第2回国際シンポジウム
総括討論 要旨
西平等(関西大学法学部准教授)
総括討論の冒頭で、マイノリティ保護と人権概念との関係に関する西主幹の問題提起が行われた。西主幹は、それぞれの報告内容に触れつつ、次のような趣旨の問題を投げかけた。「マイノリティ保護にとって、人権概念が重要な基礎であることは言うまでもない。しかし、人権概念ののみで十分であるのか、ということを敢えて問うてみたい。第一に、人権とは、原則として、国家を名宛人とするものである。国家は、普遍的な人権保障という制約によって、マイノリティを差別することを禁止される。しかし、マイノリティ差別は社会においても存在しているのであって、社会におけるマイノリティ差別を除去するために国家が私的領域にいかに干渉しうるか、という問題はなお残されている。第二に、マイノリティ保護のための特別の措置は、すべての人に等しく適用されるべき人権に抵触する場合がある。第三に、マイノリティ保護は、不可避的に、集団的なアイデンティティという側面を持ち、それゆえ、すくなくとも伝統的な見解によれば個人のみに属する人権の保護とは異質である。集団の自治や集団の権利がマイノリティ保護においてはしばしば求められるが、それが、個人の人権と抵触する場合がありうるだろう。マイノリティ保護を構築するにあたって、人権概念を再構成するのか、あるいは別の種類の言説を組み立てるのか、ということを論じるのは意義のあることだと思う」。
かかる問題提起について、さまざまな観点から、補足や応答が行われた。とりわけ、「マイノリティ問題とは何かということを理解するためには、それがいかなる解決・目標を目指すのか、すなわち、万人が平等に取り扱われる社会を目指すのか、多様性を維持・尊重する社会を目指すのか、という観点が必要である」(安武主幹)、「社会的・教育的に遅れた階層の法的保護を重視してきたインド憲法は、西欧とは異なったマイノリティ概念を発展させてきた」(シン教授)、「マイノリティは、ときに強い政治的な影響力を持ち、特別な権利を特権的に獲得することに成功しているという事実から目をそらしてはならない」(蔡研究員)、「マイノリティは、絶対的な概念ではなくて、相対的な概念だが、にもかかわらず、法律家はマイノリティ保護に努める必要がある」(熊裁判官)など、それぞれの立場からの興味深い主張が行われ、相互に敬意を払いつつも、真剣な討論が行われた。
(孝忠延夫氏、西平等氏)