Russian ロシア語
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ロシアの言葉・文学・文化を今、あるいはこれから学ぶ皆さんへ(日本ロシア文学会からのメッセージ)
■「駅前」でも学べない隣国の言葉■
さっそくで恐縮だが、関西大学では、なんと国連の公用語のひとつであるロシア語を学ぶことができる。さすが国際性をうたう外国語教育の関大である。ロシア語が学べる大学は西日本ではほんとうに珍しい。しかも1957年開設なのだから、半世紀以上の歴史をもつ屈指の古株なのである。関関同立では同志社か、ここ関大でしかロシア語は学べない。君もこのチャンスを見逃す手はないだろう。
では、関大ならではのロシア語は、君たちにどんな満足感を与えてくれるだろう。外国語を学ぶ意味を少し考えてから本題に入ろう。
1.複数の言語を学ぶ理由
英語以外の外国語は、自分たちの専門科目とは無関係な別個の科目で、専門に直接関係ないと思っているひとがけっこう多い。ほんとうにそうなのか。脳神経外科医の植村研一先生はこうおっしゃる。
おわかりのように、外国語学習は、体系をもつ学問すべてに通じる体系化能力を養うばかりか、洞察力という、脳の普遍的な力を活性化するとても重要な「運動」なのである。それなら英語を一生懸命勉強すればいい─もしかしたら君もそう考えたひとりかもしれない。でもそれは、「大脳機能を無視した極論」だという。大脳の神経回路は、転用されないと鍛えられないからだ。先生曰く、「多芸に秀でた人はますます多くを学び、なかなかボケない」。それに、英語以外の言語を学ぶことで世界がぐんと深くなる。なるほど英語で用がたりることがあるかもしれない。けれども個別の言語を知っていれば、相手は何倍もリアルに君のものになる。この「リアルに」というのが重要だ。
たとえばロシア語をやれば、今まで地図で眺めるだけだったモスクワ─サハリン間の広大な大地が、君の知覚や意力にほんとうに存在するようになる。シベリア鉄道にゆられる君は、英語=世界共通語という認識がまったく通用しないことをたちまち思い知ることになるだろう。また、ウォッカやピクルスを笑顔でふるまってくれるロシア風の「挨拶」にびっくりするに違いない。そして、モスクワからはるか東の日本をながめたとき、君の中の世界地図は一変するだろう。そうした体験は、ただ君の見聞を広げてくれるばかりではない。必ずや君自身のものの見方に強い影響を及ぼすことだろう。
外国語は、様々なコミュニケーションをとおして自分を知り、創ってゆく、人生という仕事のための重要なツールのひとつだ。そしてその最大の効用は、異質な発想や表現と出会うことによって、「疑う」という文化理解の原点にぼくらを投げこみ、固定観念や、既製の価値観からぼくたち自身をすくいあげてくれることにある。そしてこのことは、あまりにぼくらの日常に馴染んでしまった英語よりも、英語以外の、日本語とは異なる体系の外国語を学ぶことであらためて理解されることが多い。
さて本題に入ろう。ロシア語とロシアのパワー、そして授業について手短に紹介してゆこう。求めればどんな満足感を与えてくれるのか、その一端がわかると思う。
2.高まる需要
政府が「政経不可分」の原則と訣別し、「信頼」「相互利益」「長期展望」の三原則を柱とする対ロシア外交を打ち出したことで、日ロ関係は大きく羽ばたきはじめた。ところがである。とにかくロシア語を使える人材が不足している。国内のビジネス環境も様変わりし、世銀IFCのビジネス難易度ランキングでは51位、BRICsの中で中国を抜いてビジネスのしやすい国にランクされている(Doing Business in 2016)。トヨタ、松下、東芝、三菱電機など、大手製造業部門に続き、多様な企業が資源エネルギー開発、発電機・エンジンの現地生産、木材加工さらに消費財分野でも、対ロビジネスに参入している。その数は400社を超え、複雑な国際情勢にもかかわらず日ロ間の貿易総額は340億ドルに達した(2015年)。とくに「メーカーや商社で、社員がロシアやブラジル、アジア諸国など新興国の言語を習得するのを後押しする動きが目立つ」(「英語の次は新興国語」日本経済新聞、2011年11月7日)。外務省、経済産業省及び日露貿易投資促進機構も日本企業のロシア進出を全面的に支援、日露ガスパイプラインは2020年の供給を目指している。
