働く関大人 関大で夢中になった「音」が仕事に エフェクターづくりで切り拓く未来 エフェクターブランド/サウンドデザイナー
Limetone Audio
今西いまにし 勇仁ゆうじんさん 

 ギタリストの足元に並ぶ、箱型の機材「エフェクター」。楽器の音色を変えたり、響きを加えたりと、演奏者が思い描くサウンドをつくるために欠かせない機材です。
 今西さんは、国産ハンドメイドエフェクターブランド「Limetone Audio(ライムトーン オーディオ)」の創設者。製品の設計・開発を手がける一方、個人のYouTubeチャンネル「今西 勇仁」では、楽器や機材のノウハウを幅広く発信しています。学生時代から趣味で続けていた機材づくりが仕事になったきっかけは、友人の一言でした。関西大学の軽音楽部で培った探究心や仲間との出会い、そして現在のものづくりにどのように生かされているのか。その原点について伺いました。

理想の音をかたちにするエフェクターの世界

—まず、エフェクターとはどのようなものなのでしょうか。

 簡単にいうと楽器の音を変化させる機材です。例えば、エレキギターの音をロックらしい歪んだ音にしたり、エコーのような響きを加えたりすることができます。エレキベースや、アコースティックギター、キーボードなど、さまざまな楽器で使われています。
 一台で多くの種類の音を出せる「マルチエフェクタ一」もありますが、Limetone Audioでつくっているのは、ひとつの機能や音に特化した「コンパクトエフェクター」。ビルダーと呼ばれる職人が一台一台手作業でくみ上げる、ハンドメイドエフェクターです。

261028_kt_work01.jpg

—今西さんは製品の設計だけでなく、YouTubeも発信もされていますね。

 2020年にYouTubeを始めました。会社の公式チャンネルではなく、個人で運営しているチャンネルです。自社製品について話すこともありますが、主にブランドの垣根を越えてさまざまなエフェクターの特徴や使い方、組み合わせ方などを紹介しています。著名なミュージシャンに出演していただくこともありますが、企画から出演交渉、収録、編集まですべて一人で手掛けています。そのことをお話しすると、驚かれることが多いですね。

261028_kt_work02.jpg
YouTube「本気でLUNA SEA再現してみた」企画の撮影風景

 YouTubeを始めたのは、楽器を始めた人が、疑問を解決できる場所をつくりたいと思ったからです。せっかく楽器を始めた方が、わからないことにつまずき、諦めてしまうのはもったいない。情報を届けることで、楽器業界の盛り上がりの一助になればと思っています。

機械好きの少年から音の専門家へ。 原点は関大・軽音楽部

—音楽や機械に興味を持ったのは、いつ頃からですか。

 昔から機械いじりが好きな子どもでした。ゴミ捨て場にある家電なんかを嬉々として拾ってきては解体したり組み立てたりして遊んでいました。私にとって、それはゴミではなくお宝だったんです。映画会社で音響の仕事をしていた祖父の影響もあり、音響機器はずっと身近な存在でした。中学卒業後は、電気工学科のある高等専門学校へ進み、その後、もっと幅広い分野を学びたいと思い、関西大学総合情報学部に編入しました。

261028_kt_work03.jpg

—関西大学では軽音楽部に所属されていたそうですね。

 もともと楽器やバンド活動をしていたこともあって、大学入学を機に軽音楽部(軽音1部)へ入部しました。高槻キャンパスでの授業を終えると、部室のある千里山キャンパスまで移動する日々。関大生ならご存じだと思いますが、かなりの距離です。それくらい音楽に熱中していました。
 印象に残っているのは、熱心に練習に励む先輩たちの姿です。みんな驚くほど上手いのに練習を欠かさない。バンドでは互いに意見をぶつけ合いながら、より良いものをつくろうとしていました。そんな先輩たちの姿を見て、私自身の音楽に対する姿勢も変わりました。軽音楽部を通じてさまざまなジャンルの音楽に触れられたことも大きな経験でした。今、幅広いジャンルに対応した製品をつくれているのも、その経験があるからだと思います。

261028_kt_work04.jpg
学生時代、冬の定期演奏会にて演奏する今西さん

—当時からエフェクターをつくっていたのですか。

 つくっていました。自作した機材を学園祭のステージでも使いました。ただ、当時はそれが仕事になるなんて、まったく思っていませんでした。好きだから、「もっとこういう音を出したい」「なぜこうなるんだろう」と調べ続けていただけなんです。

チャンスの瞬間にどう乗るか。 「好き」を仕事にする挑戦

—趣味だったエフェクターづくりが、仕事になったきっかけを教えてください。

 大きな転機となったのは、友人から「エフェクターのコンテストがあるから出してみたら?」と勧められたことです。初めて応募した「第4回エフェクタービルダーズ・コンテスト」で優勝し、それをきっかけに、2017年にLimetone Audioを立ち上げました。
 優勝特典として、楽器店で商品を販売できる機会を得たのですが、そこで待っていたのは「自分で商品をつくって、納品する」というハードルでした。エフェクターはすべて手作業で制作するうえ、当時は生産体制もなく、月に数十台納品するのは至難の業でした。それでも「これは絶対にチャンスだ」と考え、必死に体制を整えたことを覚えています。人生には、「これは掴みに行くべきだ」と感じる瞬間が訪れることがあります。そんなとき、できない理由を並べるのではなく、どうしたらできるかを考えて動いてみる。そうすることで、思いがけない未来につながっていくと改めて感じています。

