Korean 朝鮮語

〇なぜ朝鮮語を学ぶのか?

 21世紀に入ってすぐのころに起こったいわゆる「韓流」が日本にも完全に浸透した現在、韓国の音楽やドラマは新入生のみなさんを含む多くの日本人にとって一般的なものになりました。その結果、韓国音楽(K-pop)の歌詞の内容が知りたくて、また字幕で見ていた韓国ドラマを字幕なしでも見られるようになりたくて、韓国・朝鮮語(以下、本学の科目名称に合わせ「朝鮮語」と表記)を学ぼうと思い立つ人は少なくありません。日本の漫画やアニメをきっかけに日本語を学ぶ外国の人たちがいるように、自分が好きで関心あることを知りたいと思う、この動機自体は至極健全なものです。
 みなさんの中にはまた、こうした韓国への憧れから、将来、朝鮮語を使った仕事に就きたいと考えている人もいることでしょう。日本から韓国へ旅行に行く人が大勢いるように、韓国から日本へ旅行に来る人も大勢います。それに、韓国は(あまり知られていないかもしれませんが)中国やアメリカほどとまではゆかなくとも、日本の主たる貿易相手国です(
外務省HPなどを見てください)。なので、朝鮮語を学んでおくと、将来、観光や貿易といった業界に就職する場合、少しは役に立つかもしれません。
 ですが、朝鮮語を学ぶのは、果たしてこのようなサブカルチャーや就職のためだけでしょうか? 『ハングルへの旅』(1986)の著者としても有名な詩人の茨城のり子(1926-2006)さんは、「隣国語の森」(詩集『寸志』(1982)所収)の詩の中で次のように書いています。

(前略)
啄木の明治四十三年の歌
日本語がかつて蹴ちらそうとした隣国語
한글(ハングル)
消そうとして決して消し去れなかった한글(ハングル)
용서하십시오(ヨンソハシプシオ) ゆるして下さい
汗水たらたら今度はこちらが習得する番です
いかなる国の言語にも遂に組み伏せられなかった
(つよ)いアルタイ語系の一つの精髄へ――
少しでも近づきたいと
あらゆる努力を払い
その美しい言語の森へと入ってゆきます
(後略)

 もう半世紀近く前に書かれた詩で、今とは時代も違います。ですが、この詩は日本人にとって朝鮮語の学習が単なるコミュニケーションツールの習得ではないことを教えてくれます。韓国は日本の隣国です。韓国は欧米やアジア・アフリカ、世界の多くの国々と比べ、言語、社会、文化、思想、さまざまな面で日本と似ている部分の多い国です(もちろんその逆に似ていないところも多くありますが)。一方で、地理的な近さゆえ、相互に関わりの深かった歴史は、その認識において食い違いも生じ、お互いの国へのイメージは時の政治によって一喜一憂します。ですが、韓国は日本からもっとも近い隣国です。今後もお互い(嫌でも)うまく付き合ってゆかなければなりませんし、本来両国は力を合わせてゆくべき関係にあるはずです。日本人は韓国のことをステレオタイプなイメージに留まらず、今より多角的により深く理解しなければなりません。その第一歩がお互いの言語の習得なのです。

〇朝鮮語とはどんな言語なのか?

 朝鮮語は日本語と似ているとしばしば言われます。英語のほか、本学で学べるいくつかの初習外国語と比べても、語順や単語(特に漢字語)、テニヲハ(助詞や語尾)などの文法は、歴史的に影響を与え合ってきたこともあり、確かにもっとも日本語に似ています。ですが、似ているから学びやすい(=「楽勝!」)と思っている人がいるとしたら、それは大きな間違いです。日本人にとって朝鮮語は相対的に学びやすい言語とは言えるでしょうが、朝鮮語も外国語ですから、何から何まで日本語と似ているわけではありません。当然、似ていないところ、習得が困難なところもたくさんあります。
 例えば、朝鮮語の文字と発音は日本語と随分違います。朝鮮語の文字は「ハングル」と呼ばれます。これまでどこかでこの文字を見たことのある人が今や圧倒的大多数だと思いますが、例えば、こんな感じです。

 한국어는 오랫동안 중국의 한자를 빌어다가 표기해 왔는데 많은 백성들은 그 한자를 읽지 못하거나 제대로 쓰지 못하였다. 그러한 모습을 불쌍하게 여긴 세종대왕은 백성들이 쉽고 빠르게 배울 수 있는 글자를 새로 만들었다. 그 글자가 바로 현재 한국에서 사용되는 한글이다.

