KANDAI HEADLINES ~ 関西大学の「今」

オンライン協働学習「COIL」で越境的国際教育を活性化
グローバル人材の視座をICTツールの活用で獲得

グローバル

/国際部 池田佳子教授

 日本国内にいながら、海外の大学生とともに学ぶ。そんな夢のような国際連携学習を可能にするのが、海外とのオンライン協働学習「COIL(コイル)」だ。関西大学は全国の大学に先駆けてCOIL型教育の実践に取り組み、現在12カ国、30以上の大学とのネットワークを持つ。さまざまなICTツールを駆使しながら学ぶ学生たちは、どのような成果を得ているのだろうか。国際部・グローバル教育イノベーション推進機構(IIGE)副機構長の池田佳子教授が語った。

国際連携学習の注目メソッド「COIL」

 COILは「Collaborative Online International Learning」の略称。SkypeやZoom、FacebookなどのICTツールを用いて、海外の大学に属する学生同士がバーチャルに連携しながら、さまざまな分野のプロジェクトに取り組む、能動的な学習方法です。2004年にニューヨーク州立大学が開始して以来、授業に取り入れる大学は世界中で増え続けています。日本では、2014年に本学が全国に先駆けて導入しました。

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 2014年といえば、20代の8割程度がスマホを持つようになっていた頃です。学生はSkypeやFacebookなどのIDを持ち、ICTツールに慣れ親しんでいる世代。普段は遊びで使っているようなSNSを学びのツールとして使うことが目新しかったこともあり、COILを取り入れた授業は学生から大変好評でした。教育的効果も高く、今後の発展が期待できたため、本学の国際教育の柱の一つとして打ち出すように。徐々にネットワークを広げ、今では学内で年間20~25科目ほどのプロジェクトが実施されています。

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※本学とClass2Class社(米国スタートアップ)で共同開発したCOILのためのオンラインプラットフォーム。

多国籍の人々と協働する力は、次世代社会に欠かせない

 例えば外国語科目や語学留学は、外国語の運用能力を高めることが目的です。一方、COILの目的は外国語をツールとして世界中の学生と協働学習することです。一つの課題にチームで取り組む学習形態を通して、相互理解を深め、対人スキルを磨きます。

 これからのグローバル社会では、バーチャルなオフィスで多国籍の人々がともに働くことも珍しくありません。COILは、そんな次世代社会を模擬体験できるものだと言えるでしょう。近い将来に必須となるスキルやマインドを養うことができるのは、COILの最大の魅力です。

 もちろん結果として英語力、特に口頭のコミュニケーション力も身につきます。英語の会話能力テストOPI(Oral Proficiency Interview)を、COILに取り組む前後で受験してもらうと、ほとんどの学生が1段階レベルアップしていました。英語が苦手で授業後に泣いていたような子が、数年後には留学する。そんな実例もあります。

コロナ禍で見直されるオンラインの価値

 新型コロナウイルスの流行は、全く歓迎すべきものではありません。しかし、コロナ禍で大学のオンライン授業が一般化したこともあり、世界ではますますCOIL型教育への注目が高まっています。従来の留学の代わりにCOILを、という動きもありますが、COILの活用方法はそれだけではありません。留学よりも心理的ハードルが低く、コストもそれほどかからない。一度に複数の国とのコンタクトが取れたり、社会情勢が不安定な地域の学生と交流を持てたりする。オンラインだからこそできることも多く、留学とはまた違ったメリットがあると言えるでしょう。

 本学は、2018年に文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」の一環として後押しを受け、COIL型教育を全国に普及させるプラットフォーム役を担っています。今集まった関心を一過性のものとせずに、COILを定着・発展させていくことも、私たちの役目だと考えています。

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事例紹介:国境を越えたチームで協働し、課題に取り組む

 今年の夏に実施した、COILの具体的な事例を一つご紹介します。アジア太平洋大学交流機構(※)加盟校の学生を対象とした、SDGs(※)がテーマのプログラムです。当初は30〜50名の定員を想定していたのですが、応募が殺到し、結果的に140名ほどの学生が世界各国からオンライン参加。その中には、新型コロナウイルスの影響で留学の道が絶たれた学生も多くいました。彼らの熱意は中途半端なものではありません。世界的困難の中でも「学びたい」と強く思っている学生がこんなにたくさんいるんだと、とても頼もしく感じました。

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 本プログラムでは、90分×5回のレクチャー、それと並行して小グループで課題に挑戦してもらいました。課題は、2週間でSDGsに関する各国のケーススタディをまとめ、プレゼンするというもの。学生たちは、授業時間外にもディスカッションする必要がありました。彼らは、ICTツールを使って頻繁に連絡を取り合い、役割分担を決め、プレゼンの準備をします。イギリス、中国、アメリカ、メキシコ、チリ、タイなど、参加学生の国籍はさまざまです。文化背景や時差の壁、時には摩擦もありますが、それらをうまく乗り越え協働する、そのプロセスこそがCOILの醍醐味であり、彼らにとって大きな学びとなったと思います。

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※アジア太平洋大学交流機構とは
アジア太平洋地域における高等教育機関間の学生・教職員の交流促進を目的として発足した団体。略称はUMAP(University Mobility in Asia and the Pacific)。アメリカ、中国、ロシア、東南アジアの各国など、2019年現在、36の国と地域が加盟している。

※「SDGs(エスディージーズ)」とは
「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、国際社会共通の目標のこと。2015年9月の国連サミットで採択され、17つの目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットから構成されている。

活躍の舞台は、世界に広がっている

 私は、学生の皆さんには「自分の活躍の舞台は世界だ」という高い意識を持って欲しいと思っています。今、日本の大学で学んでいるからといって、将来のキャリアまで日本国内に絞る必要はありません。世界中に就職先を求めることが、もっとスタンダードになっても良いと思います。あるいは国内で働くとしても、日本人とだけコミュニケーションをとっていればいいという時代ではなくなってくるでしょう。これからの時代に必要とされる、グローバル市民としての視座。それを大学在学中に身につけられるよう、COIL型教育や他のIIGEの施策でこれからもサポートしていくつもりです。

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池田 佳子/教授(国際部)
グローバル教育イノベーション推進機構副機構長。ハワイ大学でPh.D.を取得(日本言語文化専攻)。専門分野は国際教育、日本語・外国語教育、会話分析、コミュニケーション学。国内外における人の移動にかかわる実践研究(移民・移住・異文化接触コンテキスト)、大学の国際化に関する実践研究を進めている。