性を上げる方法を身に付けることにつながると考えています」。
現在は教員として、映画をはじめとする作品制作に取り組むゼミを担当。独立した専門性を結集させ、価値の生産に取り組めるような経験になるように指導していると言う。
「人と協力して価値を作り上げていく経験は、映画の道に進まなくても世の中で活躍する力となると考えています」。3年次から始まるわずか2年間のゼミ活動の中で、映像制作の技術だけでなく、自分の素直な関心事を作品として表現していく、つまりは外へ発信する学びによって、学生の成長の一助になればというのが長谷准教授の思いだ。
VR(仮想現実)表現は視覚表現の新たな可能性を広げる手段の1つだ。1960年代に登場したVRゴーグルは革新的な技術進化を遂げ、2016年頃からは家庭でも手に入る機器となった。映画は作品を外側から客観的に鑑賞するが、VR表現は観賞者がコンテンツ内に入り込む感覚を味わえるため、まるで現実にいるかのような体験を提供する。
「私自身も、作品の制作を通じてVR表現の研究に取り組んでいますが、従来の映像とは異なる難しさを感じています」と話す。VR表現は、観賞者の視線の誘導など、映画とは全く違うアプローチで行わなければならないからだ。「VR表現が現在の映画と同程度、娯楽的・感動的な面白さを生み出すには、技術の進化を含め、もう少し時間が必要かもしれません」。長谷准教授は、VRならではの表現的な可能性を探りながら、単なる視覚的な新しさだけでなく、人々の感情に訴えかけるメッセージ性のある作品の制作に挑戦している。