ハングルを作った「世宗」像(ソウル市)
ハングルを作った「世宗」像
(ソウル市)

 どうでしょうか? みなさんが英語を学びはじめたとき、まずはアルファベットから始まったように、朝鮮語を学ぶときは、まずこのハングルを一から覚えてもらわないといけません。ハングルは難しい記号に見えるかもしれません。ただ、今はまだ全くの記号にしか見えないこの文字、実はとても合理的にできています。合理的にとは、覚えやすいようにできているという意味です。ハングルは15世紀に時の朝鮮国王・世宗(セジョン)によって創製、公布されました。その間、専ら漢字を用いて言語生活を送っていた朝鮮において、世宗は、文字が読めない、うまく書けない民を憐れみ、朝鮮語独自のだれでも覚えられる簡単な文字を作ったわけです。ハングルの合理性については授業で学ぶことにして、普段の日常生活で難しい漢字やかなを自由自在に使いこなしているはずのみなさんに、このようにすぐ覚えられるよう作られたハングルを覚えられないはずがありません。ちなみに、ハングル創製のいきさつについては、随分前になりますが、2011年に韓国SBSで放送されたドラマ「뿌리 깊은 나무(根の深い木)」(日本では翌2012年放送)で紹介されています。ドラマなのでかなり脚色されていて全ての内容を史実として鵜呑みにはできませんが、興味がある人は一度見てみるのもよいでしょう。
 朝鮮語も外国語なので習得に際して当然のことながら難しく感じられるところもありますが、日本語との違いを楽しむくらいの余裕を持って、ぜひチャレンジしてほしいと思います。

〇授業カリキュラム

(1) 法・文・経済・商・社会・政策創造・システム理工・環境都市工・化学生命工学部

 朝鮮語Ⅰa・Ⅰb、Ⅱa・Ⅱb(1年次配当)では文字と発音の学習を終えたあと、基本的な文型や文法事項を学びます。そうしているうちに、朝鮮語のおおよその輪郭が見えてくることでしょう。朝鮮語は日本語と似た構造をなしていますので、文字の読み書きに慣れ、基本的な文型や文法事項がわかってくると、意外と早い時期から簡単な文章の読み書きや、簡単な日常会話ができるようになります。
 朝鮮語Ⅲa・Ⅲb、Ⅳa・Ⅳb(2年次配当)では、日常会話能力の向上に努め、さまざまなタイプの文章が自力で読めるような学習を行います。なお、朝鮮語Ⅲa・Ⅲb、Ⅳa・Ⅳbにはコミュニケーションクラスも開講されています。
 朝鮮語Ⅴa・Ⅴb、Ⅵa・Ⅵbは、子供の成長に喩えるならば、しっかりと一人歩きを始める段階です。込み入った内容の対話を行う能力や、本格的な文章読解能力を養います。

(2) 外国語学部

 プラスワン外国語(朝鮮語)Ⅰa・Ⅰb、Ⅱa・Ⅱb(1年次配当)では、まず文字と発音の習得に多くの時間を割きます。その後、基礎的な文法事項・構文・語彙の習得を進める中で、朝鮮語に親しみを抱き、朝鮮語という言語の大まかな輪郭がイメージできる段階まで授業を進めます。
 プラスワン外国語(朝鮮語)Ⅲa・Ⅲb、Ⅳa・Ⅳb(3年次配当)では、1年次に習得した朝鮮語の基礎的能力をベースに、実用会話を中心とした学習を行います。読み書き能力の向上を図るとともに、平易な日常会話が可能な口頭運用能力の養成を図ります。

(3) 総合情報学部

 朝鮮語Ⅰa・Ⅰb(1年次配当)では、文字と発音、ごく基本的な文型や文法事項を学びます。
 朝鮮語Ⅱa・Ⅱb(2年次配当)では、朝鮮語の基礎能力を固める文型や文法事項を学びます。
 朝鮮語Ⅲa・Ⅲb(3年次配当)では、それまでに習得した朝鮮語の基礎能力をもとに、より高度な文型や文法事項の学習を進めると共に、初歩的な日常会話能力を身につけられるようにします。

(4) 人間健康学部・社会安全学部

 朝鮮語Ⅰa・Ⅰb、Ⅱa・Ⅱbは文字と発音の学習を終えたあと、基本的な文型や文法事項を学びます。授業は千里山キャンパスで行われます。

〇留学のすすめ

 日本人にとって韓国旅行は身近な時代になりました。ただ、韓国へ行ったことがあるみなさんであっても、その旅の目的地がソウルや釜山にとどまっている人は多いように思います。これは韓国の人たちが日本へ観光に来て、東京や大阪にだけ行くようなものです。日本の観光地はもちろん東京と大阪に限りません。このことを分かっている韓国の人たちは、北は北海道、南は九州・沖縄まで日本全国津々浦々を訪れます。逆に、韓国の地方都市にまで訪れる日本人観光客がいったいどれほどいるでしょう? また訪韓の目的もおいしい食べ物やショッピング、K-pop好きならばコンサートだったりするかもしれませんが、歴史的な遺跡や文化遺産、博物館の見学などにまで関心をもっている人はまだまだ少ないように感じます。

