「スーパースターの感性力」
ずっと以前のことになるが、私はテレビメディアの仕事をしていたこともあり、幸運にも「スーパースター」と呼ばれる方々にお会いする機会に度々恵まれた。
「スーパースター」といえば、昭和生まれの方々はまず「ON」を思い浮かべることだろう。王貞治さんのトークショーで聞き手をさせて頂いたときは、王さんのスタッフの方々と交わした何気ない会話が大変ご多忙なはずの王さんにまでしっかり伝わっていたようで、私がベストコンディションで仕事を遂行し、その後の活動にも良い形に繋がるような細やかな配慮がなされた素晴らしい環境が、私の知らぬ間に準備されていたことに感激した思い出がある。
私が「スポーツキャスター」という肩書で仕事を始めて間もない頃は、東京ドームでの取材の折に、バッティングケージの後ろで選手の練習をご覧になっていた長嶋監督が、真横にいながら緊張して何も聞けずにいた私の心を察して、独り言のように注目選手の調子を自ら語って下さったことが印象深い。
羽生結弦選手や浅田真央選手の言動がメディアでもよく取り上げられているように、若い世代の「スーパースター」もまた、競技パフォーマンスは勿論のこと、競技以外の場面での他の選手や観客に対する気遣い、さらにはインタビューの受け答えの素晴らしさが際立っている。
昨今はメディア対応に慣れた選手たちが増えてきたという背景もあるかもしれないが、僭越ながら、このような「スーパースター」たちに共通している根本的な性質は、まさに心理学者のマズローが提唱した「自己実現的人間」の特性そのものといえる。それは、純粋さや自然さの他(上田、1988)、一見相反するものと思われがちな冷静さと情熱、細部へのこだわりとおおらかさ、さらに自身のベストパフォーマンスの発揮(利己)が多くの人々を喜ばせること(利他)と同義であるという、二元性の超越を可能にしていることに象徴される。
感性研究を始めて十数年経ったが、以前、私は「心の深い領域において他と交感を行うことにより心のエネルギーを発揮して人間性を高めていく道徳性であり、調和、一体感をもたらす愛を生み、人間の苦痛を癒し、感動や幸福感、満足感を与える力を持った、いわゆる内面の感覚器官」を「感性」だと言ったことがある(志岐、2003)。人間が本来備えているこのような「感性の力」を最大限に発揮することで自己実現を果たし、その肯定的な影響力を社会に広く還元している存在だからこそ「スーパースター」なのだと、その「スーパースターたる所以」が、改めて理解されたのである。
引用・参考文献
上田吉一「人間性の完成 マスロー心理学研究」誠信書房、1988
志岐幸子「エリートジュニアサッカー選手の心理特性-アスリートの感性研究へのアプローチ-」早稲田大学大学院人間科学研究科博士学位論文、2003