KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

まちづくりに生命の息吹を吹き込もう!GISから公益事業評価ツールまで

研究

市民のナマの声と理論構築
/環境都市工学部 都市システム工学科 社会資本計画研究室 北詰恵一教授

 2時間近くに及ぶインタビューの中で北詰教授が最も目を輝かせたのは、トルコのイスタンブールを訪ねた時の印象を聞いたときです。ヨーロッパとアジアの歴史と文化がドラマティックに交錯する、人口1400万の巨大都市の息吹を、まるで子どものように目を見開き、口から泡を飛ばすように生々しく語る北詰教授。地域に足を運んで調査やインタビューを重ねながら、データや数式を駆使して構築していくまちづくり理論には、こうした熱い想いが裏打ちされています。

生命感のない街づくりはやめよう

 「北詰教授が学会でイスタンブールを訪れたのは13年ほど前です。大阪府の3倍くらいの面積に1400万人が暮らす巨大都市の躍動感に圧倒されたといいます。「どこに行っても人がウワーっとあふれ、立ち止まって話したり、歩き回ったり。どこも生き生きして、人がワチャワチャ、ザワザワしていたんです」。北詰教授もひたすら歩き回りました。旧市街と新市街を結ぶ「世界最古」という地下鉄や最新鋭のLRT(次世代型路面電車システム)に乗り、「そのコントラストがまたすごい」と目を輝かせます。

 そして、この「光に反応する薬剤」の開発に用いられる物質の一つが錯体です。錯体とは金属を主とする原始・イオンの周囲に、配位子(はいいし)と呼ばれる、イオンあるいは分子などが結合した「金属の親戚」です。つまり錯体を構成する金属の種類によって様々な親戚が生まれるのですが、その中からがん治療に適した化合物を探ります。例えば、抗がん剤として広く用いられているシスプラチンは白金の親戚ですが、脱毛などの副作用があります。

 研究者になってからはもちろん、それ以前の大手シンクタンクでまちづくりに携わってきた頃から、人の存在が感じられる"生き生きとしたまちづくり"を信条としていた北詰教授は、イスタンブールの体験でその思いを改めて強くしました。めざすのは、人が自然と住宅街や公園、商店街に顔を出し、コミュニケーションが生まれるまちづくり。専門的な言い方をすると、「外出頻度」「外出行動」の活発な街ということになります。その実践的な取り組みとして、JR岸辺駅前に移転する国立循環器病研究センターや吹田市民病院を中心とした産学官民連携による「健都(北大阪健康医療都市)」や、摂津市内の商店街実態調査などのプロジェクトが現在展開されています。

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GISで未来の可能性を

 まちづくり、都市計画が北詰教授の専門分野で、その研究に活用されるツールのひとつがGIS(地理情報システム)です。GISにはデータを入力するデータベース機能と解析機能、そして解析した結果を画面上で見せる表示機能があります。例えば、北詰教授の研究テーマのひとつである「土地利用モデル」(「人はなぜ引っ越すのか」)では、特定の地域の10年後、20年後、30年後といった人の流れを即座に画面上に提示することができます。また、「郊外から都心に引っ越しをしたときに補助金を出す」という政策を行う場合、その政策を「する・しない」それぞれのケースの人の動きをGISの地図上で視覚的に表すことも可能です。

 「このように、GISを用いてシミュレーションを行ったり、時系列のデータを表現したりして、複数ある未来の可能性を提示します。行政や市民の方々に、具体的な人の流れをお見せすることで、より良いまちづくりに生かせるのではないかと日々研究を進めています」と北詰教授。高度経済成長期はみんなが同じ目標をもって国全体が成長してきましたが、現在は個々のニーズが多様化している時代です。そんな時代だからこそ、細かな条件を設定し、一世帯ごとの移り変わりをシミュレーションできるGISを用いた研究には、大きな意義があるといえるでしょう。

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市民の幸せ感覚から公共事業の評価ツールを開発

 北詰教授の研究活動のテーマのひとつに、公共事業評価ツールの開発があります。これは会計学を応用したツールで、企業会計は収益や支出といった"お金の流れ"を表しますが、公共事業評価ツールでは収益を「市民の便益」、支出を「市民の犠牲量」で計上します。そこに経済学の理論を援用した係数を掛け合わせ、「幸福の度合い」を価値に換算。実際にかかった支出と見比べて、損得を評価するというものです。

 公共事業は経済的な側面だけでは成否を計れないところがあり、同ツールを利用することで、より現場の実情に即した評価を示すことができます。例えば、廃校になった小学校の教室をNPO法人に貸し出して活動ルームとして利用したとします。経済的な損益はすぐに出ますが、それにプラスして「NPO法人に活動機会を与える幸せの度合い」「高齢者が子供と触れ合う機会が設けられた喜び」といったものも価値に換算し、経済的にはマイナスだけど市民の幸福度を考えるとプラスになるといったことを可視化するわけです。つまり、お金だけでは割り切れない幸福度や満足度を数値化しようとするわけですが、難しいのが「幸せ」を感じる尺度は人それぞれ違うというところ。ただ、その簡単には数値化できない難しさが、北詰教授の研究のやりがい、楽しさにもなっているようです。

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