—店内にはアパレル商品やジビエを使ったドッグフードも。確かに「銃砲店らしくない銃砲店」です。
狩猟や競技射撃に携わる人口は、約50年前をピークに減少の一途をたどり、現在ではその約6割が60歳以上。10年後、20年後を見据えたとき、若い世代に射撃の魅力を伝える必要があります。でも、銃砲店って正直入りにくいイメージがあるでしょう。だからまずは、気軽に足を運べる"きっかけ"をつくりたかったんです。
琵琶湖に面した滋賀県大津市に、「銃砲店らしくない銃砲店」をうたうユニークな店があります。1923年(大正12年)創業、100年以上の歴史を持つ「濵﨑銃砲火薬店」です。「狩猟や射撃の魅力をもっと多くの人に伝えたい。そして、その体験を通じて、自分が愛する滋賀の素晴らしさも広めたい」—そんな想いを胸に、3年前に家業を継いだ次期社長・濵﨑航平さんは、店を拠点に新たな挑戦を続けています。
狩猟や競技射撃に携わる人口は、約50年前をピークに減少の一途をたどり、現在ではその約6割が60歳以上。10年後、20年後を見据えたとき、若い世代に射撃の魅力を伝える必要があります。でも、銃砲店って正直入りにくいイメージがあるでしょう。だからまずは、気軽に足を運べる"きっかけ"をつくりたかったんです。
その思いから、「銃砲店らしくない銃砲店」というコンセプトのもと、オリジナルのアパレル商品を展開し、誰もが立ち寄りやすい空間づくりに取り組んでいます。店に入ったお客さんは、『Tシャツが気になったから...』って言えるでしょう。
さらに今年7月には、店舗の3階にクレー射撃のシミュレーター体験スペースを新設しました。今後は、ジビエ料理の教室や狩猟文化に関するトークイベントの開催も予定しています。
大学進学を機に大阪へ通うようになってから、同級生に「滋賀って何があるん?」と尋ねられることが増えました。そのたびに「めっちゃ、ええとこなんやで」と説明するのですが、言葉だけではうまく魅力が伝わらない。滋賀の良さって、実際に暮らしてみないと実感しづらいんです。そんなやりとりを重ねるうちに、「自分は滋賀のことが好きなんや」と気付きました。
ではその魅力をどう伝えれば良いのか?ちょうどドキュメンタリー番組を制作するゼミに所属していたこともあり、「やっぱり映像だ」と思ったんです。そこでもっと腕を磨こうと決意し、修行のつもりで東京に出ることにしました。
月400時間も働いて、過労で体調を崩してしまったんです。実家に戻っても、1カ月ほどはダラダラと過ごしていました。特に目標ややりたいことが見つからなかったため、ひとまず家業を手伝うことになりました。
4代目である父は長男だったため家業を継ぎましたが、本当はほかにやりたいことがあったそうです。僕は3人兄弟(濵﨑さんは次男)ですが、父には昔から「子どもに無理に継がせたくない」という思いがあったようで、家業について話をされることはありませんでした。だから正直、どんな商売をしているのかよく分かっていなかったんです。就職活動の時に「後を継ぐ」という選択肢が頭をよぎったこともありましたが、「あまり儲かりそうにないし、やりたくないな」と思いました。
実際に店を手伝うようになると、銃についての知識がなければ、お客さんに商品を説明することすらできない。そこで銃砲所持の許可を取り、初めてクレー射撃を体験してみたら......これが驚くほど面白かったんです。
クレー射撃で使われる散弾銃の価格は新品で40万円ほど。オリンピックなどで使われるハイエンドモデルでは300万~400万円するという。ただ、中古なら10万円程度で購入可能。「費用感でいうと、ゴルフと同じくらいです」(濵﨑さん)。銃を所持するには「銃⼑法」に基づいて都道府県公安委員会から所持許可を受ける必要があるが、ある程度勉強すれば学科試験をクリアできるという。
クレー射撃は、「クレー」と呼ばれる素焼きの皿を空中に飛ばし、それを散弾銃で撃つ競技です。クレーが割れた瞬間の爽快感と達成感は、ほかのスポーツではなかなか味わえません。加えて、「日常生活では触れることのない実銃を撃つ」という、ある種の特別感もある。最初の一発は、心臓が高鳴るほど緊張しました。でも、それは体験してみないと分からない感覚なんです。