こうした状況はロシア語を使用する中央アジア諸国も同じだ。ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンは、ロシアに負けないほど親日度が高く、日本に対する好感度は80%近い。日本ではあまり知られていないが、日本と中央アジアの間には密接なつながりがある。タジキスタンの内戦終結に尽力し殉職した、秋野豊氏の功績。シベリア抑留者が建設に携わった、ウズベキスタンのナヴォイ劇場。建築家・黒川紀章氏の設計に基づいて発展を続ける、カザフスタンの首都アスタナ等々。2015年の安倍首相の中央アジア5か国歴訪によって今後、政治、経済、技術、文化、学術など、あらゆる側面で交流が期待される。
またロシア語は、国際宇宙ステーションでも、英語とともに公用語に位置づけられている近未来の言語である。宇宙ビジネスの時代はすでに始まっている。君も遅れをとってはいけない。経済協力、技術協力、文化交流、宇宙開発の幅広い分野でロシア語の人材が求められているのである。そして関大ではロシア語が学べるのだ。
3.ロシア・パワーとその魅力
<ロシア>と聞いて君の脳裏に去来する名前は、ザギトワ、メドヴェージェワ、プーチン、あるいはチェブラーシカだろうか。それともドストエフスキー、チャイコフスキーといった19世紀の天才たちの名前だろうか。だが、それだけではない。20世紀初頭にはエイゼンシテイン(映画)、ロトチェンコ(写真)、ニジンスキー(バレエ)、ショスタコーヴィチ(音楽)、シャガール(絵画)、ヴェスニン兄弟(建築)、メイエルホリド(演劇)、パステルナーク(詩)、ブルガーコフ(小説)、シクロフスキー(フォルマリズム)等々、舌を噛みそうな名前の巨星たちが、「時空の知覚様式をめぐる20世紀的革命の、まさしくトップランナー」(中沢新一『東方的』)として続々と登場し、世界の芸術文化の礎を築いたのだ。その巨大な層の厚みは、たとえばロシア・ピアノ音楽にみられる揺るぎない伝統、たとえばリュビーモフ、ペルト、シニトケといった個性的な芸術家たちの多様性、たとえば文化記号論で世界を震憾させた学者たち─プロップ、ロトマン、そしてバフチンらの独創性によって確認できるだろう。
■ ヨーロッパ+アジア+スラヴ+ユーラシア ■
こうしたパワフルな異才は、ロシアの多民族・多文化共生空間からうまれでる。スラヴの大地に、ノルマンの文化が入り、正統なヨーロッパ精神が東ローマからもちこまれた。中世はアジアの騎馬民族に支配され、近代は女帝エカチェリーナに代表されるドイツ系の君主たちによってイタリア、イギリス、フランス風に整備された。ロシア語が「スペイン語の華麗さ、フランス語の醱剌さ、ドイツ語の力強さ、イタリア語の優美さ」を合わせもつといわれるゆえんである。様々な人種と文化が混淆する巨大な空間ロシアは、ヨーロッパであり、アジアであり、スラヴであり、ユーラシアであって、そのどれでもないのだ。
こんなロシアの、底知れぬ魅力にとりつかれた先輩がロシアとの出会いをこう話してくれた。
ロシア語が学べるというので関大法学部に入学した仲井君は「ロシア連邦『消費者保護法』について」を提出し大学院を修了。修士論文に添付したロシアの「消費者保護法」は本邦初訳!教養ロシア語8単位が立住に専門の役に立っている。ほかにも経済学や国際法、史学、国文学、教育学、社会学、情報等、ロシアな先輩たちはたくさんいる。
たしかに今、ロシア語の人材には経済・社会・政治面で使える、実用的能力が求められている。だが、一国の真価が芸術文化にあらわれることは、シンクロナイズド・スイミングやフィギュア・スケートなどのスポーツ文化をみればわかるだろう。だから、バレエや演劇など芸術に関心のある諸君には迷わずロシア語をすすめたい。文学に関心のある君ならバフチンの名前は知っておくべきだろうし、近代日本の文学、いや、大江健三郎、村上春樹、島田雅彦だってロシア文学抜きには語れない。映画では、タルコフスキーやソクーロフの深い仕事が日本にも根をおろしつつあるが、本物の映画好きならエイゼンシテインの偉大さにやがて気づく日が来るだろう。また、ユーリー・ノルシティン知らずしてアニメーションは語れない。文学や文化ばかりではなかった。地理や歴史に関心がある君だって、ロシアはまだまだ未開のテリトリーだし、教育学・心理学の歴史も厚く、ヴィゴツキーは近年とみに注目されている。このように、外国語という《他者》を通して、自分をもっと知りたい、オリジナルな人生を創ってゆきたい、と君が思ったとき、ロシアにはあらゆる切り口が充分用意されている。おまけに今後どんな天才があらわれるかわからない、それがロシアなのだ。
4.どんなことば?
