関西大学 人間健康学部

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驚くべき出産、不妊治療の話

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201116日、衆議院議員の野田聖子さんの出産が報じられました。50歳という超高齢出産で、しかも米国女性から卵子提供を受けた体外受精による出産でした。第3者の卵子を用いた体外受精は日本では事実上禁止されており、彼女の妊娠の報告を聞いたとき、正直なところ私はかなり驚きました。

 

野田聖子さんは10年前から不妊治療に取り組む姿を公に見せてきました。前夫との不妊治療は途中断念されたものの、その後も養子縁組の検討も含め、様々な手段を用いて子どもという家族をもつことにこだわり続けているようでした。

 

2003年、子宮頚がんで子宮を全摘出した向井亜紀さんが、事前に冷凍保存していた夫との受精卵を用いて第3者の女性の子宮に受精卵を胚移植し、妊娠・出産してもらう代理母出産を行い、同様の議論を呼びました。法的には生まれた双子は向井さんの実子と認められず、養子縁組を経て、ようやく家族として戸籍に入ることができました。

 

彼女たちの闘いは、個人的な問題にとどまらず、社会的にも大きな影響を与えてきました。多くの夫婦(カップル)が不妊という思いがけない壁にぶつかり、肉体的精神的経済的にも大きな負担となる不妊治療に苦しんでいます。病気や遺伝上の問題などで、夫婦(カップル)間の妊娠や出産ができない、それでも、どうしても自分の子どもがほしいと願う人たちがいることを世間に知らしめました。

 

ただ、ふたりの子どもには遺伝上の母親や産みの親がいます。このような生殖医療技術を用いた出産について、子どもの福祉のために子どもに遺伝的な親を知る権利を保障するべきだとも言われています。また、倫理的な問題から代理母出産は今も日本の法律では認められていません。

 

技術的にはあらゆる可能性が開かれています。何がよくて、何がいけないのか、またそれはなぜなのかを考えることが必要です。例えば、他者の卵子や精子を用いて親が持ちたいと思う遺伝子を選択して子どもをつくることや、出産というあまりにもリスク負担が大きいことを他の女性に依頼することは、倫理的に許されるのか、ということを。

 

その上で、生まれてくる子どもの福祉を損なわないために、生殖医療技術を用いた出産における新たな法的枠組みを構築することが必要になっています。野田聖子さんの驚くべき出産を機に、国民的な議論を尽くしていくことが大切だと考えます。