261028_kt_work05.jpg

—「好きなことを仕事にする」うえで、意識していることはありますか。

 自分の「好き」だけにとらわれず、使う人の要望に耳を傾けることを大切にしています。自分の個性と世の中のニーズが、いいバランスで掛け合わさったときに、多くの人に愛される商品が生まれると思います。
 そして、つくったものをどう伝えるかも、同じくらい重要です。私の場合はYouTubeを通じて音楽に対する姿勢やノウハウを広く発信できたことが、結果的にLimetone Audioというブランドの信頼にもつながった気がします。

ライバルも、バンド仲間も。出会いが可能性を広げてくれる

—コンテストでともに優勝した北田駿一さんとは、現在、一緒に仕事をされているそうですね。

 滋賀発のエフェクターブランド「KarDiaN」の北田さんは、当時から若手の中でも特に優れたビルダーで、すばらしい作り手です。コンテストを機に知り合い、最初は良きライバルという関係でしたが、現在は製作工程の一部をお願いする、心強いパートナーです。

261028_kt_work06.jpg

—関西大学で出会った仲間とは、今も交流がありますか。

 一緒にバンドをやっていた仲間とは、卒業後も交流があります。「紅蓮華」(LiSA) の作曲者でシンガーソングライターとして活躍する草野華余子さんや、「ポケットモンスター」シリーズのゲーム音楽を手がけている作・編曲家の景山将太さんも関西大学で得た仲間です。草野さんが学生時代に作ったオリジナル曲の音源では、僕がレコーディングやアレンジをサポートして、アルバムでは景山くんが鍵盤を弾いてくれました。

—今、関西大学で学ぶ学生にメッセージをいただけますか。

 振り返ってみると、友人から紹介されたコンテストがキャリアの転換点になったり、人とのつながりから新しい道が開けてきたことが多かったと感じます。とくに関大はいろんな道に進んでいる人が多く、人材の宝庫だと感じます。しっかり学んでしっかり遊ぶ。そして自分の可能性を探る。後輩たちを見ていると、今も昔もそんな学生たちが多いような気がします。好きなことがすぐ仕事になるとは限りません。それでも、興味を持ったことは徹底的にやってみてほしいです。わからないことを調べてみる。誰かと一緒にやってみる。そうした一つ一つの積み重ねがチャンスにつながると思います。

261028_kt_work08.jpg
軽音Ⅰ部部長の大沼さんと今西さん

—今後挑戦したいことをお聞かせください。

 今後もっと力を入れていきたいのは、Limetone Audioの海外展開です。ただ、新しいことに挑戦するのと同じくらい、今やっている仕事を「普通に続けること」も大切に考えています。Limetone Audioを始めて約10年、ひとつのことを安定して長く続けることこそ本当に難しいことだと実感しています。手にしたチャンスを未来に広げていくためにも、遠くまで歩いていけるだけの体力をつけたい。心身ともに健康で、常に未来を見据えながら仕事を続けていきたいと思っています。

261028_kt_work12.jpg


教えて!働く関大人

—Limetone Audioのエフェクター

 Limetone Audioのエフェクターはつくり手がこだわりを持って設計した音を手作業でくみ上げる「ハンドメイドエフェクター」。鳴らした音がやまびこのように繰り返される「buddy」や、音を歪ませる 「JACKAL」 など、組み合わせることで自分だけの音の世界をつくっていけるのがエフェクターの面白さです。

261028_kt_work10.jpg
楽器店に並ぶLimetone Audioのエフェクター

—ある1日のスケジュール(YouTube撮影のある日)

   7:30 スタジオ入り
 10:00〜12:00 撮影準備
 13:00 ゲスト入り
 14:00 撮影開始
 17:00 片付け・データ整理

—リフレッシュ方法

 最近、熱中しているのが筋力トレーニングです。空いた時間に運動するのではなく、忙しいときでもトレーニングの時間を確保するよう心がけています。仕事を長く続けるためには健康な身体が欠かせないと考え、運動だけでなく、食事や睡眠にも気を配っています。身体を整えることが、結果的にリフレッシュにもつながっています。

ad6ab1cdea72ff00825832bd47130d600e25fd7c.jpg

—今西さんから関大生へのメッセージ



YouTubeチャンネル「今西 勇仁」

エフェクターブランド/サウンドデザイナー
Limetone Audio
今西いまにし 勇仁ゆうじんさん

2004年 総合情報学部卒業
京都府 舞鶴工業高等専門学校出身