現在も2億人近い話し手をもつロシア語は、見慣れない文字の形がはじめはちょっととっつきにくい印象を与えるかもしれない。でも、五月晴の連休明けには、暗号のような「キリール文字日記」がスラスラ書けるようになる。うそではない。ということは音読だっていけるのだ。優越感のあまり、トルストイの『戦争と平和』を意味もわからずに朗読してみせる先輩もあとをたたない。それほど発音は簡単だ。そして、美しい。何といってもラフマニノフやグリンカのロシア語なのである。一音一文字対応のすばらしく経済的なロシア語は、日本語に似て開音節が多いので聞き取りもやさしく感じられるだろう。
「天使の囁き」ともいわれる美しい発音の練習のあと、名詞の変化でやや足取りが鈍くなる。しかし、規則を尊ぶその素朴で素直な性格がとっても好きになるだろう。整然とした変化はまるで行進曲のようである。そして行進さながら、なだらかな名詞の丘をのぼってゆくと見えてくる。ぼんやりゴールが見えてくる。これもうそではない。ゴール間近の動詞がまたおもしろい。たとえば「歩く」という運動は、ペアをなす動詞が状況によって使い分けられる。「歩いて大学にいくところだ(иду)/歩いて通学している(хожу)」といった具合に。スラヴ系の言語全般の特徴だが、およそすべての動詞がそれぞれパートナーをもち、お互いに助け合い、豊かな表現力を発揮しているのである。動詞が終われば、あの巨星たちのワンダーランドの入口はもうすぐそこだ。それから、ロシア語をやればポーランド語やチェコ語などのスラヴ諸語が身近になることもつけ加えておこう。スラヴ系の言葉は親縁性が高いことでも知られている。またこれは、意外と知られていないことだが、ヨーロッパ最大の話者数をもつ言語はロシア語で、他のスラブ諸語(ウクライナ語、ブルガリア語など)も含めるとスラブ系言語の話者数は二億二千万人にのぼるといわれる。
易しい言語などないし、日本語を含めたすべての言語同様、ロシア語にも特有の「クセ」がある。でも、チャイコフスキーの音楽を聴いてわかるように、理解できない「クセ」ではない。理解すればたちまち仲良くなれる、なんだか恋人にも似た生きものなのだ。
キリール文字で絵文字コンクール
\(^Д^)/ | 歓喜の表現。使用文字はおなじみのд(デー)です。 |
---|---|
\(^3^)б | 「グー」。文字はз(ゼー)とб(ベー)を使用。 |
С(б‸б)Э | チェブラーシカ1,с(エス)б(ベー)э(エー)を使用。 |
С(ёᴗё)Э | チェブラーシカ2,ё(イョー)がチャーミングです。 |
5.授業のしくみと特色──検定にもシフトした体験導入型の授業
ロシア語の授業のしくみはとても明快だ。コンセプトは「使えるスキルの修得+正確な言語感覚の養成」。すべての学部で、日本人とロシア人のペアが二人三脚(リレー方式)で息のあった授業を進めている。教科書は関大専用のオリジナル。他では使えない。検定3級にも手が届くよう、学内コンクール(「プーシキン・リハーサル」「ヨールカ」)で音声面を補強している。
- 関西ロシア語コンクール:
- 2013年4名出場(総領事館賞、特別賞)。2014年2名出場(初級で3位)。2015年6名出場(初級で2位、3位のほか、中級で2位)。2016年12名出場(初級で優勝・特別賞・総領事館賞)。2017年9名出場(初級で2位・特別賞2名・総領事館賞。中級で特別賞)。2018年9名出場(初級で2位・3位・特別賞・総領事館賞。中級で総領事館賞)。2019年3名出場(初級で特別賞)。2020年4名出場(初級優勝)。2021年6名出場(中級で2位)。2023年1名出場(初級で2位)。