朝鮮時代の伝統村「楽安邑城」(全羅南道順天市)
朝鮮時代の伝統村「楽安邑城」
(全羅南道順天市)
朝鮮時代の儒教最高教育機関「成均館」(ソウル市)
朝鮮時代の儒教最高教育機関「成均館」
(ソウル市)

 韓国は日本の隣国です。関西空港からソウルまではわずか1時間半ほど、航空チケットもヨーロッパやアメリカに比べ、圧倒的に安いはずです。せっかく朝鮮語を学んだのであれば、旅行であっても一度は韓国(のできればいろいろな都市)を訪れてみてほしいと思いますが、比較的時間に余裕のある大学生ならば、在学中に韓国留学をおすすめします。3泊4日程度の観光旅行では訪ねにくい場所や体験するのが難しいことであっても、ある程度長期の留学であればできること、感じられることもあるでしょう。留学生活を通じて韓国社会の空気にじかに触れることもできるでしょうし、外国語を駆使できるまで習得すれば、長い人生をより豊かに過せるに違いありません。
 本学からは、本学と学生交換協定を結んでいる下記の14大学に、交換留学生として留学することができます。

【学生交換協定校】

交換協定校の一つ「韓国外国語大学」
交換協定校の一つ
「韓国外国語大学」

〔以上、釜山市所在〕

〔以上、大邱市所在〕

〔晋州市〕

〔大田市〕

 留学期間は2学期(1年間)、もしくは1学期(半年間)です。基本的に、留学先大学では朝鮮語で行なわれる学部開設授業を受講し、朝鮮語の授業も並行して受けることができます。この場合、学内選考試験の外国語科目は朝鮮語です。また、上記の大学の中には、英語で行なわれる学部授業だけを履修できるところもあります。後者の場合、学内選考試験科目は英語になります。いずれも単位認定など教学上の措置が講じられますので、留年することなく卒業することができます。留学の詳細については、本学国際部に早めに問い合わせてください。

〇学習参考書

 まずは教科書の内容を十二分に理解することから始めましょう。しかしながら、外国語学習にとっていちばん大切なのは単語(語彙)の習得です。少しでも単語を多く覚えておいて損をすることはありません。最近は外国語を日本語に翻訳してくれるいろいろなアプリもありますし、朝鮮語の場合、韓国の大手ポータルサイトNAVER日本語辞書も備わっているので、分からない単語が出てきたときはネット上で調べれば事足りるかもしれません。ですが、本気で外国語を身につけようと思ったら、一冊くらいは辞書の購入をおすすめします。現在もっとも良質で上級レベルまでもカバーでき、手に入れやすい朝鮮語の辞書は、中型の『小学館 韓日辞典』(油谷幸利・門脇誠一・松尾勇・高島淑郎編、2018)です。ただこの辞書はやや高価です。初中級レベルの学習者でしたら、同じ小学館から出ているこの辞書の小型版『ポケット プログレッシブ 韓日・日韓辞典』(第2版、2013)がよいでしょう。また価格的にいちばん手に入れやすい小型辞書としては、白水社から出ている『パスポート朝鮮語小辞典』(熊谷明泰編、2005)もあります。いずれにせよ、紙媒体の辞書を一冊は手元に置き、それを単語帳代わりにボロボロになるくらい使い込めば、語彙力は確実に向上するはずです。
 最近、「K文学(K-book)」という名のもとに、韓国文学(小説、詩、エッセイなど)の日本語訳が注目を集めているのをご存じでしょうか? 韓国にまつわることや韓国人の思考を理解するためには、言語の習得だけでなく、韓国の社会、文化、歴史、宗教、思想など、幅広い知識の習得も欠かせません。韓流の映画やドラマを見ることでも、ある程度はこれらを理解できるとも思いますが、文学がここに仲間入りしてきたわけです。日本における韓国文学(の日本語訳)の火付け役になったのは「CUON(クオン)」という出版社です。そのCUONからは「韓国文学ショートショート きむふなセレクション」なるシリーズ本が出ています。韓国で著名な小説家の短編小説を訳したこのシリーズはそれぞれ一冊がそれほど分量もなく、しかも原文と日本語訳を読み比べられる仕様になっているので、朝鮮語の学習にも活用できます。最近はCUON以外にも多くの出版社から数多くの韓国文学作品(の日本語訳)が刊行されていますので、気になる本がないか調べてみて、韓国を知るために、まずは一冊手に取って読んでみてはいかがでしょうか?

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