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第2回国際シンポジウム

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紀要

 

第2回国際シンポジウム
国別報告セッションIII 要旨

辻 雄一郎(駿河台大学法学部講師)

リドワン・マンスユル裁判官は、インドネシア共和国のパタム地方裁判所の所長である。彼は、「インドネシア法におけるマイノリティ問題としてのドメスティックバイオレンス(DV)」について議論した。


(リドワン・マンスユル氏)

ドメスティックバイオレンスは、女性に対して物理的、性的、心理的な苦痛を与える行為をいう。本行為には、家庭の放棄、脅迫、強取、強要など刑罰法規に触れる行為も含まれる。
ドメスティックバイオレンスは、独自の特徴を備えており、被害者と加害者が家庭内に存在しており、当事者は父親、母親、子どもという地位に立つ。被害者と加害者の間の力関係ゆえに引き起こされる特定の暴力とも呼ばれることがある。

リドワン裁判官によれば、ドメスティックバイオレンスの根源は、社会における文化なのかもしれない。1933年の国連宣言は、女性に対するあらゆる暴力を廃止すべきであるという声明を発したが、インドネシアでは、いまだに男性優位の文化が残っている。インドネシアのコミュニティは、パターナリスティックな性質を備えており、女性や子供は家族の名誉の象徴として位置づけられる。家庭内の問題が公になることは不名誉なことであるとインドネシアでは理解される。

ドメスティックバイオレンスは法的、社会学的、心理学的、文化的そして経済的側面を備えた多元的な問題である。インドネシアの統計は、ドメスティックバイオレンスの認知数が年々増加していることを示している。

インドネシア政府は、2004年にドメスティックバイオレンスを規制する法律を制定した。本法は、インドネシアの古い刑罰制度を利用しており、懲役刑が科せられる。この2004年法に対して、社会において賛否両論があった。リドワン裁判官は、本法の立法経過を検討した。例えば、経済的暴力という文言が、家庭放棄(household abandonment)に置き換えられている。これは、家庭内の要保護者に対して保護義務のある人が、生活を保護する義務を放棄する行為をさす。

紆余曲折を経た本法に対して、リドワン裁判官は、イリアント教授(インドネシア大学法学部)同様、楽観視していない。ドメスティックバイオレンスでは、多くのバイオレンスは刑事事件に発展する場合よりも、結婚や離婚の背後に隠れてしまっている。また私人間の問題に刑罰制度を持ちこむことにも限界があるかもしれない。古典的な刑罰法規制度に対して制度的パラダイムを迫る点で、インドネシアのドメスティックバイオレンス法は、斬新であるのかもしれない。2004年法は、1997年以来、マイノリティの運動によって制定への動きが加速化された社会背景を見逃すことはできない。

最後に、リドワン裁判官は、ドメスティックバイオレンス法に一長一短を認めつつ、本法がマイノリティに関する事例の一つを特徴づけ、本法の考察が人類の持続的発展に影響を及ぼすものということができるかもしれないと締めくくった。
討議では、インドにおける少女の結婚と家庭内暴力について、マーヘンドラ・シン先生から言及され、インドにおける共通の問題を意識することができた。

 

王東裁判官は、中華人民共和国北京市第二中級人民法院に所属しており、「中国原稿立法及び司法における社会的弱者グループ対する特別保護」について検討した。


(王東氏)

王裁判官によれば、「マイノリティ」は、相対的な概念であって、一般には、政治、経済、文化、生理、健康面で脆弱な立場にあるものをさす。社会的に弱い立場にある人々に対して中華人民共和国では、立法、司法が特別の保護を与えている。

現行法では、一般法と特別法の関係にあたり、女性、消費者、労働者などに特別法を通じて権利を付与している。王裁判官は、1990年代以降の主要な法令をそれぞれ検討した。例えば中華人民共和国婚姻法(2001年)、中華人民共和国労働法(1994年)、中華人民共和国労働合同法(2007年)、中華人民共和国道路交通法(2003年)などが挙げられる。

例えば、婚姻法34条によれば、女性の妊娠期間において、出産後1年以内あるいは中絶後6カ月以内に、男性配偶者から離婚を申し出ることはできない。同法2条は、女性の政治的、経済的、文化的、社会的に男性と平等の権利を享有することを確認し、3条は、本法の権利を保障することは、社会の共同責任であると述べている。

次に、王裁判官は、司法において医療過誤、環境汚染、消費者取引などの分野で、立証責任の負担を軽減したりすることで、社会的に弱い立場にある人々に救済を与えてきたことを検討された。

例えば、道路交通法では、自動車と歩行者の交通事故では、強制保険を限度に、その超過分を運転者が負担する。しかし、当事者に過失がある場合は、負担が軽減される。中華人民共和国でも、不法行為法では、侵害行為の存在、損害の結果、被告の行為と損害との因果関係、行為者の主観を原告は立証しなければならない。しかし、医療過誤訴訟では、患者の立証責任が軽減されている。環境汚染や労働関係における使用者と被用者の間の訴訟も同様である。裁判所は、具体的状況に応じて、証拠、事情、基準を調整しているということができる。

社会的に弱い立場にあるものは、実体的公正を追及する結果、法律上の保護を与えられなければならない。中華人民共和国では、その視点を必要としている。
(本概要をまとめるにあたって林小英さんの助力を得た。)


(王東氏通訳:蔡孟翰氏(千葉大学大学院特任准教授)


(辻雄一郎氏)

基調講演 要旨
国別報告セッションⅠ 要旨
国別報告セッションⅡ 要旨
国別報告セッションⅢ 要旨
総括討論 要旨 

 


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