法・文・経済・商・社・システム理工・環境都市工・化学生命工学部 | 「オリジナル教科書+課外企画+チャレンジ科目」の三本柱で検定4級の語学力とロシア文化の知識を身につけてもらう。秋学期で検定4級に合格可能な力を養う(UNIT 4)。 |
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総合情報学部 | 第2外国語として、1年次にⅠa, b、2年次にⅡa, bを履修する。3年次には選択科目として、Ⅲa, bを受講できる。 |
社会安全学部・人間健康学部 | 千里山キャンパスで受講可。 |
外国語学部 | プラスワンロシア語Ⅰ~Ⅳまで用意されている。2017年度からクロス留学がスタートした。 |
どの学部もロシア人と日本人のペア授業を基本とし、元気な教師たちが懇切丁寧な解説と説明をモットーに、なごやかに授業を進めている。2年もやれば、われわれ教師にたいする恨みも感謝も薄れ、ひとり辞書片手に自分のロシアと<対話>しているにちがいない。
もうひとつ、「正確な言語感覚の養成」のために力を入れているのが「体験」の導入。ロシア語という「恋人」をもっとよく知るために、写真にあるような様々な課外企画を用意している。
Привет! Познакомьтесь с русским языком.
年間課外企画
春
夏
秋
冬
6.先輩からのメッセージ─とにかく楽しい
7.辞書
- 博友社『ロシア語辞典』(頻度辞典に基づき中級まで使える)
- プログレッシブロシア語辞典(辞書アプリ)
8.留学関連情報
[ロシア語圏留学トークイベント]
「留学トーク」では、短期・長期など様々な留学体験談が紹介される。ハバロフスク太平洋国立大学(関西大学国際部夏季語学セミナー)、アストラハン国立大学(夏季ロシア語研修)、キルギス文化体験プログラム(関西大学国際部海外体験プログラム)、モスクワ国立プーシキン記念ロシア語大学(長期留学)など毎年盛りだくさん。毎回フロアから「楽しかったのが伝わってきた」、「自分も行ってみたい」という声が寄せられる。
[協定校]
ハバロフスク太平洋国立大学 (基本協定、学生交換協定締結) |
2015年より関西大学国際部夏季語学セミナー開始。2017年度は7名が参加。 落ち着いた雰囲気の街で、ロシア国内でもレベルの高さに定評あるロシア語教員陣のもと、じっくりロシア語を学べる。課外活動も多数用意されており、現地の学生との交流も盛ん。2019年度より春季に実施。 |
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アストラハン国立大学 (基本協定、学生交換協定締結) |
ロシア南部のカスピ海沿岸地域最大の教育機関の一つとして広く認知されている総合大学。同大学が提供するカスピ・サマースクールには、関西大学からもすでに3名の参加実績がある。 |
キルギス中央アジア・アメリカ大学 (基本協定、学生交換協定締結) |
中央アジア地域でもトップレベルの大学。授業の90%は英語で行われているため、ロシア語と英語の両方を鍛えることができる。夏季休暇中は、アメリカの大学生との合同研修や文化体験プログラムも提供されている。 外国語学部生は、SAプログラム(クロス留学)で留学可能。 |
その他の協定校 | ウリヤノフスク国立大学(ロシア)、タシケ ント金融大学(ウズベキスタン) |