関西大学 人間健康学部

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イメージの力

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 私は月に2度、地域の高齢者と共にダンスをする機会をもっています。動きを覚えて練習する場ではなく、「創って踊るダンス」を経験してもらう場です。先日は、「支える・任せる」をテーマに、自分の体重を預けたり他者の重みを受け止めたりしながら動くという課題をやりました。
「何かイメージをもって動いてみてはどうでしょう?」という私の言葉に、参加者から出てきたイメージは、「蜂/朝顔の一日/くるくるひまわり/アメーバからの進化」等々。同じ動きの課題から、実に多くのイメージが想起されます。そしてそこから多様な動きが生まれます。

 最も興味深いのは、ある動きを、「運動」としておこなうとそれ程うまくできないのに、「イメージをもって」やると、実に伸びやかに身体が動いてしまうという事実です。たとえば、上体を反らす動きは、それを「運動」として行うと、高齢の参加者たちは少ししか身体を後ろに反らすことができません。しかし、朝顔の蔓(ツル)という「イメージをもって」動くと、知らぬ間に身体の動きは限界(と思っていた)地点を超えて、(本人ですら)思いも寄らぬところまでしなやかに反り、そして起き上がってくるのです。

 「イメージは、人の〈からだ〉の運動を起こさせコントロールする」といわれ、人はただ単に歩いたり走ったりしているのではなく、その場のイメージに合うように歩き、走っている*といいます。先の高齢者たちは、それぞれに鮮やかなイメージを思い描き、それに合う動きを探求する中で、無意識のうちに身体の可動域を広げ、無理や無駄のない美しい動きを生み出したと言えます。このような動きを目にするとき、イメージの力の不思議を実感します。

 さて昨日、世界文化遺産登録の国内候補に沖ノ島(「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群)が選ばれました。島全体が宗像大社沖津宮の境内というこの島は、今も数々のしきたりが残り、女人禁制だと聞きました。つまり私は島に入ることができません。

 イメージの力を発揮するチャンスです。玄界灘に浮かぶ神秘の島、神が宿るといわれる古代の自然を思い描き、この島のイメージを踊りにしたいと心が震えました。



引用・参考文献
藤岡喜愛「イメージの旅」日本評論社、1993.