そのとき、気が付いたんです。僕にはずっと「滋賀の魅力を伝えたい」という想いがあった。だったら、この「銃」というコンテンツを活かして、滋賀を盛り上げることができるのではないか、と。
しかも、自分には家業という経営資源があるわけです。僕が「一から街づくりを始めます」と言ったところで、一人でできることには限界がある。でも、この店には、長年にわたって築かれてきた人脈、培った知識や技術がある。それらを活用すれば、自分にもできることがあるかもしれない。家業を継ぐことに対する不安はもちろんありました。けれど、その時はじめて「家業を継ぐ理由」ができたように思いました。
だから、まずはみなさんにきっかけを提供することが大切だと考えています。それはジビエ料理を味わうことでも、サバイバル体験をすることでも構いません。最終的には、狩猟やクレー射撃に興味を持ってもらえれば、とても嬉しいです。実際に、ジビエ料理をきっかけとして狩猟を始めた女性もいらっしゃいます。
やりたいことはたくさんありますが、その一つが琵琶湖でのピクニック。湖岸にシートを広げて、ジビエを使ったハンバーガーやおにぎりを楽しんでもらう。そこにガイドを招いて、滋賀の魅力を語ってもらうのも面白いでしょうね。
毎日がおもしろくて仕方ありません。 仕事でもプライベートでも、僕の判断基準はただひとつ—「楽しいかどうか」。自分自身がワクワクしているからこそ、その魅力を人に伝えられると思うんです。
「アトツギ甲子園」という、全国の後継ぎたちが新規事業のアイデアを競う大会に出場するようになってからは、アトツギの仲間も増えました。昼間は店番をしているので、閉店後にそうした仲間や街づくりに取り組む人たちに会いに行っています。
実は、大学生になるまで夢というものがありませんでした。
小学校の卒業文集でも「将来やりたいこと」を書けなかったんです。
でも今は、「狩猟や射撃、滋賀の魅力を多くの人に伝えたい」という明確な夢ができて、やりたいことが山ほどあり、体が足りないくらいです。
中小企業・小規模事業者の後継者が、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競うピッチイベント「アトツギ甲子園」(中小企業庁主催)。濵﨑さんは、第5回大会において近畿大会を勝ち抜き、滋賀県から初めてとなるファイナリストに選出された。また、2025年7月には第6回大会に向けて新設された「アトツギ甲子園地域アンバサダー」に任命されるなど、若手後継者の先頭を走る一人として活躍の場を広げている。
大切なのは「何をやりたいか」だと思います。
「やりたいこと」が明確にあって、それを最短で実現する方法を模索したとき、上手に活かせば家業は最高の資産になるんです。
先ほどもお話ししたように、家業には資産も人脈も経験も備わっています。
だから、家業を単に継ぐのではなく、むしろ「乗っ取る」くらいの気持ちで挑む。知り合いの後継ぎたちも、多くが何かしら「やりたいこと」を持っていますね。そういう人のほうが、義務感だけで家業を継いだ人よりも魅力的ですし、商売も成功している印象があります。
仕事とは関係ありませんが、実はベッドにはかなりこだわっています。やりたいことが多すぎて、どうしても睡眠時間が短くなりがちなんです。だからこそ、限られた時間でしっかり疲れを取るために、睡眠の質をとことん追求しています。
最近、大手航空会社のファーストクラスで使われているというムートンシーツを使ったベッドを購入しました。無重力の中に浮かんでいるような寝心地で、これまでにない快適さを実感しています。
6:00 商品配達
10:00 開店、店番
18:00 閉店
19:00 祖母と夕食
20:00 アトツギ仲間との会合など
やっぱり一番の趣味は射撃ですね。月に2回ほど、全国各地で開催されているクレー射撃の大会に出場しています。
今年6月には、福岡県で行われた日本クレー射撃協会の大会で自己ベストを更新し、6位に入賞することができました。この結果、全日本選手権への出場権を獲得し、さらに、2032年ブリスベンオリンピック出場を目指す「ネクストアスリート(次世代強化対象)」にも選んでいただきました。